「美術品を守り、ふやし、生かす」② 文化庁シンポジウムから

「美術品を守り、ふやし、生かす」② 

~文化庁のシンポジウム「芸術資産をいかに未来に継承発展させるか」から~

 

■寄付優遇税制

コレクション形成のために

美術品を活用する前提として、秀でた作品を集めることが欠かせない。美術館に立派なコレクションを作るためにも、圀府寺(こうでら)司さん(大阪大学大学院教授)はまず、個人の所蔵家が自らの好みで作品をコレクションすることが重要と強調。その上で、「個人コレクターから美術館などの公的施設への寄付に関する優遇税制を作り、日本国内における優れたコレクション形成を促す必要がある」と語った。

 

コレクターを育てる海外の寄付税制

現代アートのコレクターでもある弁護士の小松隼也さんは、美術品の寄贈・寄付に関わる海外の優遇税制を紹介した。小松さんは、美術への造詣を生かし、芸術文化産業における法律相談や政策提案も手掛けることで知られる。

 

小松隼也さん

 

小松さんによると、アメリカでは非課税団体に1年以上保有した、5000ドル(約56万円)を超える価値の美術品を寄贈した場合、寄贈した時点の市場価格全額が所得控除、損金算入の対象となるという。故人が寄贈した場合も、寄贈した時点での市場価格が、相続税対象の総遺産総額から控除される。

 

こうした制度に支えられ、19世紀以来、アメリカでは、美術館への寄贈が広がり、メトロポリタン美術館(ニューヨーク)のような大コレクションも形成された。

また、イギリスやフランスでは寄贈作品の価値、寄付金額の一定割合が所得税、法人税などから控除され、相続税に関しては、美術品による物納が認められている。シンガポールでは、美術品の寄贈を促進するため、建国50周年の2015年に、国が価値を認めた美術品について市場価格の300%の所得控除を認めた。20162018年は同250%を所得から控除した。

*参考:文化庁の寄付税制等に関する調査研究事業の報告書http://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/bunka_gyosei/pdf/r1393028_18.pdf

 

小松さんは、こうした寄付優遇制度の下で美術館が日常的に、コレクターとのつながりを深めていることを紹介した。メトロポリタン美術館は、折りに触れて若手経営者・コレクターをパーティーに招待し、キュレーターらと美術や寄付について意見を交わす場を設けているという。美術品に対する優遇税制が、個人のコレクションを「公共化」する流れが出来ているという指摘だ。

 日本の現状と課題

これに対し、日本では美術品の寄付に税制上のメリットはほとんどない。相続税代わりに美術品で物納することも事実上不可能といってよい。結果として、相続を前にした家族が美術品の購入を控えたり、海外に売ったりすることになる。

一方、美術品の購入時については、税制上の見直しがあった。経年で価値が下がらないものは減価償却の対象とならず、美術品の場合、減価償却の対象は1点20万円未満の作品に限られていた。しかし、平成27年(2015年)の減価償却規定の改定*により、減価償却の対象の上限が1100万円に引き上げられ、買いやすくなったという。小松さんはコレクターの感覚として、この改定で、日本のコレクターたちが国内作家に目を向けるようになり、購入額も増えた印象があると語り、海外と同じように法整備が進むことに期待を寄せた。

ただ、美術品の寄付や寄贈に関する税制についての論議は、まだまだ遅れているのが現状だ。

 * 平成2711日以後、取得する美術品等について、取得価額が1100万円未満である美術品等は原則として「減価償却資産」に該当するものとして取り扱われることとなった。 https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/kaisei/141200/

/01.pdf

(つづく)

(読売新聞東京本社事業局専門委員 陶山伊知郎)

*第3回は4月26日頃にアップ予定です。

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