東京展開幕 空間のアーティスト、ボルタンスキーからのメッセージ

 

フランスの現代美術家クリスチャン・ボルタンスキー(74)の回顧展「クリスチャン・ボルタンスキ ー ーLifetime612日、大阪に続き、東京・六本木の国立新美術館で始まった。

 

タイトルのLifetimeは「一生」「生涯」の意味。初めて作品を発表した1968年から今日に至るまで半世紀にわたる作品47点で構成される。国立新美術館は、5月まで大阪展の会場となった国立国際美術館(大阪・中之島)と異なり、天井が高く、仕切りもないため、広い会場に合わせて自在な展示空間づくりが行われた。作品の展示数も増え、6月11日の内覧会では「大阪展とはまるで違う展覧会のよう」という声が聞かれるほどだった。

 「展覧会全体がひとつの作品」と語るボルタンスキーは、東京展開幕に合わせて再び来日し、内覧会で日本の出席者に空間づくりの狙いなどについて説明した。

 

「D家のアルバム、1939年から1964年まで」(中央奥の壁)、「青春時代の記憶」(中央手前の複数のボード)

  

ボルタンスキーの追憶、鎮魂を誘うインスタレーション(空間芸術)作品は、日本でも「瀬戸内国際芸術祭」(20102016年)などで話題を集めてきた。東京展でも、電球に照らされた無数とも思える古い顔写真や、静寂の中で響く音、点滅する光などと共に立体作品、映像作品が、次々に視界に飛び込んでくる。

 

「合間に」 7歳から65歳までのボルタンスキーの顔が、ひもで作られたスクリーンに映し出され、観客は暖簾(のれん)を分けるようにして、この作品を通り抜ける。

 

「幽霊の廊下」 長い通路のカーテンに人形の影が現れ、踊り、揺れる。 東京展のために制作された。突き当りは「ぼた山」

 

日本での個展は3回目。日本で展覧会を開くことが出来るのを「うれしいと共に、自然なこと」と受け止める。日本の哲学に影響を受けたことが背景にある。伊勢神宮で20年ごとに古い社殿の隣に新社殿を造る作業(式年遷宮)が繰り返されてきたことを例に挙げ、モノを通してではなく、知識を通して残すところにひかれた、という。

 

「ぼた山」(左:山のように積み重ねられた黒い衣類)、「スピリット」(上:肖像がプリントされた布)、「アニミタス(白)」(右奥) 「『ぼた山』は死者の身体を示しており、まだ『スピリット』や『アニミタス』のように精神的な存在にはなっていない」

 

「アニミタス(白)」 極寒のカナダで制作された10時間に及ぶ映像作品。風に揺れる風鈴の姿と音が、はかなさと共に永遠の時間を感じさせる。

 

ボルタンスキーは、展覧会を見ることは「教会を訪れる経験に似ている」という。教会の暗い特別な空間で、ベンチに座りしばらく静かに考える。そのあと、外に出て現実の生活に戻っていく。

自身の展覧会が、こうした沈思黙考の場となることを望んでいるが、「作品は、何か問題を提起するとしても、答えを示したり、感動を与えたりするものではない」と言い切る。

「作品にふれて自分自身を思い、哲学的な考察に身を任せてもらいたい」というのが作家の願いだ。

 

 

作品ごとのキャプション(説明)は付けていない(展示作品のリスト・配置図は会場で配布)。展覧会自体がひとつの作品とする考えを反映すると共に、作品と向かい合った時の瞑想を大事にしてもらいたい、という思いの表れだろう。9月2日まで。

(読売新聞東京本社事業局専門委員 陶山伊知郎 写真も)

 クリスチャン・ボルタンスキー ーLifetime

2019年612日(水)~92日(月) 東京・国立新美術館(六本木)

2019年10月18日(金)~2020年1月5日(日)長崎県美術館

*大阪展(国立国際美術館、 2019年2月9日~2019年5月6日)は終了。

 

*写真はすべて「クリスチャン・ボルタンスキー Lifetime」展の国立新美術館会場において撮影

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