【第8回】「ハカセとNARIのときめくアート」史上初の 「大阪の日本画」展 大阪中之島美術館で4月2日まで

「大阪の日本画」が大阪中之島美術館で1月21日から4月2日まで開かれています。近代大阪の日本画が勢ぞろいする大規模展は史上初めてで、大阪出身で関西在住のNARIさんは、ひとかたならぬ思いで、本展を取材してきました。
昨年2月に開館し、すっかり大阪の新名所として定着した大阪中之島美術館。今回、「開館1周年記念特別展 大阪の日本画」と題して、大阪という街が生んだ、知られざる作品の数々がお目見えしています。ハカセとNARIの二人も、どんな大阪が観られるのかわくわくして展覧会に向かいました。
北野恒富は、明治から昭和にかけて活躍した大阪を代表する画家。恒富が描く人物画は妖艶かつ退廃的であったことから「画壇の悪魔派」と呼ばれました。また、大正末から昭和期にかけて、大阪の風俗を題材とした「はんなり」とした上品で華麗な作品を発表しました。
十日戎で行われる籠行列を描いた《宝恵籠(ほえかご)》の女性からは、「はんなり」とした風情が感じられるのではないでしょうか。
菅楯彦は、「浪速風俗画」と呼ばれる、近代化以前の古き良き大阪庶民の生活を人情味あふれた作風で描きました。
《浪華三大橋緞帳》には、向かって左から京橋、天満橋、天神橋、難波橋、栴檀木橋が描かれています。うち、天満・天神・難波が三大橋です。この緞帳は、現在も大阪美術倶楽部の舞台緞帳として使われています。
矢野橋村は、明治40年(1907年)13歳の頃に、愛媛県今治市から大阪に出てきますが、間もなく左手切断という事故に遭い、右手一本で画業に専念する決意をします。中国の文人画である「南画」に近代化的感覚を取り入れ、日本の風土にもとづく「新南画」として打ち立てました。
《那智奉拝》は、古くから信仰の対象となっている和歌山県にある那智御瀧を描いた作品。橋村は、太平洋戦争中に、日本の必勝を願って描いたという趣旨のことを述べています。
江戸時代から商都として栄えた大阪。明治以降、床の間が庶民に普及し、そこに飾る掛け軸の需要が高まりました。船場界隈を中心に商家では、季節に合わせた掛け軸を飾ることが好まれます。それゆえに、作品が自己主張しない、さりげなく品よく床の間になじむ作品が重宝されました。
床の間に飾ることでその魅力の真価がわかることから、展覧会では床の間が再現され、私たちは当時の人の目線で作品を鑑賞することができます。NARIが「お主も悪よのう」と時代劇にありがちな悪代官と商人のやり取りの真似をしていますが、ちょっと時代が違うような?(《雨中渓舟図》《泊船図》は2月12日までの展示)
大阪では、富裕層を中心に子女に絵画を習わせることが多かったようです。そのため、優れた女性画家が活躍することになりました。
島成園は、大阪府堺市の生まれ。絵は、画家の兄の仕事を手伝いながらの独習でした。《祭りのよそおい》は、大阪の夏祭りの少女たちを描いた作品。しかしよく見ると、その少女たちに経済的な格差が見て取れます。左端の少女が最も裕福で、右端の少女が最も貧しい。女性画家ならではの視点で描かれた本作は、少女らの心の機微が画面から伝わってくるようです。
木谷千種も大阪が生んだ女流画家。12歳の時、アメリカ・シアトルで洋画を学ぶために留学しました。《浄瑠璃船》は、木谷千種の代表作で、幕末の夏の大坂、大川での川涼みの様子を描いています。浄瑠璃の太夫の語りと三味線の音が今にも聞こえてきそうで、水の都、大阪らしい作品です。(前期2月26日までの展示)
豊穣な大阪の日本画を概観する今回の展覧会に行けば、大阪人は地元を誇りに思い、大阪以外の人は、新たな美術の世界を発見した喜びに満たされることでしょう。
展覧会は前期と後期で大きく展示替えが行われ、全167点もの作品が展示されます。大正14年(1925年)に大阪は、日本で最大の人口を誇る世界6位の大都市となりました。こうした経済的な発展を背景に、東京や京都とは異なる独自の芸術文化を育みます。そんな近代大阪の街が生んだ日本画を「はんなり」と観に行ってみてはいかがでしょうか。
大阪の日本画 |
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会場:大阪中之島美術館 (大阪市北区中之島 4-3-1) |
会期:2023年1月21日(土)~4月2日(日) 前期展示 1月21日~2月26日、後期展示 2月28日~4月2日 |
休館日:月曜日(ただし3月20日は開館) |
開場時間:10:00~17:00(入場は16:30まで) |
観覧料:一般 1,700円/高大生 1,000円/小中生以下無料 |
詳しくは美術館公式サイト(https://nakka-art.jp)へ。 |
巡回:東京ステーションギャラリー 2023年4月15日(土)~6月11日(日) |
おまけ 大阪出身のNARIは、船場商家の「ぼんち」を真似て、今回、和装で登場してみました。山崎豊子の小説『ぼんち』の「あとがき」に「大阪では、良家の坊っちゃんのことを、ぼんぼんと言いますが、根性がすわり、地に足がついたスケールの大きなぼんぼん、たとえ放蕩を重ねても、ぴしりと帳尻の合った遊び方をする奴には“ぼんち”という敬愛を籠めた呼び方をします」とあります。ちなみに、揚げせんべいで有名な「ぼんち揚げ」の名前も小説由来なんだそう。関西以外の人はご存知でしょうか? 美味しいですよ。
(アート探訪インスタグラマー、マンガ家・NARI)
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