5美術館が共同で講演会 ~舞台裏語る

展覧会の成り立ちや現場での体験、研究の裏ワザなどを気鋭の学芸員5人が語る「真夏の夜の学芸員あるある物語」と題された共同講演会が、8月24日、東京・丸の内の日本工業倶楽部で開かれました。美術館の知られざる舞台裏のエピソードに、約180人の聴衆が熱心に聞き入りました。
登壇者は三菱一号館美術館・杉山菜穂子さん、 三井記念美術館・海老澤るりはさん、東京ステーションギャラリー・成相肇(なりあいはじめ)さん、出光美術館・廣海(ひろみ)伸彦さん、ブリヂストン美術館・田所夏子さんの5人で、後半の座談会の進行は東京ステーションギャラリーの田中晴子さんが務めました。
参加美術館はそれぞれコレクションや企画に特徴があり、同じ美術館、美術展といっても現場の様子は一様ではないようです。
三菱一号館美術館の杉山さんはフランス近代美術が専門。パリ・オルセー美術館で研修した経験や、国際巡回展を共同企画した例などを紹介。
三井記念美術館の海老澤さんは、仏像展の成り立ちを語る中で、仏像の貸し借りなどは想定していない山奥の寺院での集荷作業の苦労話を披露。足場も照明も美術館のような環境は望めない中で、緊張感の高い作業だったと振り返りました。
東京ステーションギャラリーの成相さんは、商業ポスターや雑誌など、いわゆる高級な美術品の範疇には入らない事物、資料で構成した企画を紹介。展覧会を通して現代社会を読み解く面白さを語りました。また権利の処理など、水面下の厄介な仕事の存在にも目を向けました。
出光美術館の廣海さんは、出光美術館収蔵品を中心に組織した浮世絵師の個展で、それまでの定説に基づいて「生誕290年記念」と謳っていたのに、開幕直前に新史料が発見され、最終的には「生誕273年記念」になってしまったエピソードを紹介。笑いを誘いつつ、調査研究の奥深さ、自館のコレクションを知り尽くしたいという学芸員としての思いを語りました。
ブリヂストン美術館の田所さんは、美術館の展覧会や海外との交流の歩みを、美術館に残る資料、記録を元に解説。ブリヂストン美術館の名品展がパリで開かれた(1962年)のを機に、日本に西洋画の近代的な保存・修復が導入された現代史のひとコマも紹介しました。
この後、田中さんを司会とした座談会が開かれ、企画調査のコツや隠し技、展示作品の輸送にまつわるエピソードなどが披露されました。 作品調査の第一歩として、個人所蔵の作品はその所在を知るのがまずひと苦労、という厳しい現実が指摘され、人のつながりの大切さを再確認。その一方、作品の採寸という極めて実務的な作業について、美術館のエレベーターや展示ケースに無理なく入るかどうかは、作品の安全にも関わる重要なポイントという指摘も。また、情報収集にあたってインターネットオークションサイトが重要な情報源になったという新技も紹介されました。
展覧会のための美術品の貸し借りには、所蔵美術館の学芸員等が同行して、安全確保、緊急の対応にあたるのが通例ですが、美術品を運ぶトラックに同乗する時間は数時間、場合によっては夜通し走る場合もあります。トラックの中での時間の過ごし方は、沈黙、間食、読書など様々なようで、苦笑談、珍体験がリレー式に披露されました。
驚かされたのは、ブリヂストン美術館の田所さんの体験。イタリア・ベネチアへの作品貸し出しに随行した際、この「水の都」に着いて初めて知らされたのが、ベネチア内では作品をゴンドラほどの小さな船で運ぶ、という想定外の輸送方法でした。イタリア側の業者は「いつも通り」と言って、屋根もない小船に作品を乗せて漕ぎ出そうとしたそうです。「雨が降ったらどうする」「揺れて作品が落ちたら大変だ」などとアピールして、何とかブルーシートを掛け、ベルトで固定してもらったそうです。美術館の世界では、温度・湿度が管理され、衝撃を和らげるためのクッションが装備された美術専用車で輸送するのが普通です。芸術の都のひとつベネチアで、昔ながらの作法を目の当たりにした田所さんの戸惑いはさぞかしだったでしょう。
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この催しは「EDO TOKYO NIPPONアートフェス2018」の企画のひとつ。「EDO TOKYO NIPPON アートフェスティバル」は、東京駅周辺の5つの美術館(三菱一号館美術館、三井記念美術館、東京ステーションギャラリー、出光美術館、ブリヂストン美術館)の広報担当者が、展覧会の盛り上げなどを狙って3年前に始めた共同企画で、今年は8月24〜26日に、講演会やファミリー向けのワークショップなどを行ったほか、アートフェスティバル期間中には休館中のブリヂストン美術館を除く4館を結ぶミュージアムバスも運行しました。