横浜美術館開館30周年記念展 ~作家とコレクションの共演~

横浜美術館(横浜市・みなとみらい)で開催中の「横浜美術館開館30周年記念 Meet the Collection ―アートと人と、美術館」展。4人のアーティストを招き、それぞれが同美術館のコレクションから選んだ作品と、自作とで構成した空間が注目を集めている。

「学芸員では思いつかない発想」(横浜美術館主任学芸員・松永真太郎さん)と語るように、見慣れたはずの作品も新鮮な輝きを見せる。参加した束芋(たばいも)、淺井裕介、今津景(けい)、菅木志雄(すが・きしお)の4人の展示内容を紹介する。

 

■束芋(たばいも) 1975年生まれ

斬新な感覚のアニメーション作品で知られる女性作家・束芋は、近作「あいたいせいじょせい」(2015年)を、「女性の情念」をキーワードに選んだ日本画、挿絵などと共に展示した。

「あいたいせいじょせい」は、近松門左衛門の戯曲「曽根崎心中」と吉田修一の小説「悪人」に登場する女性・金子美保を重ね合わせた約5分のアニメーションを駆使した映像インスタレーション。スクリーンに金子の部屋が描き出されるが、よく見ると椅子の一部は実物を壁に据え付けているなど、細部も見逃せない。

 

束芋の映像作品「あいたいせいじょせい」(右奥)と、鏑木清方「春宵怨」(正面壁、右)、同他「明治期雑誌挿絵より」(手前ケース内)などが「共演」している

 

■淺井裕介 1981年生まれ

泥やテープを使った絵画制作で知られる淺井裕介は、同美術館のコレクションから、植物、動物、神話、夢などをテーマに、36点の油彩、版画などを選んだ。円筒形の大きな壁で作られた展示スペースには、これらの作品が配置されている。地元の高校生らの協力を得て壁全面に描き上げた淺井の新作「いのちの木」と会話をしているかのようだ。

壁一面に描かれた淺井裕介「いのちの木」と、会場にちりばめられた横浜美術館の所蔵品の数々

 

マックス・エルンスト「子供のミネルヴァ」(左)、駒井哲郎「笑う幼児」(中)と、モチーフのつながりを感じさせる淺井の壁画「いのちの木」(部分)

 

■今津 景(けい) 1980年生まれ

今津景は、様々なイメージをコンピューター上でつなぎ合わせ、その後、油彩で描き起こして作品を制作している。2015年の作品「Repatriation」(祖国に帰す、の意)を、横浜美術館が誇るシュルレアリスムの絵画、彫刻やイサム・ノグチの彫刻などと出会わせ、斬新な展示を生んだ。

台座に並ぶイサム・ノグチ「下方へ引く力」(手前)、ダリ「バラの頭の女性」(左)などの奥に飾られた今津の大作「Repatriation」。横は約5メートルに及ぶ。

 

ジョエル・オターソン「眠りの国(地獄のベッド)」(中)、ジョルジオ・デ・キリコ「ヘクトルとアンドロマケ」(右)。壁面にはピカソの版画も

 

 

 

■菅木志雄(すが・きしお) 1944年生まれ

菅木志雄は、ほとんど手を加えていない石や木材などを配置して、ものの存在や関係性を表現し続けてきた「もの派」の中心的な作家。学生時代に薫陶を受けた現代美術家・斎藤義重、日本の抽象絵画の先駆者・山口長男らの作品を壁に並べ、部屋の中央の床に、昨年発表した自身の作品「放囲空」を据えた。

菅木志雄「放囲空」(手前)と、(壁の左端から)斎藤義重「反対称 対角線 No.1、No.2」、山口長男「軌」、斎藤義重「作品4」、「作品」

 

さらに、隣室とその周辺の空間を使って、20年前に横浜美術館で制作した大きなインスタレーション作品(空間を利用したアート)「環空立」=写真=を再現。四角い木の枠などを使って複雑なつながりを表現した。

 

 

美術館全館にわたり、約400点を展示した大規模な展覧会。すべてを丁寧に見たら何時間もかかりそうだ。ゲスト・アーティトとコレクションのコラボレーションに焦点を絞って見るのも一法だろう。6月23日まで。

 

記者発表会で勢ぞろいしたゲスト・アーチスト(4月12日、左から淺井さん、今津さん、逢坂恵理子・横浜美術館館長、束芋さん、菅さん)

(読売新聞東京本社事業局専門委員 陶山伊知郎)