辰野金吾没後100年を記念 ゆかりの3館で展覧会

辰野金吾と弟子の長野宇平治が設計した旧「日本銀行京都支店」(現・京都文化博物館別館)

 

明治~大正期に東京駅、日本銀行など日本の近代化を象徴する洋風建築を精力的に設計し、日本近代建築のパイオニアと称される建築家・辰野金吾(18541919年)。没後100年を記念して、辰野が設計した建物とゆかりのあるミュージアム3館で視点の異なる展覧会が順次開かれている。

国立国会図書館デジタルコレクション「近代日本人の肖像」より。『工学博士 辰野金吾伝』(1926年)に掲載された晩年の辰野金吾

 

日本銀行本店本館

 

■貨幣博物館「辰野金吾と日本銀行」

辰野が設計し、1896年(明治29年)に竣工した国の重要文化財「日本銀行本店本館」(東京都中央区)。その重厚な建物に向かい合う日本銀行分館内の貨幣博物館で、特別展「辰野金吾と日本銀行 ―日本近代建築のパイオニア―」が12月8日まで開かれている。
1873年(明治6年)、工部省工学寮(4年後に工部大学校と改称。東京大学工学部建築学科の起源)に第1期生として入学した辰野は、鹿鳴館や東京・丸の内の三菱一号館を設計した外国人顧問(お雇い外国人)のジョサイア・コンドルに師事。工部大学校を首席で卒業後、英国留学を経て、コンドルの後任として工部大学校教授に就任した。日本人で初めて建築学を教えるとともに、欧米の銀行建築を視察して日本銀行本店を設計。続いて全国の日銀支店建築にも顧問として携わり、さらに各地で地方銀行、公会堂などの建築を多数設計した。

展覧会では日本銀行本店・支店をはじめ、辰野が設計した建築の写真や資料によって日本近代建築史に残した業績をたどる。また、交友のあった洋画家・松岡壽(ひさし)が辰野没後の1921年に描いた肖像画や、渡欧時に使った大型トランク(前期展示:10月27日まで)、弟子の建築家・後藤慶二が還暦記念として辰野設計の建築群を一枚の絵に収めた油彩画「辰野金吾博士 作品集成絵図」(前期展示:10月27日まで)、趣味とした漢詩の草稿など、辰野家が所蔵するゆかりの資料で人物像を紹介している。教育者として多くの門人に慕われたことをうかがわせる還暦記念の芳名帳なども目を引く。

特別展にメッセージを寄せた建築史家の藤森照信・東大名誉教授は、英国を視察した辰野が日銀本店の設計ではイギリス産業革命期に当たるジョージア朝の質実な古典主義的スタイルを基本とし、東京駅ではヴィクトリア朝の華やかなスタイルを採用したことを指摘。「明治そして大正という時代は、ヨーロッパ各国で過去に出現した歴史的なスタイルを次々にリヴァイヴァルしたり折衷したりする〈歴史主義〉の時代であり、今から見るとヨーロッパ建築史のオモチャ箱をひっくり返したような時代に違いないが、しかし、その中で生きた日本の建築家は、時代の動きと作る建築の用途の二つをにらんで一番ふさわしいスタイルを選択していた。決して場当たり的に選んだわけではなかった」と評している。

貨幣博物館は入場無料。なお、入館に際して手荷物検査がある。

 

京都・三条通にある京都文化博物館の別館。日本銀行京都支店として辰野金吾と弟子の長野宇平治が設計。重要文化財

■京都文化博物館「文博界隈の近代建築と地域事業」

3館のうちで最も早く、8月31日から京都文化博物館(京都市中京区)で開かれているのが総合展示「文博界隈の近代建築と地域事業」(10月27日まで)。同博物館と同じ敷地にあるレンガ造の別館は、辰野が設計に携わった国の重要文化財「旧日本銀行京都支店」だ。

京都文化博物館の模型。手前のレンガ造が別館

 

展示はまず第1室「日本銀行京都出張所から京都文化博物館別館へ」で、古写真や図面、模型をはじめ、レンガ、スレートといった建築資材、避雷針などの実物展示で別館の歴史をたどる。

京都の近代建築に用いられた明治20~30年代のレンガ。当時の一大産地であった大阪から供給された

 

さらに第2室「三条通と姉小路通のまちづくりと近代建築」では、京都文化博物館を挟んだ南北二つの通りで行われてきた、まちづくり協議会の活動と近代建築の保存活用を紹介している。三条通は江戸時代から京都のメインストリートで、近代を迎えると郵便局や銀行などの洋風建築が相次いで建てられた。やがて賑わいの中心は四条通や烏丸通に移るが、むしろそのために明治中期~昭和初期の歴史建造物が取り壊しを免れ、保存活用が図られるようになった。

大正末頃の京都・三条通の1/300模型。町屋と近代建築が入り混じる景観だった

 

たとえば1902年(明治35年)に建てられた中京郵便局は1978年、外壁の一部を残して建て替えられ、日本の近代建築における「外壁保存」(ファサード保存)の第1号として知られている。

京都文化博物館の近くにある中京郵便局。三条通に面した右側のレンガ壁は全面的に保存、東洞院通に面した左側は3分の2を保存した

 

また、戦前の関西建築界を代表する建築家・武田五一が設計したアール・デコ調の旧「毎日新聞京都支局」(1928年)は、「1928ビル」と名前を変えて保存され、建物内にあるレトロなカフェやホールが人気を集めている。

武田五一設計の旧「毎日新聞京都支局」。星型のマークは社章。ホールでイベントが開かれる日はよく行列ができる

 

京都文化博物館の展示は、辰野の業績と京都の近代建築の歴史を振り返るだけでなく、まちづくりと一体で近代建築の保存活用を考えるきっかけとなることをめざしている。

 

東京駅丸の内駅舎(東京ステーションギャラリーがある丸の内北口側)

■東京ステーションギャラリー「辰野金吾と美術のはなし」

辰野が設計した建築で最も有名なのは、1914年(大正3年)に竣工した国の重要文化財「東京駅丸ノ内本屋」(東京駅丸の内駅舎)だろう。その駅舎内にある東京ステーションギャラリーで11月2~24日、小企画展「辰野金吾と美術のはなし」が開かれる。
留学時代から交流のあった洋画家・松岡壽との関係に注目し、滞欧時のスケッチ帳や東京駅の図面など約70点を紹介する予定だ。

(読売新聞東京本社事業局専門委員・高野清見)

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