【和田彩花のカイエ・ド・あーと】第20回 デュフィ《パリ》

デュフィ《パリ》
先日、パリ市立近代美術館に所蔵されているデュフィの《電気の精》という作品をみました。横幅60mある大型のこの作品は、1937年のパリ万国博覧会で、Le Palais de la Lumière et de l’Électricitéのホールの装飾を依頼されて制作されたようです。
神話と電気の歴史を題材に様々な科学者、哲学者が登場するのですが、まるで人物紹介をしていくかのような画面に驚きました。他には、機械や神様の姿が描かれているのですが、モチーフは並列されていくようで想像していたよりも淡々とした構図だと感じました。こんなにも大きな画面であるにも関わらず、モチーフや構図に劇的な物語性を持せていない点が素敵だと思いました。
とはいえ、少し離れて幅60mある画面を見渡してみると、単調に配置されているモチーフに対して色彩はとても表情豊か。こんなにも色彩が全体の強弱を語れるのかなんて感激しました。それも、デュフィの絵画でよく見られるあの軽やかな色彩を保ったまま。
ちょっと前置きが長くなりすぎてしまったのですが、そんな出来事から今回はデュフィについてお話ししたいと思います。
神奈川県のポーラ美術館に収蔵されているデュフィ《パリ》は、パリ万博と同じ1937年に制作されたようです。《電気の精》の後に《パリ》を見返してみるとパリの歴史的建築物が並ぶ絵画に違和感を感じずにいれなかったです。
ラウル・デュフィ《パリ》1937年 油彩/カンヴァス 4面、各面190.0 x 49.8 cm ポーラ美術館蔵
というのもこの時代によく見受けられる芸術的な探究心にあふれた絵画というよりも、モチーフそのものとその並列された様子が目に入るようになったからです。
ポーラ美術館でこの作品を見たときにはパリに行ったときの思い出とか、まだ行ったことのないパリの街並みに思いを巡らす楽しみ方ができたのですが、よくよく考えてみるとフランスの画家がパリの歴史的建造物を集めた画面を描くってどんな背景があってのことだろうと考えました。
とはいってもやはりデュフィ作品。透明感ある色彩がモチーフの形を超えて広がっていく様子に魅了されます。それから、今回デュフィの作品を改めて見ていて思ったのは、デュフィの描く線も素敵ですよね。特に《パリ》の画面上のあたり、小高い丘のようになっている箇所のサクレ=クール寺院のゆるやかな輪郭線と、そのすぐ右隣、夜空を表すうねる線が好きです。
何度も見たことのある作品に新しい発見を見つける瞬間って頻繁に訪れるものではないと思うので、読んでくださる皆さんがいるこの場所でそんな瞬間を共有できて嬉しかったです。
<ココで会える>
ポーラ美術館は、日本屈指の個人コレクションを誇る美術館。約10,000点のコレクションは、西洋美術から日本の洋画、日本画、版画、東洋陶磁、ガラス工芸、古今東西の化粧道具から現代アートまで、多岐にわたる。神奈川県箱根町という、アートに没入できる好環境もあり、様々な企画展で多くの来場者を魅了している。現在、開館20周年記念展「ピカソ 青の時代を超えて」が2023年1月15日まで開催中。
ポーラ美術館公式サイト
本作品は2023年2月5日までアーティゾン美術館にて開催中の「パリ・オペラ座−響き合う芸術の殿堂」展に出品中。
アーティゾン美術館公式サイト
和田彩花1994年8月1日生まれ、群馬県出身。アイドル。2009年4月アイドルグループ「スマイレージ」(後に「アンジュルム」に改名)の初期メンバーに選出。リーダーに就任。2010年5月「夢見る15歳」でメジャーデビューを果たし、同年「第52回日本レコード大賞」最優秀新人賞を受賞。2019年6月18日をもって、アンジュルム、およびHello! Projectを卒業。アイドル活動を続ける傍ら、大学院でも学んだ美術に強い関心を寄せる。
初のソロアルバム「私的礼讃」が好評配信中!
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