縄文から現代アートまで充実の青森へ【アートな旅】をしてきました

青森県立美術館

新緑が眩しい季節となりました。気候に誘われ、どこかへ旅に出ようかと考えている方におすすめしたいのが青森です。雄大な自然、ノスタルジックな街並み、そして豊かな伝統と食文化。加えて近年、青森はアートに力を入れており、2020年に「弘前れんが倉庫美術館」、そして翌2021年には「八戸市美術館」がリニューアルオープンしています。
今回は青森市内を主に、近年生まれた弘前市のアートスポットもあわせてご紹介。「ちょっと息抜きをしてみたい」、そんな気持ちに応えてくれる青森の魅力を探しに出かけましょう。(ライター・虹)

青森市

青森港 手前は、ねぶたの家 ワ・ラッセ

青森県のほぼ中央に位置する青森市は、江戸時代より本州と北海道をつなぐウォーターフロントの役割を担っていました。青森ねぶた祭をはじめとする伝統文化や風光明媚な景観に温泉、りんごや海鮮といったグルメも楽しめます。
もちろんミュージアムも充実。こちらで紹介する以外にも、「青森公立大学 国際芸術センター青森」や「ねぶたの家 ワ・ラッセ」、そのほか博物館や郷土館などが点在しています。

【棟方志功記念館】

棟方志功記念館 校倉造りを模した建物も魅力

青森は「世界のムナカタ」こと、棟方志功が生まれ育った地としても有名です。1975年に開館した「棟方志功記念館」は、春夏秋冬と年に4回企画展を開催し、豊富なコレクションで彼の画業を広く伝えています。館内は大小の展示室が2つとドキュメンタリー映画を見ることができるホールを備えており、落ち着いて鑑賞できる豊かな環境が提供されています。

会場風景

現在開催中の展覧会「REMEMBER~雑華山房主人と鎌倉山~」では、画家が鎌倉のアトリエ「雑華山房」で制作した作品を紹介。棟方作品の持つダイナミズムと繊細さのコントラストをリズミカルに綴り、その人間性にも焦点を当てた充実のキュレーションです。
同館は惜しくも 2024年3月で閉館されるとのこと。画家の原点とも言える青森の地で、その芸術に触れてみてはいかがでしょうか。また、2023年は「生誕120年 棟方志功展 メイキング・オブ・ムナカタ」が富山、青森、東京で開催されます。あわせてその作品群に出会う好機です。

棟方志功記念館
開館時間:4月~10月 午前9時~17時
11月~3月 午前9時~17時
休館日:月曜日 祝日およびねぶた祭り期間(8/2~8/7)は開館
※年末年始や臨時休館などのお知らせは公式サイトをご確認ください。
公式サイト:https://munakatashiko-museum.jp/

【青森県立美術館】

青森県立美術館

2006年に開館以来、青森のアートシーンを幅広く牽引してきた存在といえば「青森県立美術館」でしょう。青森にルーツを持った個性あふれる作家たちをはじめとする豊かなコレクションには定評があり、またマルク・シャガールの大作、バレエ「アレコ」の背景画を擁する美術館としても知られています。

加えて弘前市出身の作家・奈良美智の作品が充実しているのも特徴です。そのひとつが、同館のシンボル的存在として親しまれている《あおもり犬》。身体が半分地中に埋まっているのは、お隣の三内丸山遺跡を意識して作られたからなのだとか。冬季以外は展示スペースが解放となり、そばに近寄って触れあうことができます。静かにたたずむ姿は、どこか青森の凛とした空気を彷彿とさせるようです。

奈良美智《あおもり犬》2005 青森県立美術館蔵 Artwork © Yoshitomo Nara Photo © Daici Ano

ミュージアムショップやカフェも人気があり、つい長居したくなる心地よい美術館。現在開催中の「庵野秀明展」とともに、青森ののびやかなパワーを感じ取ってください。

青森県立美術館
開館時間:9時30分~17時(最終入場16時30分)
休館日:毎月第2・第4月曜日
公式サイト:https://www.aomori-museum.jp/
※チケットの販売等詳細は公式サイトをご確認ください。

【特別史跡 三内丸山遺跡】

「三内丸山遺跡」 発掘された集落跡と、復元された集落が並ぶ「縄文のムラ」エリア

青森県立美術館から徒歩10分ほどのところにある「三内丸山遺跡」は、縄文時代の大規模な集落跡が発掘された遺跡として知られており、2021年には三内丸山遺跡を含む「北海道・北東北の縄文遺跡群」が世界文化遺産に登録されました。

企画展示室 特別展「三内丸山とヒスイ-本州最北に集う緑と技術-」は7月2日まで

縄文時代の暮らしや文化を詳細に伝える常設展示室「さんまるミュージアム」、遺構の露出展示や復元された集落の様子を見ることができる「縄文のムラ」エリアに加え、2019年には国宝や重要文化財などが展示される企画展示室が新たにオープン。そのほか縄文食材のメニューが楽しめるレストランや、土偶などを作れる体験工房、2020年に内容をリニューアルした縄文シアターなど、全館縄文づくしとなっています。

