鏑木清方の名作「築地明石町」を発見、44年ぶり公開へ

鏑木清方「築地明石町」(中央)と「新富町」(右)、「浜町河岸」(左)=6月24日、東京国立近代美術館で

”幻の作品”を含む「三部作」 東京国立近代美術館が収蔵

東京国立近代美術館(東京・竹橋)は6月24日、気品あふれる女性像や失われゆく明治の風物を郷愁豊かに描き、大正期から戦後にかけて人気を集めた日本画家、鏑木清方(かぶらき・きよかた 1878~1972年)の代表作「築地明石町」(つきじあかしちょう 1927年)を、三部作をなす「新富町」(しんとみちょう)、「浜町河岸」(はまちょうがし)=いずれも1930年=とともに収蔵したと発表し、報道陣に公開した。

「築地明石町」は長年にわたり所在不明だった“幻の名作”で、公開されたのは44年ぶり。保存状態も良く、同館では2019年11月1日~12月15日、同館がすでに所蔵している清方作品とともに企画展「鏑木清方 幻の《築地明石町》特別公開」として一般公開する。
「築地明石町」「新富町」「浜町河岸」の三部作は同じ個人が所蔵していたもので、同館が所属する独立行政法人国立美術館が東京都内の画商を介して計5億4000万円で購入した。

鏑木清方 《築地明石町》 1927(昭和2)年 絹本彩色・軸装 173.5×74.0cm 東京国立近代美術館
ⓒNemoto Akio

 

1975年の展覧会以来、44年ぶりの公開

3点はいずれも絹本彩色・軸装で173.5cm×74cm。「築地明石町」は1927年(昭和2年)、49歳の清方が帝国美術院展(帝展)に出品して審査委員たちに絶賛され、帝国美術院賞を贈られた。美人画で上村松園(1875~1949年)と並び称された清方の最もよく知られた女性像の一つで、黒い羽織を着た女性が朝霧に包まれる旧外国人居留地の明石町(現・東京都中央区明石町)にたたずむ姿を描いている。肩越しに佃島の入り江に停泊する帆船がうっすらと浮かび、右手に見える洋館の水色の柵には朝顔がみずみずしく咲いている。
伝統的な見返り美人図のポーズを踏まえながらも、すっきりとした立ち姿と面立ち、明治後期に流行した「イギリス巻」と呼ばれる髪型などによって、清方が得意とした近代的な女性美が表現されている。

所在不明だった作品を探し当てた鶴見香織・東京国立近代美術館主任研究員は、「50歳を前にした清方が画想も画技もすべて注ぎ込んだ名作」と指摘する。清方にとっても愛着の深い作品で、みずから所蔵者に貸し出しを頼みに行き、展覧会に出品していたほどだったが、没後しばらくして所在不明となった。鶴見主任研究員によると、出品が確認できたのは1975年に開かれたサントリー美術館(東京)の展覧会「回想の清方 その三」が最後だという。

ポートレート 鏑木清方(1956年) 根本章雄氏提供

「いつか収蔵を――」 思い引き継ぐ

東京国立近代美術館には国の重要文化財に指定された清方の「三遊亭円朝像」(1930年)や、12幅対の「明治風俗十二ヶ月」などの名品が収蔵されている。しかし鶴見主任研究員によると、同館で日本画を担当する研究員(学芸員)の間では「いずれ『築地明石町』が世に出てきた時にはぜひとも収蔵したい」との思いが代々受け継がれてきた。

収蔵に至るまでの詳しい経緯は個人情報などに関わるとして公表しなかったが、鶴見主任研究員は「ずっと所蔵者の情報を追い、集めた情報をこちらからも流すということも続けていた。画商さんから『所蔵者が作品を手放してもいいと思っている』みたいな話が何となく舞い込んだのが、だいたい3年ぐらい前だったかと思います」と述べた。画商や研究者などから入手した断片的な情報を元に、長い時間をかけて所蔵者にたどり着いたようだ。

「築地明石町」の姉妹作 「新富町」「浜町河岸」

今回の発見では、「築地明石町」と同じく1975年の展覧会を最後に所在不明だった「新富町」「浜町河岸」も一緒に確認された。
サイズも表装も同じで、清方がそれぞれのタイトルと署名を書いた内箱が三つ、漆塗りの外箱に並べて収められていたという。「新富町」「浜町河岸」は「築地明石町」から3年後に描かれており、三部作がそろった時点で同じ表装と箱が誂えられた可能性が高い。鶴見主任研究員によると、「新富町」「浜町河岸」の画稿に残る「築地明石町左右姉妹作」「たかしまや昭和五年九月」の文字などから、「築地明石町」の購入者が百貨店の高島屋を通じて清方に2点の制作を依頼したものと推測される。

「新富町」は蛇の目傘を手に先を急ぐ新富芸者を、「浜町河岸」は隅田川の新大橋を背に踊りの稽古から帰る町娘を描いている。現在の中央区にある明石町、新富町、浜町の一帯は、幼少期に築地や京橋に住んだ清方にとって思い出の地で、「古きよき明治」への追憶にあふれた絵画や随筆が数多く残されている。

鏑木清方 《新富町》 1930(昭和5)年 絹本彩色・軸装 173.5×74.0cm 東京国立近代美術館
ⓒNemoto Akio

 

鏑木清方 《浜町河岸》 1930(昭和5)年 絹本彩色・軸装 173.5×74.0cm 東京国立近代美術館
ⓒNemoto Akio

 

実物は「色合いがまったく違う」

「築地明石町」は、所在不明だった間も出版物などを通じて作品画像が広く知られてきた。しかし実物は、それらと「色合いが全然違います」と鶴見主任研究員は言う。
「朝顔が絡んでいる水色の柵は、大概の図版では紫色に見える。女性の着物は水色の地にペパーミント・グリーンのような色の小紋が描かれているが、図版ではどぎついヒスイ色に見えていたのが、実際にはもっと落ち着いた色だった。髪もベッタリと黒く見えていたのが意外にフワッとしている。昔の画集から複写して使うとか、いろいろな事情でこれまで印刷が重ねられてきたと思うが、どれもこれも今見てみると色校(色校正)の失敗だとしか思われません」
同じく「新富町」「浜町河岸」の着物や羽織も、図版で伝えられていたものよりずっと上品な色合いで、清方の卓越した画技を改めて感じたという。

なお、記者発表では東京・京都の国立近代美術館で2022年に「没後50年 鏑木清方展」(仮称)を開催する予定も明らかにされた。東京国立近代美術館では1999年以来2度目、京都国立近代美術館では初の回顧展となる。会期などの詳細は未定。

(読売新聞東京本社事業局専門委員 高野清見)

「鏑木清方 幻の《築地明石町》特別公開」
2019年11月1日(金)~12月15日(日) 東京国立近代美術館(東京都千代田区北の丸公園)

 

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