【探訪】源平合戦の多彩な魅力を味わう「源平合戦から鎌倉へ ―清盛・義経・頼朝」展 太田記念美術館 小説家・永井紗耶子

源平合戦には、様々な物語があります。
同時代に記された古典『平家物語』や『源平盛衰記』『義経記』『義仲記』といった物語はもちろん、中世には『敦盛』や『船弁慶』といった謡曲、江戸時代には『義経千本桜』や『勧進帳』をはじめ、歌舞伎や文楽にも数多くの名作があります。

それほどに人気を集める理由は、やはり登場人物たちの魅力と、戦に恋に主従の絆に友情に……と、多彩なエピソードがぎゅっと詰まっているからでしょう。

そして、それは物語の書き手だけではなく、画家たちの想像力も書き立てるものが詰まっていました。

今回、太田記念美術館で開催されている『源平合戦から鎌倉へ』展では、江戸時代から明治初期に活躍した浮世絵師たちが描いた源平合戦を楽しむことができます。

やはり人気の牛若丸

ついつい可哀想な人を贔屓してしまうことを「判官びいき」と言いますが、その語源となったのが、源義経。戦上手で功績をあげたにも関わらず、兄である頼朝によって追われ、討たれてしまう。その悲劇から、多くの物語の主人公として描かれてきました。

江戸後期の浮世絵の巨匠、歌川国芳が描く「牛若鞍馬修行図」では、義経の幼少期、牛若丸時代を描いたもの。幼くして父を亡くし、鞍馬山で育てられた少年、牛若丸は、天狗に指南されて武芸の腕を上げていったという物語。この絵でも、威厳ある天狗に見守られながら、烏天狗と戦う姿が描かれています。

歌川国芳 牛若鞍馬修行図

また、今回の展覧会のポスターになっているのも牛若丸の勇姿です。国芳の弟子であり、明治初期の浮世絵師である月岡芳年が描く「源牛若丸 熊坂長範」は、盗賊熊坂を少年牛若丸が討つ場面。

また、大人になった義経といえば、戦上手。その代名詞の一つといえるのが鵯越でしょう。役者絵でも知られる歌川国芳が描く鵯越の絵「一の谷合戦 ひよ鳥越より須磨の裏を見る図」は、鵯越で勇ましく戦う義経と、須磨の裏で敦盛と戦う熊谷直実を一枚にぎゅっと収めている作品。

歌川国芳 一ノ谷合戦 ひよ鳥越より須磨の浦を見る図(個人蔵)

一方、「東海道五十三次」などの風景画で知られる歌川広重が描く「義経一代記之内 義経知略一の谷鵯越逆落し」は、合戦の様そのものよりも、急峻な鵯越の風景の中に義経たちがいるさまが描かれています。

歌川広重 義経一代記之内 義経知略一の谷鵯越逆落し

同じ場面で作者によって描き方が違うのもまた、面白い点です。
歌川広重はこのほかにも、ユーモラスな戯画も描いています。「童戯武者尽」という絵では、熊谷直実が通りすがりの屋台そばに声をかけています。そのそば屋の少年が担ぐ屋台には、「あつもり」の文字が。平家の少年武者敦盛を討った熊谷直実のエピソードに、「敦盛」の名と「熱盛りそば」をかけて洒落で描いた一枚です。また、源氏の名称、源頼政が鵺という化け物を討った伝説を、猿回しに見せた一枚も。

歌川広重 童戯武者尽 源三位/熊谷

江戸の当時、こうした戯画を面白いと思うほど、源平合戦や、源平の武将にまつわる物語は、人々の中に浸透していたということもまた興味深いです。

ヒールとしての清盛と、悲劇の平家一門

武士の身でありながら位人臣を極めた平清盛。源平合戦の中では、どうしても悪役、ヒールとして描かれることが多くあります。月岡芳年が描く「大日本名将鑑 平相国清盛」では、豪華な衣をまとった平清盛が、沈む日を再び上げようと、海に扇を掲げるさまが描かれています。

月岡芳年 大日本名将鑑 平相国清盛

そして同じく芳年が描いた「平清盛炎焼病之図」では、熱病に苦しみながらのたうつ清盛の周りに、閻魔や鬼ら地獄の使者が待ち構えています。正に悪役として描かれる清盛の姿です。

月岡芳年 平清盛炎焼病之図

一方、平家一門の姿は悲哀と共に描かれています。同じく芳年の「月百姿 舵楼の月 平清経」は、横笛の名手であった平清経を描いたもの。平清盛の長男、重盛の子である清経は、戦況を悲観して自ら入水し命を絶ちます。その悲劇は謡曲「清経」として世阿弥も書いていました。