出土した遺跡は、考古学に詳しくなくても興奮すること間違いなし。悠久の時に思いを馳せながら、縄文時代を味わってみては。

特別史跡 三内丸山遺跡
開館時間 9時~17時 / 9時~18時(GW、6/1~9/30のみ)
※入場は閉館の30分前まで
休館日:毎月第4月曜日(祝日の場合は翌日)、12/30~1/1
公式サイト:https://sannaimaruyama.pref.aomori.jp/

弘前市

弘前公園

桜の名所としても知られる弘前市は、青森駅よりリゾートしらかみで約35分、奥羽本線を使って約45分でアクセス可能です。
弘前城が佇む弘前公園をはじめ、街を歩くだけでも十分楽しめますが、ここでぜひ立ち寄って欲しいのが「弘前れんが倉庫美術館」です。

【弘前れんが倉庫美術館】

弘前れんが倉庫美術館 ©︎Naoya Hatakeyama 改修は建築家の田根剛が担当。歴史ある建造物を耐震補強し、高度な技術で既存の煉瓦壁を無傷で保存した

2020年にオープンした「弘前れんが倉庫美術館」は、堅牢な煉瓦造りの外観が目を引くミュージアム。元は明治・大正期に建設された酒造工場でしたが、時を経て美術館へと生まれ変わりました。同館の設計コンセプトは「記憶の継承」。煉瓦倉庫の記憶を未来へ継承し、建築と共振する作品を通じて新たな空間体験を創出することを目的としています。
また建築や地域に合わせた作品制作を重視し、完成した作品を展示、収蔵するという一連の流れを持っているそうで、弘前独自のコレクション形成を視野に入れた取り組みは、まさに記憶を継承するにふさわしい活動と言えます。

大巻伸嗣《Liminal Air Space-Time: 事象の地平線》2023 年 「大巻伸嗣—地平線のゆくえ」展示風景 撮影:木奥惠三

現在開催中の「大巻伸嗣―地平線のゆくえ」は、作品と建物が見事に融合した圧倒的な空間が見どころです。暗闇の中で作品と向き合うかけがえのない時間は、ここでしか味わえない貴重な体験となるでしょう。

CAFE & RESTAURANT BRICK とミュージアムショップ

美術館のお隣にはショップとカフェを兼ねた棟が建っており、高い天井を持つ開放的な空間は鑑賞の余韻に浸るのにうってつけです。豊富なメニューに加え、この土地にちなんでシードルの提供があるのも嬉しいですね。
弘前に生まれた新たなアートスポットは、人々に愛されながら多くの記憶を未来へ伝えてくれそうです。

弘前れんが倉庫美術館
開館時間:9時~17時
※但し、金曜日・土曜日に限りスタジオ、ライブラリーのみ21時まで開館
休館日:火曜日(祝日の場合は翌日に振替)、年末年始
※弘前さくらまつり及びねぷたまつりの期間中は全日開館
公式サイト:https://www.hirosaki-moca.jp/

そのほか弘前公園内には弘前市博物館が。また、明治期を中心に建てられた洋館が多数残る街としても知られており、そのほとんどは現在も見学することができるようになっています。

旧弘前市立図書館

なぜこんなにも多くの洋館があるのかというと、明治以降弘前は「学都」を目指しており、外国人教師の招聘に力を入れていたことに由来します。その後幸いなことに、大きな災害や戦火による被害を受けることが少なかったため、現在もほぼ当時の姿を保つことができているのだとか。

旧東奥義塾外人教師館

弘前市では、観光案内所などで「趣のある建物ガイドマップ」を配布中。こちらを片手に歴史ある街を歩いてみてはいかがでしょうか。

現在青森には、県内にある5つの美術館、アートセンターが連携し、青森のアートの魅力を国内外に発信する「AOMORI GOKAN」というプロジェクトを推進中。上で紹介した青森県立美術館や弘前れんが倉庫美術館に加え、青森公立大学 国際芸術センター青森、十和田市現代美術館、八戸市美術館の5館の情報が得られるポータルサイトを主体に、幅広い分野での地域振興を目指しているのだそう。今後の展開も楽しみですね。
・AOMORI GOKAN:https://aomorigokan.com/

広大な青森は日帰りや1泊で全て回ることは困難ですが、気になる展覧会ごとにエリアを決めて訪れたり、思い切って周遊の旅程を組んだりと、様々な楽しみ方ができます。四季の醍醐味を味わいながら、その土地ならではのアートに出会う旅に出かけてみませんか?

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【美術人ナビ】第7回 十和田市現代美術館