【和田彩花のカイエ・ド・あーと】第25回 ドガ《マネとマネ夫人》

ドガ《マネとマネ夫人》

今、私が滞在しているパリにあるオルセー美術館では「Manet / Degas」というマネとドガの展覧会が開催されています。

今回の連載は、この展示を見た上でドガについて書こうと思い、北九州市立美術館所蔵のドガ《マネとマネ夫人像》をテーマに決めました。こちらの作品、何度も書籍の中で見てきたのですが、日本の美術館に所蔵されていることを知らず、とても驚きました。

それからなんと、「Manet / Degas」展に本作が来ているというとても嬉しくミラクルな出来事が起こりました!!

せっかくなので、展覧会を通して考えたことも交えながらお話していきたいと思います。

ドガ《マネとマネ夫人像》1868-69年
エドガー・ドガ《マネとマネ夫人像》
1868-69年頃 北九州市立美術館蔵

展覧会を見ていてまず驚いたのは、ドガ作品に何度もマネの姿が登場することです。一方で、マネ作品にドガが登場することはありません。

また、パリの現代生活を描き、同じ主題を扱うこともあった2人ですが、印象主義の画家たちによるグループ展(印象派展)に参加していたドガに対し、マネは印象派展への参加を拒否しています。

この出来事から二人の芸術観の違いは明らかなように感じますが、ドガの芸術的な立ち位置は、印象主義の画家でありながら「近代絵画の父」と言われるマネと類似する点が興味深いと感じました。
とくに、私が二人の共通点だと感じたのは、人物表現への関心です。ドガはデッサンを基本に、自然な姿で人物を描き、マネは人物表現に関して自然な姿、振る舞いであることを求めました。

展覧会で見たドガによるデッサンは、古典的な絵画を想起させるようなしっかりとした立体感を保ちながら、自然な姿で描かれていたのが印象的でした。(ここで私がいう自然な姿勢というのは、理想化、または誇張された身振り手振りをする人物表現ではないという意味です。)

そんなデッサンの数々を踏まえたうえで「マネとマネ夫人像」のマネの体勢に着目すると、こんなにも退屈そうな、気怠そうな姿勢を自然に描いてしまえるドガの技術に気づくことができます。ソファで高慢な態度を取るようなマネの姿は、2人の関係を表すようでもあるなと思いました。

ちなみに、本作のシュザンヌ(マネ夫人)の顔の歪みが気に入らなかったマネによって、作品が切断されたため、作品の右半分がこのようになっているといわれています。

話は少し戻りまして、日常で見られるような自然な姿勢や振る舞いを画中の人物描写に求めるところから絵画制作を始めるというのはマネのトマ・クチュールのアトリエでの修業時代に見受けられるエピソードです。(それにまつわるエピソードは、アントナン・プルーストの『マネの思い出』に書かれています。)

しかし、出来上がった作品をみてみるとマネによって描かれた人物たちは、蝋人形のようだと感じることが多いです。人物の心情があまり描きだされず、仕草や振る舞いの瞬間を捉えるわけでもなかったりして、なんだか不自然なのです。(その不自然さこそがマネ作品の特徴ですし、西洋絵画の伝統を乗り越えようとした証だと思います。)

結果として、作品上で見られる表現には大きな違いがありますが、人物表現に関心を持ち、かつそれらは日常で見られる姿勢や動きを出発点にしている点を含めて、2人に共通する特徴と言えるかもしれません。

ドガとマネは2歳差でほぼ同世代ということも関係あるでしょうか?ドガもまた当時の伝統と革新のはざまから制作をはじめた画家でもある側面を知れたのが嬉しかったです。

今回取り上げたドガの《マネとマネ夫人像》は1868~69年頃と画業のはやい時期の作品なので、最終的にドガがどのような芸術観に行き着いて、なにを描き出そうとしたかを知りたくなりました。

<ココで会える>
福岡県北九州市に本館、そして分館とあり世界的美術作品を含む収蔵品をはじめ、多くの企画展覧会を開催している北九州市立美術館。「地域とともに成長していく美術館」として、魅力的な美術に触れ合う機会を発信し続けています。本館では現在、「コレクション展Ⅲ 特集 浮世絵に見る江戸の名所」が開催中(5月7日まで)。
北九州市立美術館公式サイト

和田彩花
和田彩花1994年8月1日生まれ、群馬県出身。アイドル。2009年4月アイドルグループ「スマイレージ」(後に「アンジュルム」に改名)の初期メンバーに選出。リーダーに就任。2010年5月「夢見る15歳」でメジャーデビューを果たし、同年「第52回日本レコード大賞」最優秀新人賞を受賞。2019年6月18日をもって、アンジュルム、およびHello! Projectを卒業。アイドル活動を続ける傍ら、大学院でも学んだ美術に強い関心を寄せる。
最新曲「きいろいいえ」が好評配信中!

公式サイト
公式Twitter
公式Instagram


連載の一覧はこちら