【愚者の旅―The Art of Tarot】第28回 「審判 The Judgement」 天使のラッパが鳴り響く「最後の審判」の時。すべてのカルマから解き放たれる「解放」の時――

「それらの日に起こる苦難の後、たちまち
太陽は暗くなり、
月は光を放たず、
星は空から落ち、
天の諸力は揺り動かされる。
そのとき、人の子の徴が天に現れる。そして、その時、地上のすべての部族は悲しみ、人の子が大いなる力と栄光を帯びて天の雲に乗って来るのを見る。人の子は、大きなラッパの音とともに天使たちを遣わし、天の果てから果てまで、選ばれた者を四方から呼び集める。」
(『マタイによる福音書』24章29―31節、聖書協会共同訳)

旅路の果て、愚者はついに「終末の刻」を訪れる。新約聖書、『マタイによる福音書』に上記のように記されたその時、『ヨハネの黙示録』ではさらに詳細に、幻想的にその時の様子が描かれる。「七つの角、七つの目」を持った「屠られた小羊」が「七つの封印」を解いた後、7人の天使が7つのラッパを吹く。様々な破壊の力が地上を襲った後、天から神の支配を宣言する声が聞こえる。神は悪魔を打ち負かし、「最後の審判」が始まる。
〈またわたしは死者が、大きな者も小さな者も、玉座の前に立っているのを見た。数々の巻物が開かれ、もう一つの巻物、すなわち命の書が開かれた。死者たちは、これらの巻物に記されていることに基づき、その行いに応じて裁かれた。〉(『ヨハネの黙示録』20章12節、聖書協会共同訳)。審判の後にヨハネが幻視した「新しい天と新しい地」、「聖なる都、新たなるエルサレム」には、「もはや死もなく、悲しみも嘆きも痛みもない」。ちなみに蛇足だが、「人の子」や「屠られた小羊」はイエス・キリストのことを示している。

「ライダー版」でも「マルセイユ版」でも、「審判」のカードに描かれているのは、この「最後の審判」の一場面だ。天使のラッパが鳴り響く中、棺を開けて死者たちが起き上がってくる。「審判」を受けた人々は、さなぎから羽化するチョウのように、メタモルフォーゼを遂げて「新天新地」に旅立っていくのだろうか。「『マルセイユ版』では、真ん中に『青い人』がいます。『青』は『過去』であり『記憶』でもあります。それらが昇華されていく感じでしょうか」というのは、この連載のナビゲーター、イズモアリタさんだ。「マルセイユ版」でその「青い人」を注視している男女は、楽園を追放されたアダムとイブのようだ。再生と救済をイメージさせるこのカード、「新規巻き直し、奇跡的な復活というイメージもあります。絶望的な状況からカムバックする、そんな姿が浮かんできます」とアリタさんは付け加える。

ラッパを吹く天使は、十字を描いた旗を持っている。〈これは2種類の時間が出会うことを象徴しています〉と『タロットの書 叡智の78の段階』で書くのは、アメリカのSF作家でタロット研究家のレイチェル・ポラックさんだ。ひとつはわれわれが生きている「通常の」時間、もうひとつは〈生命の霊的な認識を通じて現れる永遠〉。「ふたつの時間」は中央部で交わる。それは、人間が「過去の行い」を放棄することなく、〈新しいやり方で引き受けていく〉ことを示しているという。「再生」は過去を忘れ去ることではない。「月」のカードでも示された通り、人間はそれを受け入れ、直視し、乗り越えていかなければならない。

まったく違うイメージを提示するのが、「トート版」だ。このカードを「The Aeon=永劫」と名付けた“20世紀最大の魔術師”アレイスター・クロウリーは、〈このカードでは、従来の伝統的なものから脱却することが必要であった。逆にそのことが伝統の維持に役立つ〉と『トートの書』で述べる。クロウリーによると、「古いカード」で示された「火によるこの世の破壊」は〈1904年に実現〉し、〈この年、東方では風神オシリスに代わり火神ホルスが、神官になった〉のだそうだ。そこで〈新しい永劫の初めに、その到来を地球に告げた天使の言葉を明らかにするのが妥当〉であり、新たなカードは〈啓示の石碑〉の修整版なのだという。中央にいるのはそのホルスであり、彼を「子宮の中で」庇護しているのは、ホルスの母親の「天空の女神」のヌイトだろう。生まれたばかりのホルスの姿が二重写しで描かれているのは、「新しい永劫」が始まったばかりで、まだその行く末が分からないことを象徴しているのだろうか。いずれにしてもこのカードは、「転換期の訪れ」を表しているようである。

新約聖書の「最後の審判」、そこで描かれるのは「キリスト教徒の救済」だが、現代のタロットはより広い意味を持つようにも思える。「20」という数字は「運命の輪」の「10」をふたつ足した数であり、そこからは東洋的な「輪廻」からの「解脱」のイメージも見えてくるからだ。仏教では、56億7千万年後に弥勒菩薩が下生して、釈迦道法の弟子を救済するともいう。カードで示された「終末」「復活」「救済」……「愚者の旅」はいよいよ大団円を迎える。
(美術展ナビ取材班)

【愚者の旅―The Art of Tarot】タロットって何?
14世紀から15世紀にかけてヨーロッパで原型が作られたタロットは、18世紀から19世紀にかけて占いのツールとして使われるようになり、19世紀から20世紀にかけて神秘主義と結びついた。タロットカードに描かれる絵は寓意と暗喩に満ち、奥深く幅広い解釈が出来るようになったのである。数多くの画家たちが腕を競ったカードの数々は、まさにテーブルの上の小さなアート。タロット研究家で図案作家のイズモアリタさんをナビゲーターに、東京タロット美術館(東京・浅草橋)の協力で進めるこの企画は、タロットのキーパーソン「愚者」の「旅」にスポットを当てながら、カードに描かれている絵の秘密を解き明かしていく。