プラド美術館展から 物語秘めた軍神像

ディエゴ・ベラスケス 「マルス」 1638年頃 ©Museo Nacional del Prado

 武具を投げ出した中年男性が、半裸でベッドに腰掛けて頬づえをついている。軍神マルスの肖像である。勇ましい姿で登場することの多い戦いの神だが、ベラスケスはくたびれて物憂げな様子で描いた。
 肌はほのかに赤みがかっている。愛と美の女神であるヴィーナスとの不義の現場を、夫のウルカヌスに踏み込まれたのだろうか。激戦から戻ったばかりで放心しているのだろうか。様々な解釈があるが、直前に起こった物語のクライマックスを暗示する。
 西洋画では、神話や歴史の物語絵が最も高尚だった。ベラスケスは本作で、それらに劣るとされた肖像画の形式を用いながら、物語を表してみせた。王家の肖像画制作が主な仕事である、宮廷画家としての強烈な自負が感じられる。

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