【愚者の旅―The Art of Tarot】第27回 「太陽 The Sun」 すべてを焼き尽くす強烈なエネルギー。生命の源でもあり妥協を知らない力でもある太陽――

「トート版」の太陽

ダイダロスは優秀な細工師だった。イカロスはその息子である。ミノス王の求めに応じ、ラビリンスを作ったダイダロスだが、王の不興を買い、親子共々塔に閉じ込められてしまった。しかし、知恵者でもあったダイダロスは鳥の羽をロウで固め、糸で結わえ、「翼」を作り上げる。塔から飛び立とうする時、ダイダロスは息子にいう。「必ず中空を飛べ。低すぎると海の水しぶきで羽が重くなる。高く飛ぶと太陽の熱でロウが溶けてしまう」。最初は父親の戒めを守っていたイカロスだが、だんだんと空を飛ぶのが楽しくなり、空高く翼を広げる。太陽に近づいた「イカロスの翼」。ロウが溶け、羽はバラバラになる。そしてイカロスは、海へと真っ逆さまに落ちていった――。

「マルセイユ版」の太陽

ギリシャ神話のイカロスの物語は、様々なことを教えてくれる。技術のすばらしさ、それを生かすための知恵、力を過信したあげく傲慢さが招いてしまう悲劇……。それはまるで現代のハイテク社会に警鐘を鳴らしているようだ。上空に輝く太陽は、人間の営みを遥かに超えた「力」であり、軽々しく触れてはいけない絶対的な「権威」なのである。ナンバー19のカード「太陽」が示すのは、そういう究極のパワー、完璧な論理。それはすべての生命の源となり、すべての世界を照らし出すとともに、近づくモノをあっという間に焼き尽くす。「お天道さまという言葉がありますが、まさにその通りですね」とこの連載のナビゲーター、イズモアリタさんはいう。

「ステラ・タロット」の太陽

どうやら、「愚者の旅」も本当に終焉が近づいてきたようだ。希望の「星」に導かれ、闇の中の「月」に抱かれて、「太陽」の御許にやって来た愚者。そこには、妥協を知らない「真実そのものの光」が鎮座している。「19」という数字は、「10+9」であり、「1+9=10」とも解釈できる。ナンバー9のカードである「隠者」が持っていたのは光を放つランタンで、そこにある「光」は「隠遁生活の賢者」が「内的な思索」の中で得たものであった。一周回ってより高次の世界に入っている「19」では、「何にも縛られない子供」が「真実そのものの光」の下にいる。その光は「内的な思索」による導きを必要とせず、自らの力で輝いているのである。そして「10」が示すカードは「運命の輪」。「真実そのもの光」は、「輪廻」というカルマさえも超越しようとしているのかもしれない。

「ライダー版」の太陽

「ヴィスコンティ版」を見ても、「マルセイユ版」、「ライダー版」でも、太陽の下には子供がいる。〈太陽と子供という取り合わせは、占星術の立場から説明できる〉と『タロットの秘密』で書いているのは、碩学・鏡リュウジ氏だ。太陽は獅子座の支配星であり、黄道十二宮の五番目に位置する獅子座は「子供運」を司る、と鏡氏は書く。そうすると、「真実そのものの光」は生命そのものでもあるのだろう。純真で無垢な生命としての赤ん坊。それは「愚者」と表裏一体の存在にもみえる。「愚者はイヌを連れていますが、赤ん坊は白馬にまたがっていますね」とアリタさん。無垢なる存在が聖獣を従えるというイメージは「ユニコーンと処女」の物語とも重なってくる。

「ヴィスコンティ版」の太陽

「マルセイユ版」や「トート版」などで、陽光の下の「子供」はふたりいる。そういえば、「月」のカードにいたイヌも2匹だし、「悪魔」に束縛されていた下僕も2人だった。「『マルセイユ版』では左側の子供がもうひとりの『困っている』子供を『導いている』ようにも見えます」とアリタさん。左側の子供は「進化」を終え、「解放」された存在なのだろうか。「悪魔」で縛られ「月」で獣性を露呈していた存在が、絶対的な光の下ですべての物事を浄化され、「無垢なる者」へと戻っているのだろうか。「悪魔」のカードの「15」に、世界を構成する四大元素を表す「4」を足すと「19」の太陽になる。四大元素の力を借りて人間の奥底に潜む悪魔を追い出した姿が「太陽」になると、タロットは言いたいのかもしれない。

「マザーピース・タロット」の太陽

〽君には感じられないのかい 今春が来たんだ それは生きるための時間なんだ 光を拡散させる太陽の下で――伝説のロックバンド、ドアーズのジム・モリソンは「太陽を待ちながら」の中でこう歌う。「マザーピース・タロット」の「太陽」のカードでは、男性、女性、キリンにシマウマ、人間も動物も平等に、手を取り合って生きる喜びを満喫している姿が描かれる。祝福、勝利、相互に助け合う「愛」の心……。「太陽」が照らし出すのは、「とにかく明るい」浄化された世界なのだ。その光の下で歩む「愚者」は、一体どこにたどりつくのだろうか。

(美術展ナビ取材班)

「太陽」のカードのいろいろ


【愚者の旅―The Art of Tarot】タロットって何?

14世紀から15世紀にかけてヨーロッパで原型が作られたタロットは、18世紀から19世紀にかけて占いのツールとして使われるようになり、19世紀から20世紀にかけて神秘主義と結びついた。タロットカードに描かれる絵は寓意と暗喩に満ち、奥深く幅広い解釈が出来るようになったのである。数多くの画家たちが腕を競ったカードの数々は、まさにテーブルの上の小さなアート。タロット研究家で図案作家のイズモアリタさんをナビゲーターに、東京タロット美術館(東京・浅草橋)の協力で進めるこの企画は、タロットのキーパーソン「愚者」の「旅」にスポットを当てながら、カードに描かれている絵の秘密を解き明かしていく。

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