見どころ紹介 「オランジュリー美術館 ルノワールとパリに恋した12人の画家たち」 横浜美術館で開催中

  

パリ・オランジュリー美術館の印象派、エコール・ド・パリの名画を紹介する「オランジュリー美術館コレクション ルノワールとパリに恋した12人の画家たち」展が、横浜美術館(横浜市・みなとみらい)で開かれている。(2020年1月13日まで)

 

1920年代を中心にパリで活躍した画商で、自らコレクターでもあったポール・ギヨームの収集品を核とした同美術館のコレクションから、ルノワールの代表作「ピアノを弾く少女たち」をはじめ、マティス、ピカソ、モディリアーニ、ユトリロ、ローランサンらの名品69点が公開されている。名画が画家別にまとめられ、リレーをするかのように連なっている。

 

第1室にはセザンヌ作品が並んでいる

 

マティスのコーナーからピカソを望む

  

ピカソの作品群

 

注目のルノワール作品

 

モディリアーニのコーナーはギヨームの肖像で始まる

 

ユトリロは「白の時代」の名作が並ぶ

 

スーティンも名作がずらり

 

隠し味

 名作展らしい華やかさが会場に満ちているが、ギヨームの好み、鑑識眼を感じさせるコーナーもある。たとえばアンドレ・ドランの作品が並ぶ通路状の展示室だ。

ドランの作品と、これらの作品が出品された1929年の展覧会の会場写真が、向かい合って展示されている

 

 ギヨームのコレクションは、1929年にパリのベルネーム=ジュヌ画廊で開かれた「ポール・ギヨーム コレクションの偉大なる現代絵画」展で紹介された。この展覧会の様子を伝える写真が、ドランの作品と対面するように壁いっぱいに貼られている。

「ポール・ギヨーム コレクションの偉大なる現代絵画」展会場でのアルベール・サローによる講演会の様子 (部分) 1929年 オランジュリー美術館 ポール・ギヨーム・アーカイヴ (会場展示パネルから)

 展覧会会場で講演会が行われた時の写真だが、講演者の背後にはドランの「アルルカンとピエロ」があり、向かって左側にやはりドランの「かごのある静物」(上)、「踊り子ソニア」が二段掛けされ、その隣に裸婦を描いた「美しいモデル」が並んでいる。当時のパリの美術界の息吹を伝える情景だが、この写真に収まっている作品そのものが、向かいの壁に、1929年当時の展示を再現するかのように並んでいる。

 

ドラン「アルルカンとピエロ」(左)などが、正対する資料写真の鏡像のように並べられている

 

写真では背景として見過ごしてしまいそうな作品が、生き生きと精彩を放っている。ギヨームはドランの作品を数十点、所有していたといい、この講演会の写真を見ても、展覧会でドランの作品に重要な場所を与えていたことがうかがわれる。ドランは1920年代にはフランス絵画の正当な継承者としてみなされていた。写真から抜け出てきたかのような作品は、ギヨームのドランへの熱いまなざしを想像させる。

 

 また、1930年頃のギヨーム私邸の様子を写真から復元したマケット(模型)にも、ギヨームの優れた鑑識眼を示す「作品」が隠されている。

左右2つののぞき窓の中に、マケットが埋め込まれるように展示されている

 

ギヨームが他界した後、コレクションを引き継いだ妻のドメニカは、自身の好みなどを反映して、部分的に作品を手放した。そのひとつが、マティスの「Bathers by a River(川辺で水浴する人々)」(19091917年 シカゴ美術館蔵)。エルミタージュ美術館の「ダンス」「音楽」と並行して構想された、マティスの代表作のひとつにも数えられる大作で、ギヨームの眼の確かさを示す作品だが、1951年にニューヨークのコレクターに売られてしまった。この作品は、ほどなく(1953年)、シカゴ美術館のコレクションに入った。その作品が、このマケットの部屋の奥の通路風のスペースに、寡黙な「歴史の証言者」然として、さりげなく掛けられている。

ギヨームの先見性のある審美眼がひそむ、この展覧会の隠し味のひとつと言えるだろう。

 

左側の仕切りの奥の、目鼻のない人物の立像が描かれた大作が「Bathers by a River」

 (読売新聞東京本社事業局専門委員 陶山伊知郎)

横浜美術館開館30周年記念

オランジュリー美術館コレクション

ルノワールとパリに恋した12人の画家たち

 2019921日(土)~2020113日(日) 横浜美術館(横浜市みなとみらい)