東京駅周辺の5美術館、「学芸員あるある」第2弾を開催

5館の学芸員による講演に続いて行われたクロストーク=9月21日、東京・丸の内の日本工業倶楽部で

 

「東京駅から歩いて訪れることのできる美術館」として、東京駅周辺にある私立 5 美術館 ──アーティゾン美術館(旧ブリヂストン美術館)、出光美術館、三井記念美術館、三菱一号館美術館、東京ステーションギャラリーは2010年から連携活動を進めてきました。

今年は新たに公式サイト「5MUSEUMS.TOKYO」も開設し、9月21~23 日には4 回目となる「アートフェス」も行われました。そのイベントの一つ、5館の学芸員による共同講演会も3回目を迎え、昨年の「真夏の夜の学芸員あるある物語」の第2弾として「のぞいてみよう!展覧会ができるまで」を開催。裏話を盛り込んだ本音トークが繰り出されました。

「ブリヂストン美術館」改め「アーティゾン美術館」

今年7月1日にブリヂストン美術館から名称変更し、2020年1月にオープンを控える「アーティゾン美術館」。島本英明さんは「お客様に、新しい美術館の誕生に立ち会っていただく」という意気込みで開館記念展「見えてくる光景 コレクションの現在地」(2020年1月18日~3月31日)の準備を進めていると語りました。

とはいえ、この時点では正式発表前のため、話したくても詳細を明かせない立場。「休館中も美術館の基盤であるコレクションの拡充に努め、より幅を広げるとともに各ジャンルの充実に努めました」と説明したものの、新たに収蔵した作品の紹介は一部に限られ、もどかしそうな表情が会場の笑いを誘いました。

「学芸員あるある」の開催後、アーティゾン美術館が10月1日に発表したプレスリリースによると、開館記念展は約2800点の石橋財団コレクションの中から初公開となる新収蔵作品約30点を含む約200 点の作品を選りすぐり、すべての展示室を使って2部構成で紹介。第1部「アートをひろげる」は近現代の東西の名品を一つの地平に並べて時間や空間を超えた美術の風景を一望し、第2部「アートをさぐる」では7つのテーマから美術の歴史の奥底に観客を誘います。新たに収蔵した作品には、ヴァシリー・カンディンスキー「自らが輝く」(1924年)をはじめ、メアリー・カサット、ベルト・モリゾの絵画などがあります。

なお、アーティゾン美術館への入館は「日時指定予約制」となり、11月1日午前11時から美術館の公式サイトのみで予約販売を開始する予定です。

「岸田劉生展」開催までの知られざるハプニング

東京ステーションギャラリーの田中晴子さんは、10月20日まで開催中の「没後90年 記念 岸田劉生展」の打ち明け話を時系列で披露しました。

2016年1月に学芸会議で提案し、巡回先の美術館も決めて準備を進めていたところ、他館の担当学芸員が別の美術館に転職すると知らされたり、作品を集める上で競合する展覧会がないことを確かめておいたのに、劉生の作品を多く所蔵する美術館が急に記念展を開くことになったりと、予想外の事態をいくつも乗り越えて実現に至ったことを説明しました。

制約に悩まされる古美術の展示

出光美術館の金子馨さんは8~9月に開催した「奥の細道330年 芭蕉」展について語りました。

館蔵品を中心とした展示を基本としている同館では、人気の高い仙厓展などを何年かおきに開いていますが、金子さんは「毎回違う切り口で紹介しています」。芭蕉をテーマにした展覧会も50年間に8回開いているといい、その都度、新しい研究成果や異なる視点で展覧会を作っていると説明しました。

和紙に描かれた絵画や書跡は、作品の劣化を防ぐために展示期間の制約があります。そのため、たとえ展覧会の趣旨にふさわしい作品を展示したくても、先に他の展覧会に出品されていたために、累積照度の上限に達しないよう展示期間を短くしたり、展示を断念したりすることも。古美術を扱う学芸員ならではの悩みを語りました。

美しい展覧会の裏にはドラマが・・

三菱一号館美術館の阿佐美淑子さんは、担当した「マリアノ・フォルチュニ 織りなすデザイン展」(10月6日で閉幕)が開幕2週間ほど前になって「イタリアから借りる作品の半分くらいが来ないかもしれない」という事態に見舞われた体験を語りました。

その理由はイタリアの役人がバカンス中で、出勤するまで作品を送り出すためのサインがもらえないというもの。また、作品の所蔵者への事前調査で、借りる予定だった衣服が経年のため状態が悪く、拝借するのを断念したり、人形に着せて立体的に展示することができず、ケースの中に置いて展示したり──といった苦労があったことも明かし、「静かで美しい展覧会の裏には、実はさまざまなドラマがあることを知っていただけたら」と語りました。

展覧会に「完成」はない

三井記念美術館の小林祐子さんは、同館の特別展で歴代2位の入場者数を達成した「超絶技巧!明治工芸の粋―村田コレクション一挙公開―」(2014年)と、そのPart2で歴代3位を記録した「驚異の超絶技巧!─明治工芸から現代アートへ─」(2017年)にまつわるエピソードを紹介しました。

Part2が開幕した直後、超リアルな牙彫(象牙などの牙に施す細工)の数々を残した安藤緑山の遺族から手紙が届き、墓所や人柄、遺作など多数の新事実を確認することができたといい、「展覧会は一つの到達点ではあるが、完成ではない。展覧会に完成はない」と実感を込めて語りました。

5人の講演を受けて、三菱一号館美術館の野口玲一さんの司会でクロストーク。古美術品の展示をめぐる悩みについて、出光美術館の金子馨さんは「コレクション中心で展覧会をしていると、別の展覧会を企画している学芸員と館内でも“出品交渉”をすることがある」と説明。「ぜひ自分の展覧会に展示したい」と熱い思いを伝えて譲ってもらうこともあれば、涙をのむこともあり、そうした結果として20回も展示構成の図面を引き直したと明かしました。

一方、館蔵品の半分は茶碗などの茶道具だという三井記念美術館の小林祐子さんは「書画に比べて光や熱に強く、長期的な展示に耐えられるが、地震で壊れないよう免震展示ケースや免震台を導入している。東日本大震災でも展示中の茶杓がずれた程度だった」と語りました。

学芸員たちの話題は、各館の設立経緯やコレクションの特色、さらに「ギャラリーという名前から画廊と思われるのか、『個展用に借りたいが、賃料はおいくらですか?』という問い合わせの電話がある」(東京ステーションギャラリーの田中さん)といったささやかな悩みにまで及び、集まった観客を楽しませました。

 

 

 

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