リポート ”幻”の鏑木清方「築地明石町」44年ぶり一般公開。東京国立近代美術館で12月15日まで

今年6月に東京国立近代美術館(東京・北の丸公園)が収蔵したことが話題になった日本画家・鏑木清方(18781972年)の代表作「築地明石町」と姉妹作「浜町河岸」「新富町」の「三部作」の一般公開が始まった。「築地明石町」は長年にわたり所在不明だった“幻の名作”。(「44年ぶりの公開」の詳細はこちら) 同館が既に所蔵していた「三遊亭円朝像」(重要文化財)など鏑木の作品、特別出品の「鶴八」、日本画家・伊東深水による「清方先生寿像」と合わせて1526点が勢ぞろいした。新たに撮影された高精細画像も会場で展示され、清方の細部に至る描写をつぶさに確かめることが出来る。1215日まで。

一般公開された(左から)「浜町河岸」「築地明石町」「新富町」

明治の面影を求めて

大正から昭和へ時代が移る頃、東京は関東大震災(1923年)からの復興が進み、明治以来の風物が消えつつあった。神田生まれの「東京人」だった清方は、失われゆく明治の面影を惜しみ、かつての街の姿や人物を画題に取り上げるようになる。「築地明石町」は1927年、姉妹作2点と明治の大落語家を描いた「三遊亭円朝像」は30年の作品で、既に過去となった明治時代の人と街を精緻な筆で描いた。

髪の毛一本一本まで

第一の見どころは細部描写だろう。「築地明石町」のモデルの女性の細い毛は一本一本描き分けられている。着物の柄の描写も精緻きわまりない。作品を実際に見なければ分からないと思われる清方の美の世界だ。

(2019年10月31日 内覧会説明会での上映映像)

背景の歌舞伎絵看板も

妥協することなく突き詰める清方の姿勢は題材の細部にも表れる。「新富町」には、芸者が持つ蛇の目傘の右側に明治時代の新富座が淡く描かれているが、そこに掛けられている絵看板は「仮名手本忠臣蔵五段目」のもの。新富座での公演をふり返り、おそらく資料を手元に描いたものだろう。

1930(昭和5)年 絹本彩色・軸装 173.5×74.0cm 東京国立近代美術館 ⓒNemoto Akio

 

「新富町」の背景に描きこまれた絵看板(左)。右の浮世絵作品との類似からも「仮名手本忠臣蔵五段目」であることが確認できる (写真は内覧会説明会での上映映像)

 

半世紀前と変わらない色

清方の孫、根本章雄さんは「作品がいたみもなく、色も変わりなく保管されていた」と述べる。「幻」の作品の奇跡的な再登場といえそうだ。

「再発見の報には涙が出ました」と語る清方の孫、根本章雄さん(10月31日、東京国立近代美術館)

 

「三部作」とともに、東京国立近代美術館が所蔵する清方の作品はほとんどすべて展示されている。壮年期の清方の画業を振り返ることのできるミニ個展になった。

「明治風俗十二ヶ月」

特別出品「鶴八」

特別出品「鶴八」(制作年不明)は、小説家・川口松太郎の短編小説「鶴八鶴次郎」のヒロイン鶴八を描き、清方が川口に贈ったもの。1935年に川口が同作などで第1回直木賞を受賞したのを記念して贈られたともいわれる。テレビの鑑定番組での活躍で知られる中島誠之助さんの所蔵品で、東京国立近代美術館が「築地明石町」を収蔵したというニュースを聞いて、中島さんが寄贈を申し出た(会期中の11月18日に寄贈が正式に決定)。

「鶴八」(右)。ケース内は「築地明石町」に描かれた小紋柄を再現した着物と明治・大正期の羽織

 

「築地明石町」は「44年ぶりの再公開」だが、前回、鑑賞した人々は高校生でも既に還暦を超えている。多くの美術ファンにとっては事実上の初公開だろう。高精細映像で「予習」してから実作品を見れば、清方の絵筆の神髄を深く味わえるはずだ。東京国立近代美術館は2022年に清方の没後50年の回顧展を予定しているというが、まずはこの機会にご対面を。

鏑木清方 幻の《築地明石町》特別公開

2019年111日(金)~1215日(日) 東京国立近代美術館(東京・北の丸公園) 

重要文化財「三遊亭円朝像」(左)と「三部作」 単眼鏡で作品に見入る人も少なくない

 

同館では「窓展:窓をめぐるアートと建築の旅」も開催中。マティスやクレーの絵画から現代美術まで、窓に関わる多様な美術作品を一堂に集めている。

窓展:窓をめぐるアートと建築の旅

2019年111日(金)~202022日(日)東京国立近代美術館

(2019年10月31日撮影)

 

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