【愚者の旅―The Art of Tarot】第25回〈番外編④〉 タロットはどうやって使われてきたの? どんなふうに使えばいいの?

東京タロット美術館には数多くのデッキが並んでいる ⓒShinichi Sato

「塔」の崩壊の後、「星」で新たな世界に入って、「愚者の旅」もいよいよ最終局面に入ったわけだが、ここでちょっとブレイクタイム。いろいろと語ってきたタロットカードだが、それが生まれてから今まで、どんな使われ方をしてきたのだろうか。21世紀の今、日本に住むわれわれは、タロットとどんな付き合い方をしていけばいいのだろうか。タロットといえば、「占い」というイメージが強いのだけど……。

イズモアリタさん

「まず『絵』そのものを楽しんでほしいですね」というのは、本連載のナビゲーター、イズモアリタさんだ。ずっとナビゲーターを務めていただいたのに、なぜか一度もお顔を(この連載では)見せていなかったアリタさんだが、別に「顔出しNG」なわけではない。↑こういうお方↑である。何しろタロットは「絵」が多種多様。この連載で紹介したデッキだけでも20種類はくだらない。↓下に掲載したのは、その一部である↓。

もともとタロットは発祥当時(14世紀? 15世紀?)、貴族社会で流行していた「絵を読み解く」遊戯との関連が深かったようだ。一枚の絵に様々な寓意を込めること、その寓意を読み解くこと、それができることが「教養」や「センス」のある「知識人」だったわけである。様々な寓意が込められた絵は、やがて「祈り」や「まじない」にも使われるようになったようで、「お守り」みたいな感じだったのかもしれない。タロットが一般に普及してくるのは17世紀で、そこでは主にゲーム、時々占いに使われていたようだ。もっとも「現代の神秘主義で体系化された占いとは違って、もっとフォークロア的なもの、例えば『ジプシー占い』みたいな雰囲気のものだったんでしょう」とアリタさんはいう。

今回の連載では、東京タロット美術館の協力のもと、こんなデッキを使用しました(これで全部ではありません)

タロットの「寓意」と様々な神秘主義が結びついたのは、18世紀末以降といわれる。フリーメーソンの一員でもあったフランスの神学者アントワーヌ・クール・ド・ジェブランらが「タロットは古代エジプトの僧侶が教義を伝えるために考案したもの」と主張、さらに19世紀に入ってフランスのオカルティスト、エリアス・レヴィらがユダヤの神秘思想カバラとタロットを結びつけた。19世紀後半になると、イギリスの魔術結社ゴールデン・ドーン(何度も登場しましたね)が占星術、カバラなどとタロットを組み合わせた神秘思想を体系化。20世紀に入ってA・E・ウェイトがそれに自分の考えを加えて創った「ライダー版」が一般に普及し、カードの解釈や占いの方法がマニュアル化されたため、一気に占いのツールとしてのタロットが広まった。

まあ、もともとタロットの「寓意」の裏にある民間伝承には、ギリシャ・ローマ神話、グノーシス主義、数秘学などの「いにしえの知恵の記憶」があったわけで、神秘主義と結びつくのもあながち不思議ではない。ちなみにグノーシス主義というのは、とっても簡単に言えば、「この世界、人間を創ったのは、本当の神ではなく神の名を騙った偽者(デミウルゴス)だ」という思想。「全知全能の神が創ったにしては、この世界も人間は乱れすぎてはいないか」という思いがそこにはある。

タロット美術館のロゴマーク ⓒShinichi Sato

19世紀というのは、「神は死んだ」とニーチェが言ったように、ある種、キリスト教的価値観が揺らいだ時代だった。タロットと神秘主義の融合も、キリスト教的世界観への懐疑心が生んだのかもしれない。もともと旧約聖書申命記には〈あなたのうちに自分の息子、娘に火の中を通らせる者があってはならない。占いをする者、卜者、まじない師、呪術者、呪文を唱える者、口寄せ、霊媒、死者に伺いを立てる者などがいてはならない〉という記述があり、〈これらのことを行う者をすべて、主はいとわれる〉とも書かれている。わざわざ聖書に忌避されていることの体系化は、古い権威、既成概念からの人間存在の解放と言う思いがどこか背景にあったのではないだろうか。確かに、エネルギーと破壊に満ちた「トート版」には、どこかニーチェの「超人」の思想と似た感触がある。

「トート版」の戦車、力(欲望)、塔、審判(永劫)

そういう「占い」の歴史とは、また違う形でタロットが使われ始めたのは、第二次世界大戦後、特に1980年代以降である。ユング心理学やニューエイジ思想、カウンター・カルチャーや東洋思想などと結び付き、より解釈が多層化したタロット。そのカードを媒介として、カードを引く人の深層心理を読み解き、それを癒やしと結びつけようという「リーディング」が盛んになってきたのだ。「タロットが『聖書で禁じられている占い』の道具ではなく、鏡を観て我が身を整えるように、未来への良きアドバイスだと思ってほしいんですよ」とアリタさんもいう。タロットの絵を見て直感的に「何を感じるか」、それをきっかけにして、カードを引いた人の心に寄り添っていき、潜在的、顕在的な問題の解決のヒントを提示していく。カードの絵の基本的な解釈はあるが、それをどう広げるか。使う人に任せられる範囲が大きくなっているのである。「もともとタロットの解釈は時代によって変化してきたものなのです。あまり杓子定規に考えすぎず、『心の窓』のように感じてほしい」とアリタさんは続ける。

イズモアリタさんが制作したデッキ「ALRESCHA22」。東京タロット博物館(https://www.tokyo-tarot-museum.art/)などで販売中

そのイズモアリタさんは今年5月、自身で大アルカナ22枚を描いたタロットデッキ「ALRESCHA22」を発表した。「2020年末、水瓶座で木星と土星の接近が起きました。今後約240年、この2つの惑星の接近は、水瓶座、天秤座、双子座という『風の星座』で起こり続けます。つまりこれからは『風の時代』になるわけです。それを意識して、このデッキを作りました」という。「風」が象徴するのは、「知性」や「情報」。「金貨」に象徴される「地の時代」だったこれまでは、「目に見えるもの」や「肉体」、「お金」や「仕事」が重要だった。その軛からは解き放たれたインターネットの発展や仮想通貨、NFTなどの登場。「今後は個々の優劣や序列よりも、フェアな関係から生み出される共有や創造性にシフトしていくようです」ともアリタさんは語る。確かに「風の時代」は、もう始まっているのかもしれない。

(美術展ナビ取材班)


【愚者の旅―The Art of Tarot】タロットって何?

14世紀から15世紀にかけてヨーロッパで原型が作られたタロットは、18世紀から19世紀にかけて占いのツールとして使われるようになり、19世紀から20世紀にかけて神秘主義と結びついた。タロットカードに描かれる絵は寓意と暗喩に満ち、奥深く幅広い解釈が出来るようになったのである。数多くの画家たちが腕を競ったカードの数々は、まさにテーブルの上の小さなアート。タロット研究家で図案作家のイズモアリタさんをナビゲーターに、東京タロット美術館(東京・浅草橋)の協力で進めるこの企画は、タロットのキーパーソン「愚者」の「旅」にスポットを当てながら、カードに描かれている絵の秘密を解き明かしていく。

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