【和田彩花のカイエ・ド・あーと】第26回 マティス《赤の大きな室内》

マティス《赤の大きな室内》

マティスの《赤の大きな室内》という作品を見てみなさんはどんな印象を受けますか?

私はまず、素敵な色使いだと思いました。もしかすると、マティスといえば鮮やかな色彩表現が素敵だよね!なんていうイメージとある意味での先入観を持って見てしまっているためこのような印象を抱いたのかもしれません。

現在、東京都美術館で「マティス展」が開催されているということで、今回はこちらの展覧会に出品されている《赤の大きな室内》という作品についてお話ししてみたいと思います。

アンリ・マティス 《赤の大きな室内》
アンリ・マティス 《赤の大きな室内》
1948年 油彩/カンヴァス
ポンピドゥー・センター/国立近代美術館
Centre Pompidou, Paris, 
Musée national d’art moderne-Centre
de création industrielle

改めてこの作品をじっくり見てみると、冒頭でお伝えした「素敵な色使い」というよりも、かなり大胆で、少しどぎつく感じるような色彩表現であることに気づきます。
アトリエ内の壁、床、机などの画面大部分を赤色が占めます。(画面真ん中の垂直線がアトリエ内の壁を思わせつつ、画面中央下から垂直線は消え、空間表現がしっかりと描かれていないので、壁、床のような箇所とお伝えするのがちょうど良いかもしれません。)

赤色で覆われた画中のアトリエに窓はなく、閉ざされた空間を苦手とする私からすると、圧迫感があります。

冒頭でお伝えしたように、最初は素敵な色使いだと感じたけど、実はそんなに心地よい色彩表現ではなかったりするのかもしれないという発見がありました。と言いつつ、もう少し作品と距離を置いて、画面全体を見渡してみると、あららやっぱり素敵な作品なのです。爽やかだと感じてきている自分もいます。

それはやっぱり、空間に抜け感のようなものがあるからでしょうか?

強烈に画面大部分を占める赤色に対して、テーブルの上に置かれた花瓶に生けられた花の数々は、どこかからコピペして貼り付けたかのような力の抜け具合。これらは、アトリエの雰囲気を明るくする花としてではなく、この絵画を構成する要素の一つというような感覚で置かれているのがいいですよね。

また、壁にかけられた2つの画中画。一つはモノトーンで、もう一つはマティスらしい大胆な色面が画面を彩るもの。この画中画は、鑑賞者の視点をアトリエ内の空間から画中画へ導いてくれます。画面上における空間の切り替わりとそれに伴う視点の動きって、空間に抜けを感じることでもあるのだなと思いました。まるでアトリエに窓があるかのようなのです。

じっくり画面を見ていくとマティスのこだわりがよく見えてきます。とくに、今回お話しした《赤の大きな室内》では、テーマとなるアトリエの空間を画面上で見ているというよりも、むしろマティスの絵の描き方自体を見ているかのような作品でもありました。

最初の印象を大切にしながら、細部の観察を経て変わっていく作品の印象や感想をこの記事の中で一緒に体験してもらえていたら嬉しいです。

<ココで会える>
東京都美術館で開催中の「マティス展」は、約20年ぶりの開催となる20世紀芸術の巨匠アンリ・マティスの大回顧展。世界最大規模のマティスコレクションを誇るパリ、ポンピドゥー・センターから来日した名品約150点を紹介。本展は日時指定予約制。8月20日まで。
展覧会公式サイト

和田彩花
和田彩花1994年8月1日生まれ、群馬県出身。アイドル。2009年4月アイドルグループ「スマイレージ」(後に「アンジュルム」に改名)の初期メンバーに選出。リーダーに就任。2010年5月「夢見る15歳」でメジャーデビューを果たし、同年「第52回日本レコード大賞」最優秀新人賞を受賞。2019年6月18日をもって、アンジュルム、およびHello! Projectを卒業。アイドル活動を続ける傍ら、大学院でも学んだ美術に強い関心を寄せる。
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