見どころ紹介「特別展 三国志」 東京国立博物館で開催中

 

23世紀の中国で覇権を争った「魏・蜀・呉」3国の興亡をつづった歴史書「三国志」の世界を、近年発掘された文物などで紹介する「特別展 三国志」が、東京・上野の東京国立博物館で916日まで開かれている(終了後は、福岡に巡回)。日中共同企画で、中国全土18の市・省・自治区の計約40か所から「一級文物」を含む161件の文物が集められた。史料が乏しく、実像がよく分かっていなかったこの時代の真相に迫る「リアル三国志」展。来日した中国側の研究者が「三国志展の決定版」と語ったという本展の見どころを、いくつか紹介する。

「関羽像」 青銅製 明時代・15~16世紀 新郷市博物館蔵

三国志の世界

「三国志」の時代は、2世紀末から3世紀にかけて曹操の魏、劉備の蜀、孫権の呉が覇を競い、最後には三国すべてが滅亡するまでの約100年間だ。3世紀末に、史実を記録した公式の史書として「三国志」が著された後、人物像などに脚色を加えた種々の物語が流布してゆく。1000年以上後の14世紀後半(元末・明初のころ)に、三国志にまつわる膨大な物語を整理・編纂(へんさん)し、大長編小説「三国志演義」がまとめられ、広く伝えられた。

日本での人気

日本でも、吉川英治の小説「三国志」(1946年)や、横山光輝の漫画「三国志」(漫画雑誌『コミックトム』に197287年連載)が人気を博し、NHKの番組「人形劇 三国志」(198284年)では、人形美術家、川本喜八郎(1925~2010年)製作の人形も話題を呼んだ。近年は三国志に題材をとったゲームシリーズ「三国志」なども登場し、幅広い世代の関心の的となっている。本展にはNHK「人形劇 三国志」の撮影に使われた人形、漫画「三国志」の原画も出品され、往年のファンを喜ばせている。

 

「人形劇 三国志」に登場した川本喜八郎の人形「曹植(そうしょく)」(飯田市川本喜八郎人形美術館蔵)   曹植は曹操の第三子で詩才に恵まれた人物と伝えられる

横山光輝の漫画「三国志」の原画(光プロダクション蔵)も随所に展示されている

 

待望の展覧会                                            

東京国立博物館には以前から「三国志展」を望む声が寄せられていた、と企画にあたった同博物館主任研究員の市元塁(いちもと・るい)さんは言う。だが、物語を裏付ける実物資料は乏しく、いわば幻の企画とされていた。ところが、2008年に中国・河南省で三国志の主人公のひとり、魏を率いた曹操(155220年)を葬ったとされる「曹操高陵(そうそうこうりょう)」が発見されると、その後、石牌(せきはい)や鉄鏡などさまざまな文物も見つかり、流れが変わった。

曹操高陵の内部の再現展示

 

2017年に市元さんたちが「リアル三国志」をテーマに掲げて、展示物を集める交渉などに着手。足掛け3年の月日を重ね、ついに宿願の「三国志展」が実現した。

 

「獅子」(一級文物) 後漢時代・2世紀 山東博物館蔵

蘇る古代世界

展覧会序盤の見どころの一つが、「獅子」。三国時代の前の後漢時代(25220年)の都、洛陽で作られた石像で、ライオンの姿が意外なほど写実的に表されている。作者がライオンを実際に見たことがあったと確信させる迫真の出来ばえである。

「五層穀倉楼(ごそうこくそうろう)」(一級文物) 後漢時代・2世紀 焦作市博物館蔵

 

また、高層楼閣を模した副葬品も見逃せない。出土したのは河南省焦作市。後漢の最後の皇帝、献帝が、帝位を譲った後、暮らした土地で、高層楼閣の穀倉がたつ豊かな地域だったという。5階建ての瓦葺き建築で、下層が倉庫。4階の望楼には、外を眺める人物の姿もある。当時の生活の様子が伝わってくる。

 

「魏・蜀・呉ー三国の鼎立」のコーナー

 

三国の武器などを紹介する「魏・蜀・呉 ─ 三国の鼎立(ていりつ)」というコーナーには、現代美術のインスタレーションを思わせる空間が広がる。弩(ど=クロスボーの一種:写真手前のケース内に展示)から、敵に向かって放たれる大量の矢を再現し、戦いの雰囲気を演出した。宙を飛ぶ矢は約1100本、壁に刺さった矢は約400本に及ぶ。展示作業中、施工を担当したスタッフから「もっと矢を」という戦場さながらの訴えがあったという。「真剣勝負」の設営作業の結果、光の矢が舞うような幻想的な空間が生まれた。

 

蜀の「舞踏俑」 後漢~三国時代(蜀)2~3世紀 (左)重慶中国三峡博物館蔵 (右)四川博物院蔵

 

「リアル三国志」の人々の暮らしぶりを何よりも生き生きと伝えるのは、墳墓に副葬された人形、俑(よう)だ。展示されている蜀の舞踏俑(写真上)は、後漢から三国時代にかけて蜀で流行した踊りの象徴的なポーズを示すと考えられている。呉の俑(写真下)のモデルは、扇を持つ俑、本を読み上げる俑、楽器俑などさまざまな専門的技能を持った人物とされる。

 

呉の俑 三国時代(呉)・3世紀 武漢博物館蔵  左から2番目が「読み上げ俑」、同4番目が「持扇俑」

注目の鮮卑頭

東京国立博物館の市元さんが挙げる注目ポイントのひとつが「鮮卑頭(せんぴとう)」と呼ばれる帯の先の装飾具だ。鮮卑頭は、魏の皇帝が鮮卑頭を付けた豪奢な帯(ベルト)を所望したという記録が残るなど、三国時代前後の権力者のあこがれの的だったらしい。

後漢時代につくられた「金製獣文帯金具」、「鮮卑頭」という文字が明記され、史料として貴重な魏の「石牌」、三国時代の後に中国を統一した西晋時代の「白玉獣文鮮卑頭」がまとめて展示されている。鮮卑頭に関わる歴代の文物の「そろい踏み」は中国でも例がないという。

なお、「鮮卑頭」と名付けられているが、後に北魏を建てた鮮卑族とは関係はない。匈奴など辺境夷族に関わる言葉だったと推測されている。

「金製獣文帯金具」(一級文物) 金製・貴石象嵌 後漢時代・2世紀 2009年、安徽省淮南市寿県寿春鎮守古墳出土 寿県博物館蔵 <br /> 体をくねらせた獣に金粒細工が施され、貴石が象嵌されている。魏の文帝はこのような鮮卑頭の付いた帯を望んだが、三国時代にはすでに作り手が絶えていたという

 

「白玉獣文鮮卑頭」(一級文物) 玉製 西晋時代・3世紀 上海博物館蔵

 

中国メディアも注目

中国の国宝に相当する一級文物が多数展示されることもあり、中国のメディアも注目している。内覧会に参加した中国の記者たちは、市元さんを囲んで「中国からの出品数は?」「なぜ日本で三国志が人気なのか?」などと次々に質問。「中国から見に来る人も多いと思うが」という問いに、市元さんは「中国でも未公開ものもある」と魅力をアピールした。

 

特別展 三国志

東京国立博物館 平成館(上野公園) 201979日(火) ~916日(月・祝)

九州国立博物館(福岡県太宰府市)  2019101日(火)~20201月5日(日)