【第12回】「ハカセとNARIのときめくアート」大阪中之島美術館で「佐伯祐三-自画像としての風景」は見逃せない

今回、ハカセとNARIの2人がやってきたのは大阪中之島美術館で開催中の開館1周年記念特別展「佐伯祐三-自画像としての風景」です。

世界一の佐伯祐三コレクションを誇る大阪中之島美術館。佐伯祐三作品をはじめとした山本發次郎コレクションが大阪市に寄贈されたことは、美術館設立のきっかけのひとつとなっています。まさに美術館の原点とも言うべき展覧会だと言えるのではないでしょうか。館のコレクション以外からも代表作が集結した回顧展。見逃すわけにはいきません!

 

大阪出身のNARIは、子どもの頃から佐伯祐三作品には親しんできました。展覧会で何度か観た思い出があります。とにかく、洋画家といえば佐伯祐三でした。

佐伯祐三は1898年(明治31年)に大阪に生まれ、1924年、25歳でパリに留学します。1920年代のパリと言えば、「エコール・ド・パリ」の時代であり、ユトリロやモディリアーニなど錚々そうそうたる芸術家たちが活動していた時代。華やかなパリに到着した若き佐伯は、さぞ画家としての未来に自信をみなぎらせていたことでしょう。

パリに到着して半年ほどしてから、佐伯は、先輩の里見勝蔵に連れられて、フォーヴィスムの巨匠ヴラマンクの住むオーヴェールに自信作を携えて訪れました。ヴラマンクは、佐伯の作品を観るや、「このアカデミック!」と痛罵し、1時間半にもわたって怒鳴り続けたというから尋常ではありません。帰り道、佐伯は里見に「有難う、済まなかった」と涙を浮かべながら言ったそうです。

その後描かれた自画像は、それまでの画風から一変します。顔の部分が削り取られていますが、ヴラマンクの叱責を受けて、自らの作風への迷いがうかがわれます。

ちなみにオーヴェールは、ゴッホ終焉の地であり、ゴッホとその弟のテオのお墓もあります。佐伯の《オーヴェールの教会》は、ゴッホの作品へのオマージュと思われます。

肺病を患っていたことから、健康状態を心配した家族の意向もあり、佐伯はしぶしぶ帰国します。
《下落合風景》(1926年頃、和歌山県立近代美術館蔵)は、アトリエからすぐ近くの「八島さんの前通り」を描いた作品です。一時帰国時代はこれら「下落合風景」と「滞船」を集中して描きました。

帰国していた佐伯ですが、自らの作品を販売するなどして資金を捻出し、19278月に再びパリの地を踏みます。最初の留学では「壁のパリ」を描きましたが、二度目のパリではポスターなどを繊細な線描で「線のパリ」を表現しています。描くスピードが速いことで知られた佐伯ですが、この《ガス灯と広告》の文字も、素早く勢いのある筆致となっています。

パリから東へ約40キロにあるヴィリエ=シュル=モランに、荻須高徳ら後輩画家たちと佐伯は写生旅行に出かけます。当時の彼らの写真が、展覧会の会場の壁に大きく引き伸ばされているのですが、若者らしくとても楽しそう。しかし、実際は寒さ厳しい中、朝から晩まで、どんな天候でもいとわず描く「荒行」だったのだとか。
《カフェ・レストラン》は、佐伯達が宿泊したホテルのレストランを描いたもの。ここで家族や仲間と食べる食事は、きっと大いに盛り上がったに違いありません。

パリに戻ってから、雨の中で写生したことをきっかけに、佐伯は風邪をこじらせてしまいます。そんな中、白髭の郵便配達夫が偶然佐伯家に郵便物を届けにきました。絵のモデルを依頼し、制作したのがこの《郵便配達夫》。体調が優れないなか描いたとは思えない力強い作品です。

その後、病状は回復せず、精神的にも不安定となり失踪。クラマールの森で自殺未遂したところを発見されます。そして精神病院に入院し、そこで佐伯は、静かに息を引き取りました。つい数か月ほど前には、モランでバリバリ描いていた人が、こんなに急激に衰弱するものかと驚かざるを得ません。

こうして、佐伯祐三の作品を観ながら彼の人生を辿っていくと、驚くほどゴッホの人生と似ていることに気付かされます。画家としての活動期間が10年ほどであったこと、経済的には兄弟に頼っていたこと、多作で描くスピードが速かったことなど。そして全身全霊をかけて芸術に向き合った生き方そのものも。

短くも数々の珠玉の作品を生み出した佐伯祐三。その生きざまを感じに、ぜひ展覧会に足を運んでみてはいかがでしょうか。

(アート探訪インスタグラマー、マンガ家・NARI)
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開館1周年記念特別展「佐伯祐三 ー 自画像としての風景」
大阪中之島美術館 5階展示室
会期:2023年4月15日(土)~6月25日(日)
開場時間:10時~17時(入場は16時30分まで)
休館日:月曜日(5月1日を除く)
観覧料:一般1800円、高大生1500円、小中生500円
詳しくは、公式サイト(https://saeki2023.jp/