2019年8月21日(水)~ 9月1日(日) 代官山ヒルサイドフォーラム(東京)
東京・六本木で開催中の「ウィーン・モダン クリムト、シーレ 世紀末への道」のトークショーが6月14日、国立新美術館の講堂で開催され、ゲストにミュージシャンの藤井フミヤさんが登場しました。
美術を楽しく伝える「アートテラー」として活躍するとに~さんが、クリムト、シーレの素顔などを軽妙なトークで解説。画家としても活躍し、ウィーン世紀末芸術から多大な影響を受けたというフミヤさんは、2人の巨匠への熱い想いを語りました。
(以下、敬称略)
とに~「昨年はチェッカーズ35周年、ソロ活動25周年だったそうですね。実はクリムト、シーレ、建築家オットー・ヴァーグナーの没後100年という年でもありました。ウィーン・モダン展、ご覧になっていかがでしたか?」
フミヤ「クリムト、シーレはもちろん、建築、工芸、ファッションなど幅広い作品が展示されていて驚きました。一度では見きれずに2回見ました」
とに~「展覧会の主役といえばこの人、グスタフ・クリムトですね」
フミヤ「クリムトが着ているスモックも展示されていましたね。クリムトのアトリエとお墓も訪れました。アトリエの椅子に座って、クリムトはこういう風景を見ていたんだな、と追体験をしてきました」
とに~「それほどクリムトがお好きなんですね。本展では47点のクリムト作品を紹介していますが、中でもよかった作品は?」
フミヤ「こんなに多くの素描が見られたのには感動しました。実際には何千枚もの素描が残っているようですね」
とに~「素描に注目されるのは、さすがです」
フミヤ「筆の走り具合とかが気になります。《ベートーヴェン・フリーズ》のための習作など、有名な作品の習作もあって面白かったですね」
とに~「クリムトが好きになったきっかけは?」
フミヤ「《接吻》(ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館蔵)を見たとき。人物の肌は決して露出していないのに、とてもエロティック。衝撃とともに、その世界に引き込まれてしまった」
とに~「僕は、クリムトは”元祖インスタグラマー”ではないかと思っています。というのも、クリムトやウィーン分離派は正方形の作品が多い。本来人間の目は横についているので、横長の画角で見えているわけですが、クリムトは厚紙を正方形に切り抜いたものを作って、ファインダーのように覗き込んでいたようです。今のインスタグラムのように、正方形に切り取るのがオシャレだということに、この時から気づいていたんじゃないかと」
フミヤ「確かに。風景画も、肖像画も、正方形の作品が多い」
とに~「この《パラス・アテナ》も正方形」
フミヤ「ウィーン分離派を旗揚げしたときの作品ですね」
とに~「この作品、額は弟ゲオルクが作った兄弟合作なんです。フミヤさんもご兄弟で音楽活動をされていますが、兄弟アーティストならではの共感はありますか?」
フミヤ「同じ職種だと仲たがいすることがない。お互いにやりたいことがわかっているからね」
とに~「これは、建て替え前のブルク劇場を記録として描いたもので、ともかく一人ひとり、表情が細かく描きこまれている。クリムトはこの作品を20代で描き、表彰を受けています」
フミヤ「まるで写真をコラージュしたみたい。こんなテクニックを見せられてしまうと作品を描く気力がなくなる。愕然とした。今回、クリムトの油彩で見られて一番良かったと思った作品です。これを20代で描いたのはすごい」
とに~「いや、フミヤさんも20代ですでに大活躍されていたじゃないですか!」
フミヤ「この作品は会場で写真を撮っていいんですよね?エミーリエ・フレーゲという女性は完璧だった」
とに~「というと?」
フミヤ「クリムトの死後、自分とクリムトの関係がわかる手紙をすべて捨てちゃったんでしょ?ラブレターなんて人に見せるために書いているわけじゃない。それを、死後に勝手に展示されたら、そりゃ嫌ですもんね」
とに~「LINEが流出するより嫌ですね」
フミヤ「これだけ大きな作品を作るのに、クリムトなら100枚近くの下絵を描いているはずなのに、それも残らず捨ててしまっている。2人が恋仲だったかどうかの決め手をほとんど残していないんですよね」
とに~「クリムトが死の間際に『エミーリエを呼んでくれ』と言った、ということが一応“生涯のパートナー”と言われる根拠のひとつになっているようですね」
