【和田彩花のカイエ・ド・あーと】第24回 佐伯祐三《コルドヌリ(靴屋)》

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佐伯祐三《コルドヌリ(靴屋)》

現在、東京ステーションギャラリーで「佐伯祐三 自画像としての風景」展が開催されています。
今回は、こちらの展示から《コルドヌリ(靴屋)》という作品についてお話ししてみたいと思います。

佐伯祐三といえば、暗い色調と大胆な筆使いで描かれたパリの街並みと画面の中のポスターや看板に見られるたくさんの文字を思い出します。
そんなイメージを思い浮かべながら、《コルドヌリ(靴屋)》という作品を見たとき、自分が思い描いていた佐伯祐三作品のイメージとは異なる雰囲気に驚きました。

とくに本作では、色調の均衡の良さに魅了されました。

佐伯祐三《コルドヌリ(靴屋)》
佐伯祐三《コルドヌリ(靴屋)》
1925年 石橋財団アーティゾン美術館蔵

パリの薄汚れた壁を想起させられながら、画面には丁寧に重ねられた絵の具の層を発見できる喜びを感じられます。画面の多くを占める建物の外壁は、明るいクリーム色から緑がかったグレーへと微妙に変化していきます。そこへCordonnerieの文字とその黒色が、靴屋の奥へと続いていく陰、または店先に吊るされた靴の黒と呼応しながら、外壁にアクセントを加え、画面全体のバランスをとっているようで素敵だと思いました。

佐伯祐三はヴァラマンクやユトリロの影響があると言われていますが、たしかにパリの街並み(ユトリロが多く描いたモンパルナス周辺)を題材にし、奥行きをしっかりつけながら街並みを描いていくところにユトリロと重なります。
ときには、少し前の世代の画家たちの模写のようにも見える作品が多いのですが、何十年という時間軸で絵を描いていく画家たちが多いなか、東京美術学校してから約5年という短い画業の中でここまで多くの人に愛される作品を生み出したことに驚きます。
今、見られている作品もまだまだ画業が変化している最中だったのかもしれないと思うと、数少ない作品だけで何かを判断してしまうことへ申し訳なさを感じたりもします。

話は少し変わるのですが、学生時代、様々な地域と時代の作品を見ていた私は、なんとなく日本の洋画は見にくいと感じていました。
馴染みのある日本的な主題がキャンバスの中で陰影をつけられながら、または油彩画のモダンといわれている手法で描かれていく光景が、西洋絵画を熱心に見ていた私からすると見慣れない光景に感じたのだと思います。
そんな学生時代、洋画の中でも見やすいと感じたのが佐伯祐三の作品だった気がします。普段フランス絵画の中で見ているのと変わらない風景がモダンといわれるような手法で描かれているからです。

今になってそのような出来事を思い返せば、なんて自分は西洋美術の示す美を吸収しすぎていたのだろうかと思います。

当時の私からしたら佐伯祐三の作品はいわゆる西洋絵画的で見やすいものだったけれど、改めて佐伯自身の表現はどこにあるだろうかと考えたりもします。

少し前にフランスでアジアフェアなるものを見たときに、西洋由来の「芸術」の規範にどこまで同化し(同化という言葉使いがあっているのかわかりません。「吸収」とは違って私には同化という言葉の方が適切な光景だと思いました。)、どのように個性を出し、どんな視点から評価されているのかを考えていたのですが、今のアジアフェアと明治の洋画は時代も状況も異なりますが、西洋とアジアが重なる場所ではどうしたっていろんなことを考えてしまいます。

<ココで会える>
展覧会「佐伯祐三 ― 自画像としての風景」は東京ステーションギャラリーで4月2日まで。その後、4月15日~6月25日に大阪中之島美術館へ巡回します。
「佐伯祐三 ― 自画像としての風景」公式サイト

和田彩花
和田彩花1994年8月1日生まれ、群馬県出身。アイドル。2009年4月アイドルグループ「スマイレージ」(後に「アンジュルム」に改名)の初期メンバーに選出。リーダーに就任。2010年5月「夢見る15歳」でメジャーデビューを果たし、同年「第52回日本レコード大賞」最優秀新人賞を受賞。2019年6月18日をもって、アンジュルム、およびHello! Projectを卒業。アイドル活動を続ける傍ら、大学院でも学んだ美術に強い関心を寄せる。
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