ミレー、コローから印象派、エコールドパリの画家まで、フランス近代美術の主要画家の優品が並ぶ「印象派からその先へ ー世界に誇る吉野石膏コレクション展」が東京・丸の内の三菱一号館美術館で始まった。同コレクションは、通常、一部が寄託先の山形美術館(山形市)で展示されているが、東京でまとめて見られるのは貴重な機会。油彩68点、パステル4点の合計72点が公開されている。2020年1月20日まで。
「印象派、誕生」「フォーヴから抽象へ」「エコール・ド・パリ」という章構成にしたがって美術史の流れをたどることも出来れば、ピサロ、シスレー、ルノワール、シャガールらの作風を画家別に楽しむことも出来る。通常は作品保全のために借用は難しいとされるパステル(粉末顔料を粘着剤で固めた画材)作品も、ルノワール、ドガ、カサット、ピカソらの優品が並んでいる。
さまざまな鑑賞ができそうだが、印象派が中心とあって空や水面(みなも)をモチーフにした作品も多く、これら青、白を基調にした作品に注目して見るのも一興では? 次のような作品が一つの流れとなって目に入ってくるかもしれない。
印象派、誕生~革新へと向かう絵画~
ウジェーヌ=ルイ・ブーダン「アブヴィル近くのソンム川」 1890-94年頃 吉野石膏コレクション 印象派の影響がうかがわれる晩年の作。ブーダンは年少のモネに戸外制作を薦めるなど、海や空の明るい色合いにいち早く目を向けたが、後には逆に印象派の大胆な筆致などに関心を示したと言われる
カミーユ・ピサロ《モンフーコーの冬の池、雪の効果》1875年 油彩/カンヴァス 吉野石膏コレクション 雪をかぶった地面や木肌、澄んだ川面に、ピサロの繊細さ、確かな描写力が感じられる作品。この作品を含めてピサロの作品6点がまとめて展示されている
アルフレッド・シスレー 「ロワン川沿いの小屋、夕べ」 1896年 吉野石膏コレクション 「空の画家」とも呼ばれるシスレーは、貧困の中にあって、明るい空や雲、水面に映る木々など、心を和ませる情景を描き続けた
ピエール=オーギュスト・ルノワール《庭で犬を膝にのせて読書する少女》1874年 油彩/カンヴァス 吉野石膏コレクション そよぐ風や光の揺らめきが感じられそうな、ルノワール30歳代前半の作品だ。第1回印象派展が開かれた年に描かれた
クロード・モネ《睡蓮》1906 年 油彩/カンヴァス 吉野石膏コレクション モネが「睡蓮」の連作に本格的に取り組み始めたころの作品。水面に描かれたピンクがかった雲と蓮の花の色が共鳴するかのよう
ポール・セザンヌ《マルセイユ湾、レスタック近郊のサンタンリ村を望む》1877-79年 油彩/カンヴァス 吉野石膏コレクション 工業化を象徴する煙突と伝統的な教会の尖塔が、空と海の青に包まれるように描かれている。細部が省略された手前の岸の情景を含めて、すべてが造形的な調和の中で共存している
フィンセント・ファン・ゴッホ《雪原で薪を運ぶ人々》1884 年 油彩/カンヴァス 吉野石膏コレクション 画家を志して約5年。ゴッホは金細工職人から注文により、装飾画の下絵としてこの作品を描いた。雪原の向こうに赤い夕日が沈もうとしている。太陽は後にゴッホの重要な主題となる
フォーヴから抽象へ ~モダン・アートの諸相~
アルベール・マルケ「コンフラン=サントノリーヌの川船」 1911年 吉野石膏コレクション 「穏やかなフォーヴ(野獣)」とも呼ばれたマルケらしい柔らかな色彩と伸びやかな筆致による空と川がさわやか。土手を歩く人、吊り橋の馬車など細部にも目を奪われる
アンリ・ルソー《工場のある町》1905年 油彩/カンヴァス 吉野石膏コレクション 縮尺はでたらめだが、色調や形が呼応し合って絵画的な調和が生まれている。ルソーはアトリエを構えたパリ・セーヌ川左岸の風景を好んで描いた
この他、ヴラマンクの「村はずれの橋」(1911年)も見逃せない。冷たい色調や水面の整然とした筆致と、捻れやうねるような激しさが共存する作品だ。
エコール・ド・パリ~前衛と伝統のはざまで~
モーリス・ユトリロ《モンマルトルのミュレ通り》1911年頃 油彩/厚紙 吉野石膏コレクション 名高いユトリロの「白の時代」の一作。どんよりした空と、ニュアンスのある白い壁、道がパリの憂愁を漂わせる
シャガールは「バラ色の肘掛椅子」(1930年)。主題は肘掛椅子に向かって降りてきた浮遊する二人の男女だが、窓外の遠景も魅力的だ。神秘的なシャガールの世界に、さわやかな外気が流れ込んでくるような作品。会場で是非ご覧を。
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印象派からその先へ -世界に誇る吉野石膏コレクション
2019年4月9日~5月26日 名古屋市美術館
2019年6月1日~7月21日 兵庫県立美術館(神戸)
2019年10月30日(水)~2020年1月20日(月) 三菱一号館美術館(東京・丸の内)
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