フミヤ「でも、この作品にはほかの女性像のようなエロスは感じない。クリムトとは親戚関係だったし(クリムトの弟と、エミーリエの姉が結婚)、きっとファッションデザイナーとして自立していたエミーリエに対する尊敬があったんじゃないかな」
とに~「ということは、フミヤさんはこの2人は恋仲ではなく、ステディな関係だったと思いますか?」
フミヤ「でも、手紙を捨ててしまったというのが引っかかる。クリムトを調べている人にとっては、どうにかして付き合っていたことにしたいですよね(笑)」
とに~「その証拠がみつかるまでは、追究の手を止めないでしょうね」
とに~「続いて、エゴン・シーレの話に移ります。シーレは28歳という若さで亡くなってしまいますが、その短い生涯で、いろいろ逸話が残っています。14歳の少女がシーレの家で一夜を明かしたことが通報され、警察がシーレの家に踏み込むと、そこに大量の卑猥な絵が見つかり、シーレは24日間にわたり拘束された」
フミヤ「あの素描をまじめな人が見たら、けしからんと思っちゃうかも。ピカソもそうだけど、飾りにくい絵を描きますよね。昔、家にピカソの絵を飾っていたけど、局部にシール貼っていた。息子の友達が来た時すぐはがされたけど(笑)」
フミヤ「シーレは、人差し指と中指を空ける手のポーズが特徴的ですよね」
とに~「シーレのどんなところが好きですか?」
フミヤ「ダークで、かっこいい!初めて見たとき、しびれる感じがあった」
とに~「シーレは男性ファンが多いですよね」
フミヤ「でも、すごくモテただろうね。二枚目だったし」
とに~「クリムトと比べたら見た目はかっこいい。クリムトは自画像を描きたくなかったそうですが、シーレは短い人生で170点以上自分を描いた作品を遺しているんです。フミヤさんは自画像描いたことは?」
フミヤ「2回くらいはあるんですが、正直あまり筆が乗らなかった。全然面白くない。シーレみたいにナルシストじゃないってことですよね。一応描きあげましたが」
フミヤ「シーレの油彩は暗くて独特の質感だけど、素描を見ると意外ときちっとした絵が描けるんですね」
とに~「素描を見ると、画家の本質が見えてきますよね」
フミヤ「油彩では自分の味を出すために、独自のテイストを加えたんでしょうね。でも、僕が絵を描く人間だからかもしれないけど、クリムトもシーレも(本展で)これだけの数の素描を見られたことに感動した。素描だけの画集も持っているんです」
とに~「では、フミヤさんの作品は、シーレの素描からも影響を受けていますか?」
フミヤ「そうですね。受けていますね」
とに~「モデルを使って絵を描くことは?」
フミヤ「ありません。身近な人でもない。どこかから持ってきた裸婦の写真や作品を見ながら描く。だから、クリムトやシーレの素描の影響は大いにある。男性より女性を描く方が好きです」
とに~「それは音楽でも?」
フミヤ「そうですね。音楽も常に女性に向けて作っている」
とに~「フミヤさんの展覧会の見方は?」
フミヤ「見たいと思ったときにふらっと行きます。展覧会はじっくり、映画一本見るような感覚で見ますね。音声ガイドも借ります」
とに~「クリムト、シーレのほかに気になった作品は?」
フミヤ「ウィーン分離派展のポスターがよかった。油彩だけじゃないグラフィック作品などが紹介されているのもこの展覧会の面白いところ。建築図面も興味深かったです」
とに~「模型よりも図面ですか!」
フミヤ「ペンと物差しだけでどうやってこんな緻密に描いていたんだろうって。あと、図面の下に書いてある文字のフォントがかわいくてね!」
とに~「そんな風にじっくり見ていたら、あっという間に時間が過ぎちゃいますね」
フミヤ「ウィーン・モダン展は、ウィーンが近代化していく中で誕生した芸術がいかにすごかったか、クリムト、シーレだけじゃない、いろいろな要素が楽しめる充実の展覧会でした」
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2019年4月24日(水)~8月5日(月) 国立新美術館(東京・六本木)
2019年8月27日(火)~12月8日(日) 国立国際美術館(大阪・中之島)
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油彩、水彩、切り絵、ペン画など、様々なジャンルの作品を精力的に制作している藤井フミヤさんの個展が、東京・代官山で開催されます。
2019年8月21日(水)~ 9月1日(日) 代官山ヒルサイドフォーラム(東京)