リポート 写楽のデビュー作などそろい踏み 「大浮世絵展」江戸東京博物館で来年1月19日まで

浮世絵の代表的絵師5人の名作が一堂にそろう「大浮世絵展」が東京・両国の東京都江戸東京博物館で開かれている。喜多川歌麿、東洲斎写楽、葛飾北斎、歌川広重、歌川国芳の作品326点による「夢の競演」だ。来年1月19日まで。会期中、大幅な展示替えがある。
オールスターの華やかさ
5人の絵師に絞っただけではなく、それぞれの代表作に焦点を当てた、いわばオールスター戦のような趣だ。北斎は「冨嶽三十六景」や「諸国瀧廻り」、広重は「東海道五拾三次」と風景画・名所絵が並び、近年人気が急上昇の歌川国芳は「宮本武蔵の鯨退治」など武者絵が賑やかさを添える。



「世界一」の保存状態
有名な作品が並ぶというだけではない。国内外の優品を集結させたのもこの展覧会の見どころだ。浮世絵版画は明治時代の日本ではあまり顧みられず、ジャポニスム人気に沸く欧米に大量に流出した。現在でも、名作の過半は海外にあると言われる。今回、米メトロポリタン美術館、シカゴ美術館、ミネアポリス美術館など7美術館と1個人から、色の鮮やかさ、みずみずしさが目を奪う作品が海を渡って出品された。監修を務めた国際浮世絵学会の理事長、浅野秀剛さんが「とりわけ状態の良い作品を借りることができた」と胸を張るラインアップになった。
喜多川歌麿の美人画「青楼十二時(せいろうじゅうにとき) 続 子ノ刻(ねのこく)」はその代表格。ベルギー王立美術歴史博物館から出品されている「青楼十二時」の連作12点のひとつだが、余白に散らされた真鍮粉(しんちゅうこ)などが、フレッシュな生命感を漂わせ、いま摺りあがったばかりと錯覚させるほど。江戸東京博物館の学芸員、小山周子さんは「世界一クラス」と評する。

注目の写楽
そして白眉は東洲斎写楽のデビュー作を集めた一室=写真下=だ。寛政6年(1794年)に江戸の版画界に突如として現れた写楽。江戸三座と呼ばれた三大芝居小屋で上演された顔見世興行を題材に、28点の役者絵を描いた。それまでの穏やかで優雅な浮世絵の人物像とは全く異なり、大胆で切れ味が鋭く、かつ魅力的な人物描写。当代のスター役者が演ずる役になり切った姿を、黒雲母摺を用いた暗色を背景に上半身だけとりあげ、目や口を極端にデフォルメ(変形)して特徴を際立たせた。28点中27点を集め、一部は複数の摺りを並べて展示するという稀有な機会だ。
現在では市川海老蔵(えびぞう)を名乗った役者が後に市川團十郎を襲名するが、「市川鰕蔵の竹村定之進」の五代目團十郎は、團十郎を務めた後に鰕蔵(えびぞう)を名乗ったという。練達の名役者の風格が伝わってくる。

異なる摺りを見比べる
さらに同じ版の異なる摺りの作品が並べられ、狙いの変化を感じ取ることができるのも、この展覧会ならではの醍醐味だろう。たとえば「3代目大谷鬼次の江戸兵衛」は、12月8日までシカゴ美術館の所蔵品とベルギー王立美術歴史博物館の作品が隣り合って展示されている。同じ作品ながら、印象はずいぶん異なる。

会期中、役者が入れ替わるように合計326点の作品が「顔」を見せる。展示替えにしたがって顔ぶれも組み合わせも変わり、個々の作品の魅力が異なって見えるはずだ。何度か足を運びたくなりそうな「夢の宴」だ。
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2019年11月19日(火)~2020年1月19日(日) 東京都江戸東京博物館
2020年1月28日(火)~3月22日(日) 福岡市美術館
2020年4月3日(金)~5月31日(日) 愛知県美術館