【探訪】田中一村記念美術館 画家を魅了した奄美大島でその作品に魅了される

鹿児島市の南方海上約380キロメートルに浮かぶ島、奄美大島。亜熱帯に属し、エメラルドグリーンの美しい海に囲まれたこの島は、マングローブや原生林など他には見られない珍しい動植物を残していることから東洋のガラパゴスとも言われています。そんな自然豊かな奄美大島に魅せられ住み着いた人は少なくありません。現在、人気が高まっている日本画家、田中一村(1908~1977年)もその一人です。
一村の生涯をたどる美術館
一村の作品と深いつながりのある奄美大島には田中一村記念美術館があります。奄美空港のほど近く、海のそばに建つこの美術館は470点におよぶ一村の作品を所蔵しており、そのなかから80点を常設展示しています。展示作品は年に4回入替が行われます。また、この美術館は奄美大島独特の高倉と呼ばれる建築方法を模して造られているところも見どころです。
館内は大きく3つのセクションに分かれています。南画家として脚光を浴びた幼年期から青年期の東京時代、自分の絵を模索した苦悩の青年期から壮年期の千葉時代、そして新しい絵の境地を開いた壮年期から晩年の奄美時代と一村の人生を辿りながら、じっくりと作品が鑑賞できます。
明治41年、栃木県に彫刻家の長男として生まれた一村。神童と呼ばれ、若くして南画家として成功を収めます。その後、東京から千葉へ移住。自らの画風を模索し思い悩んだ末、近畿地方や四国,九州へスケッチの旅をします。その旅の途中,宮崎県青島に立ち寄った一村は、その南国情緒あふれる風景に魅了され、さらに南にある奄美大島への想いを募らせて,昭和33年,50歳にして奄美大島への移住を決意します。奄美大島に移住してからの一村は、大島紬の染色工として働きながら、本土で展示会を行うため、絵を描き続けます。しかし、その道半ば、奄美大島の自宅で夕食の準備中に亡くなります。69歳でした。
精力的に奄美を描く
特筆すべきは、奄美に移住してからの一村の絵ががらりと変わるところです。南国にふさわしいビビッドな色使いになり、ソテツやビロウといったこの島独特の植物がふんだんに描かれます。美しい鳥が描かれるのも印象的です。この移住が一村にとっていかに大きな出来事だったかが絵を通して伝わってきます。
一村は知り合いの漁師に「珍しい魚が釣れたら教えて」と頼み、魚を描くときは鱗を一枚一枚外して観察して描いたという逸話も残るほど、常に芸術に対してストイックに向き合っていました。そんな一村が奄美大島で描いた絵は、一村の死後、多くの人々の心をつかむことになりました。


一村が最期を迎えた家は残されていて、見学もできます。この家に移った一村は「御殿のようだ」と喜んだと伝わっています。一村が亡くなったのは、この家に引っ越ししたわずか10日後でした。この家は田中一村記念美術館から、名瀬市内に向かう途中にありますので、ぜひ美術館と併せて見学されることをおすすめします。
奄美大島を旅すると田中一村の絵に描かれているような南国の風景をそこかしこで目にします。海の美しさや山の緑の深さに目を奪われ、暖かい南国の空気に癒される人も多いでしょう。これが一村の見た風景、歩いた道かと思うと、一村の絵がより魅力的に見えてくるはずです。ぜひ現地に足を運んで、一村の人生にふれてみてはいかがでしょうか。
(ライター・若林佐恵里)
田中一村記念美術館 |
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住所:鹿児島県奄美市笠利町節田1834 奄美パーク内 |
開館時間:9:00~18:00(7・8月は〜19:00) ※入館は閉館の30分前まで |
休館日:第1・第3水曜日(祝日の場合は開館、翌日休) |
入館料:大人 520円 高・大学生 370円 小・中学生 260円 |
美術館の公式サイト 電話番号:0997-55-2635 |
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