美術史家の辻惟雄さん、「奇想の系譜」展を語る

辻惟雄さん(左)と、初公開となる(左から)長沢芦雪「猿猴弄柿図」、伊藤若冲「梔子雄鶏図」。右は山下裕二さん=10月29日、東京・銀座の観世能楽堂で

美術史家の辻惟雄(のぶお)・東大名誉教授(86)が10月29日、東京都内で行われた「奇想の系譜展 江戸絵画ミラクルワールド」(2019年2~4月、東京都美術館)の報道発表会に出席し、江戸絵画のイメージを変える先駆けとなった半世紀前の自著『奇想の系譜』の思い出などを語った。

同展の特別顧問を務める辻さんは、展覧会タイトルにも使われた『奇想の系譜』について「書いたのは私が38歳の時で、いま86歳。自分でも信じられないような期間、その時に書いた本がまだ本屋さんの棚に見つかるという・・。私としては大変ありがたいと言うか、申し訳ない気分です」とユーモラスに挨拶した。また、スクリーンを使って主な展示予定作品を紹介。東大での教え子で、同展の監修を務める美術史家の山下裕二・明治学院大教授との軽妙なやりとりで作品の魅力を解説した。

挨拶する辻惟雄さん。中央は真室佳武・東京都美術館館長、右は山下裕二さん

若冲、芦雪、国芳――奇想の画家8人

辻さんが1970年に刊行した『奇想の系譜』(美術出版社刊、現在は「ちくま学芸文庫」)は、江戸時代に奇矯な発想とダイナミックな表現で独自の絵画世界を繰り広げた岩佐又兵衛、伊藤若冲(じゃくちゅう)、曽我蕭白(しょうはく)といった画家たちを取り上げた。狩野派、琳派、四条円山派などの流派に対し、傍流扱いされていたそれらの画家は今日、若冲を頂点に江戸絵画ブームを呼ぶ一方、辻さんに続く美術史家らによる研究と再評価が進み、文化財指定も相次いでいる。
今回の展覧会はその流れを受けて企画された。岩佐又兵衛、狩野山雪、伊藤若冲、曽我蕭白、長沢芦雪、歌川国芳、白隠慧鶴(はくいんえかく)、鈴木其一(きいつ)の8人を取り上げ、初公開や海外から里帰りする作品も含めた約100点で構成する。

報道発表会は東京・銀座の商業施設「GINZA SIX」内にある観世能楽堂を会場に行われた。辻さんは白足袋にスーツ姿で能舞台に立ち、「洋画の奥深さ、空間性に匹敵するようなインパクトのある江戸時代の絵画はないだろうかと探していたら、日本美術の概念をひっくり返すようなものが次々に目の前に現れてきた」と振り返った。そして「最初の雑誌連載では5人、本を出す時に1人足したが、今回の展覧会ではその後、系譜に属する重要人物だと感じた白隠禅師と鈴木其一を加えた8人のメンバーが、にぎやかに顔見世興行を行うということでございます」と挨拶した。

晩年に至るまでパワフルだった

初公開となる若冲の「梔子雄鶏図(くちなしゆうけいず)」は、今回の展覧会に向けた調査で確認された一幅。かつて真宗大谷派(本山・東本願寺)の大谷家に伝来したものという。クチナシや鶏毛の克明な描写に若冲らしさを感じさせるが、いくらかためらいが見られる筆遣いなどから、山下裕二さんは「30代の終わりくらいの初期作ではないか。クチナシとニワトリの組み合わせは、若冲にも、他の画家にも類例がないと思う」と説明した。一方、同じく初公開となる若冲の「鶏図押絵貼屏風」(六曲一双)は最晩年の作品で、鶏を描くのを得意とした若冲の集大成と言うべき作品。尾羽を翻らせ、さまざまなポーズを取る鶏たちに勢いがあり、辻さんは「晩年に至るまでパワーは落ちなかった」と指摘した。長沢芦雪の「猿猴弄柿図(えんこうろうしず)」も初公開の一幅で、岩の上で柿の実を手にしたサルのとぼけた表情に味わいがある。

曽我蕭白の重要文化財「群仙図屏風」(文化庁)は、辻さんにとって「奇想の画家」たちの存在に目を開かれた作品の一つ。「34歳の時だったと記憶しているが、東京文化財研究所の所長さんから『変な絵が美術倶楽部の売立に出ている。みんなニセモノじゃないかと言っているが、見てくれないか』と言われて見た。こんな絵が江戸時代にあるのかと、江戸絵画のイメージがひっくり返されるような思いだった。この絵との出会いがなかったら、今回ここでお話ししている自分もいなかっただろう」と語った。

展覧会には、近年の「奇想の画家」ブームで人気を集めてきた作品が多数出品される。主なものを挙げると伊藤若冲の「旭日鳳凰図」(宮内庁三の丸尚蔵館)、「象と鯨図屏風」(滋賀県・MIHO MUSEUM)、曽我蕭白の「雪山(せっせん)童子図」(三重県・継松寺)、長沢芦雪の「白象黒牛図屏風」(米国・エツコ&ジョー・プライスコレクション)、岩佐又兵衛の重要文化財「山中常盤物語絵巻 第四巻(十二巻のうち)」(静岡県・MOA美術館)、狩野山雪の重要文化財「梅花遊禽図襖絵」(京都・天球院)など。

奇想の系譜展 江戸絵画ミラクルワールド」は2019年2月9日~4月7日、東京都美術館(東京・上野公園)で開催。

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