【探訪】「日本一の日本庭園」と多彩なコレクションが魅力―「没後80年 竹内栖鳳 京都画壇の俊英たちとともに」展を開催中の島根県安来市の足立美術館に行ってきました

「没後80年 竹内栖鳳 京都画壇の俊英たちとともに」
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会期
2022年8月31日(水)〜11月30日(水) -
会場
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観覧料金
大人2300円、大学生1800円、高校生1000円、小中学生500円
※各種割引制度あり。
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アクセス
JR安来駅から無料シャトルバスで約20分、車の場合、山陰道安来ICから約10分 - カレンダーへ登録
詳細・最新情報は公式サイト(https://www.adachi-museum.or.jp/)で確認を。
島根県安来市は歴史好きには趣深い土地である。
何しろ地名の由来が、〈神代の昔、スサノオノミコトがこの地に来られ「吾が御心は安平(やす)けくなりぬ」といわれたことから、「安来(やすぎ)」というようになったと伝えられています〉(安来市公式ホームページ)というのだから。大正時代に大流行した安来節、日本最古の歴史を持つ高級鋼・ヤスキハガネ。歴史の里のひとつの象徴が、尼子一族の拠点として名高い月山富田城。JR安来駅から車で約20分、その城跡へと向かう道の途中にあるのが、足立美術館である。

木炭の運搬業から身を起こし、繊維問屋、不動産事業などで財をなした地元出身の足立全康氏(1899~1990)。その足立翁が収集した美術品を公開するために1970年に設立したのがこの美術館だ。コレクションの中心にあるのは、約120点の横山大観作品だが、それは足立翁が大阪・心斎橋の骨董屋にかかっていた大観の掛け軸に一目惚れしたことがきっかけだという。大観に加え、竹内栖鳳、上村松園など、近代・現代の日本画が多数所蔵されている。

もうひとつ、足立美術館で有名なのが、その日本庭園だ。アメリカの日本庭園専門誌「ジャーナル・オブ・ジャパニーズ・ガーデニング」では、2003年からずっと日本一に選ばれているという名園。フランスの旅行ガイド「ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン」では、三つ星に選ばれているという。緑豊かな山々の姿を借景にした枯山水の庭園は、四季折々に表情を変えていく。建物の中から見ても、「生の衝立」「生の額絵」との呼称がある通り、一幅の絵を思わせる美景なのである。


さてさて。足立美術館では年に4回、特別展を開催しているが、8月31日から始まった秋季特別展が「没後80年 竹内栖鳳 京都画壇の俊英たちとともに」である。竹内栖鳳(1864~1942)は、戦前の京都画壇を代表する大家で、西洋画の写実表現を取り入れるなど、新しい時代の日本画確立に大きな足跡を残している。上に挙げた《瀑布》の豪快さ、下に掲載している《爐邊》の繊細な描写力。小品の軸から六曲一双の屏風《雨霽》まで、展示作品から見えてくるのは、その表現の多様さであり、画面構成の的確さ。さすがの風格と品格だ。


その作品とともに展示されているのが、上村松園、西村五雲といった栖鳳の弟子筋にあたる画家たちの作品であり、岸竹堂、今尾景年といった先輩作家の作品である。いかにも松園らしい抒情が香り立つ《待月》、動物が得意な五雲らしい写実描写が印象的な《寒梅》など、魅力的な作品が並ぶ。没後80年というメモリアルイヤーだけに、改めて栖鳳の画業が注目されそうな今年だが、その栖鳳とゆかりの画家たちの作品を集めたこの展覧会は、庭園に負けず劣らず見どころが多い。


さらに、横山大観の作品を展示している「大観室」の「秋の横山大観コレクション選」では、足立翁が感銘を受け、「何としても手に入れたい」と1年半にわたって通い詰めて売買交渉したという《紅葉》を見ることができる。「東の大観、西の栖鳳」と並び称された二人の作品を同時に観覧できるのは、今回の企画ならでは、だ。500点の作品を収蔵するという北大路魯山人の作品を展示する「魯山人館」も見応えたっぷり。新館では特別展「現代日本画名品選Ⅱ ひとを描く ―多様なモチーフとともに―」も開催中。芸術の秋、東京、大阪からはちょっと遠いけど、それでも足を伸ばしてみたくなる美術館なのである。
(事業局専門委員 田中聡)
