個人蔵の古筆も30年ぶり公開! 遠山記念館で特別展「古筆招来 高野切・寸松庵色紙・石山切」

「伝紀貫之 高野切 古今和歌集」3点

日興證券(現SMBC日興証券)の創立者・遠山元一(1890~1972年)の遺志を受けて運営されている「公益財団法人 遠山記念館」(埼玉県比企郡川島町)で、平安~鎌倉の古筆を中心とする特別展「古筆招来 高野切・寸松庵色紙・石山切」が10月20日まで開かれている。

遠山記念館は2017年、敷地内にある美術館の設備改修を行い、温湿度管理を徹底するために最新の展示ケースを導入。9月13日に行われた報道内覧会で鈴木廣之館長(東京学芸大学名誉教授)は「館外から国指定の国宝・重文をお借りして並べる展覧会は初めて。施設を整備し、文化庁から許可が下りたので念願の特別展が実現した。これからも年に一度はこういう展示企画をしたい」と今後の美術館活動への意欲を述べた。

今回の特別展は30年ぶりに展覧会での公開となる個人蔵の2点、「寸松庵色紙」(「山さとは」)と「石山切  伊勢集」(「しるらめや」)を含む書跡24点と、蒔絵調度や小袖など総計30点で構成した。

美術館に入って左手の展示室(63㎡)には、まず古今和歌集「高野切」(第一種)巻一の3点を並べて展示。①五島美術館蔵の巻頭(重要文化財、歌番号1~3) ②遠山記念館蔵の2首(歌番号9~10) ③出光美術館蔵の4首(重要文化財、歌番号46~49 ※展示は9月29日まで)──の3点を順番に追うことで、筆運びの変化が見て取れる。
展覧会を担当した久保木彰一学芸員は「巻物20巻の高野切は3人の能書家が書き分けているが、スタート部分は一番の書き手が担当した。①は最適な緊張感をもってゆっくりスタートし、②は少し緊張がほぐれたなという辺りで、③では肩の力も抜け、どんどんスムーズに、リズムカルに書き進んでいる。見比べると、書き手の心の中まで覗くように鑑賞していただける」と解説した。

伝紀貫之 高野切 古今和歌集巻第一巻首 五島美術館蔵

 

同じく古今和歌集を書いた「寸松庵色紙」も、「高野切」と同じく3点並べて展示。①遠山記念館蔵の「むめのかを」(歌番号46) ②五島美術館蔵の「あきはきの」(歌番号218) ③個人蔵「山さとは」(歌番号214)──のうち、30年ぶりに展覧会への出品が実現した③は唐紙の保存状態が良く、墨色がくっきりと鮮やかだ。
また、①遠山記念館蔵「寸松庵色紙」に書かれた「むめのかを」の歌は、その右手に展示した出光美術館蔵の「高野切」にも書かれており、異なる能書家が書いた文字を比較することができる。「高野切」は巻子本に行書き、「寸松庵色紙」は粘葉装(でっちょうそう)の冊子本に1ページずつ散らし書きと、それぞれの形式は異なるものの、使用した変体仮名や文字の大きさに共通性があり、2人の能書家が仮名に対して近い美意識を有していたことがうかがえるという。

伝 紀貫之 寸松庵色紙 遠山記念館蔵

 

伝 紀貫之 寸松庵色紙 五島美術館蔵

 

伝紀貫之 寸松庵色紙 個人蔵

 

続いて展示する「石山切」4点は、「本願寺本三十六人家集」の「貫之集下」「伊勢集」の断簡。三井財閥の大番頭で近代数寄者としても有名な益田鈍翁(どんのう、本名・孝)が中心となって昭和4年(1929年)に解体、分売された時に益田が命名した。藤原定信筆の「貫之集下」2点、伝藤原公任筆の「伊勢集」2点が並び、唐紙などに継紙技法を駆使し、金銀泥による下絵を施した華麗な料紙も見どころとなっている。

「石山切」4点の展示風景

 

藤原定信 石山切 貫之集下 個人蔵

 

伝 藤原公任 石山切 伊勢集 個人蔵

 

ロビーを挟んでもう一つの展示室(70㎡)には、遠山記念館が所蔵する藤原俊成、藤原定家(「明月記」断簡、「後撰集歌切」)など平安~鎌倉の古筆をはじめ、一休宗純の仮名消息(室町時代)などの書跡、重要文化財「秋野蒔絵手箱」(鎌倉時代)、江戸時代の蒔絵硯箱、文字入模様単衣・小袖などを展示している。

展覧会図録には、今回出品された「高野切」「寸松庵色紙」「石山切」の10点を原寸で掲載。それに遠山記念館の所蔵品から出品した古筆のうち6点を収録している。

藤原定家の書跡
右:「後撰集歌切」 鎌倉時代・13世紀 
左:「記録切 明月記」 鎌倉時代・建暦3年(1213年)10月
いずれも遠山記念館蔵

遠山記念館とは ──

1970年、昭和初期に遠山元一が生家を再興して母の住まいとして建てた邸宅・庭園、美術コレクションを一般公開。約1万2000点のうち約7割は世界の染織品で、約3割に当たる日本と中国の書画・陶磁器なども質の高さで知られる。久保木木彰一学芸員によると「書画の約230点は掛け軸が多く、邸宅を建設する前後に床飾りとして収集したものがベースになっている」という。「寸松庵色紙」や鎌倉初期の「佐竹本三十六歌仙絵」、江戸時代の英一蝶「布晒舞図(ぬのさらしまいず)」など6点が国の重要文化財に指定されている。
旧遠山家住宅は2018年、「昭和戦前期における極めて上質な和風住宅」として国の重要文化財に指定された。また、美術館の建物は長崎市の「日本二十六聖人記念館」などの作品で知られる建築家・今井謙次がキリスト教徒である遠山家のために設計。ロビーの天井フレスコ画やステンドグラスなどが特色となっている。

2019年9月14日(土)〜10月20日(日)
特別展「古筆招来 高野切・寸松庵色紙・石山切」
公益財団法人  遠山記念館(埼玉県比企郡川島町)

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