月岡芳年 月百姿 舵楼の月 平清経

また、滅びた一門が霊となって立ち現れてくる様を描いたのが、歌川芳員の「大物浦難風之図」。波が髑髏の姿を象り、船で海を越えていこうとする義経一行に襲い掛かってきます。

清盛と平家一門の暗黒と悲劇が、浮世絵師たちの想像力を掻き立てたのでしょう。

歌川芳員 大物浦難風之図

時の権力者に準えられた頼朝

合戦の時代が過ぎ、新たな鎌倉時代を作った頼朝。その人気は残念ながら義経には及びません。しかし、度々、画題として取り上げられており、物語の絵というよりも、当時の世相を表すことに使われることもあったようです。

徳川家康は自らを頼朝の子孫として、江戸幕府を立ち上げています。そのことから、頼朝を徳川将軍に準えて描かれたものがあります。歌川芳虎の「源頼朝公奥州泰衡征罰之図」は、頼朝の奥州征伐を描いているかに見えて、その実、時の将軍徳川家茂の長州征伐の出征の様を描いているような……。また歌川貞秀の「建久元年源頼朝卿上京行粧之図」は、和宮降嫁の御礼に家茂が上洛する様を描いているとか。

もちろん、源平合戦そのものを描いたものも人気でした。しかしそれだけではない。ただ、歴史を描いているかに見えて、当時の世相を広く知らしめるジャーナリズム的な側面を持っていた浮世絵。その際の画題のモデルとなっていたのが、「将軍」である頼朝だったのでしょう。

「鎌倉殿の13人」ファン必見の浮世絵

大河ドラマ『鎌倉殿の13人』も、まさにこの源平合戦に題をとったドラマです。今回のドラマでは、多くの登場人物たちが魅力的に描かれており、ファンの間でもそれぞれの「推し」がいることと思います。

上総介広常も、愛されながら退場した一人でしょう。その彼の若かりし日の武勇伝を描いているのが歌川国芳「下野之国奈須の原金毛白面九尾の悪狐たいじの図」です。かつて帝を惑わす美女にも化けた九尾の狐を、武勇の誉れ高い上総介が退治をした物語を描いた作品です。九尾狐の伝説は、日本のみならず中国や韓国にも伝わっています。そして日本では最近、九尾の狐が変化したとされた「殺生石」が割れたニュースもありました。そんな伝説上の生き物と果敢に戦った上総介が生き生きと描かれている様を見て、ぜひ「ロス」を解消していただきたいです。

歌川国芳 下野之国奈須の原金毛白面九尾の悪狐たいじの図(個人蔵)

そして、巴御前。彼女については諸説あり、木曽義仲と共に死を選んだとする説もありますが、「源平盛衰記」では義仲の死後、和田義盛の元に下ったとも言われています。今回のドラマではこの説がとられているようです。そんな二人の出会いを描いているのが、同じく歌川国芳の「巴御前 和田義盛」。太い丸太を振り回す巴と、それを受け止める和田義盛の姿が描かれています。パワフルな二人の様子がうかがえる作品です。

歌川国芳 巴御前 和田義盛(個人蔵)

ほかにも、畠山重忠の切ない後ろ姿や、文覚の滝行の様など、ドラマと共に楽しめるポイントがたくさんあります。

江戸の昔も今も、源平合戦をめぐる物語に魅せられる思いが同じなんだ……と、新たな気づきを得られ、またより一層面白く感じられる展覧会です。

永井紗耶子さん:小説家 慶應義塾大学文学部卒。新聞記者を経てフリライターとなり、新聞、雑誌などで執筆。日本画も手掛ける。2010年、「絡繰り心中」で第11回小学館文庫小説賞を受賞しデビュー。著書に『商う狼』『大奥づとめ』(新潮社)、『横濱王』(小学館)など。第40回新田次郎文学賞、第十回本屋が選ぶ時代小説大賞、第3回細谷正充賞を受賞。4月上旬に新刊『女人入眼』(中央公論新社)

源平合戦から鎌倉へ ―清盛・義経・頼朝

  • 会期

    2022年7月1日(金)7月24日(日) 
  • 会場

  • 観覧料金

    一般800円、高校生・大学生600円、中学生以下無料

  • 休館日

    月曜休館、ただし7月18日は開館し、19日が休館

  • アクセス

    JR山手線原宿駅から徒歩5分、東京メトロ千代田線・副都心線明治神宮前駅から徒歩3分
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