【和田彩花のカイエ・ド・あーと】第16回 セザンヌが描いたサント=ヴィクトワール山が好き

セザンヌが描いたサント=ヴィクトワール山が好き

サント=ヴィクトワール山が描かれたセザンヌの作品が、高校生の頃から好きです。

録画されていた美術番組のセザンヌ特集を見てからサント=ヴィクトワール山を描いた作品に惹かれるようになりました。今思えば、群馬出身で4つの山に囲まれながら育った私にとって、山や自然が描かれた作品は、身近に感じられるテーマだったのかもしれません。

いつだったかは忘れてしまいましたが、美術館でサント=ヴィクトワール山が描かれた本物の作品を目の前にしたときの驚きは今でも覚えています。風に吹かれた木がザワザワと音をたてながら揺れていて、自然のなかにいるときの気持ちよさを想像させられました。

個人的な思い出もたくさん詰まっているセザンヌの作品についてまだこの連載でお話していないなと思い、今回はアーティゾン美術館に所蔵されている《サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール》を選んでみました。

ポール・セザンヌ《サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール》
ポール・セザンヌ《サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール》
1904-1906年頃 石橋財団アーティゾン美術館蔵

1904~1906年頃、晩年に制作されています。画面手前の下半分は筆あとを残しながら、小さな色の面としても絵の具が置かれていきます。

セザンヌが描いたサント=ヴィクトワール山が好きな私は、画面手前の緑で覆われている部分は木を表していると想像できるのですが、改めて本作に向き合ってみると、思っていたよりも抽象的ですね。これは、木なのでしょうか?みなさんはどう見えますか?

そんな前景に対し、中景のシャトー・ノワールから山の表現は、輪郭線をしっかりとり、建物の立体感を保ちながら描かれています。

これまで見たことのあったサント=ヴィクトワール山を描いた作品は、前景に木の幹まで描き込まれていたり、木の葉の部分に強く筆跡を残すことで動きを感じられたりするものでした。ですが、本作では細部を描き込まず、強い筆触ではなく細かい色の面を重ねることで木や自然を表現していることに気づきます。

これまではセザンヌの作品から自然を追体験する感覚が好きでしたが、それとはまた別の絵の見方が本作にはある気がしています。

とくに本作前景の小さな色の面で描かれる葉は、風に吹かれた様子というよりも、葉の量感を感じられる点が興味深いです。

セザンヌが20世紀の画家たちに影響を与えたといわれる所以であるかもしれませんが、小さな色面で表す対象の量感と輪郭線、ときには単純な形に落とし込んでいるようにも見える対象物を組み合わせることで、一つの画面を作り上げていく画家であることを考えさせられました。

マネの芸術的な立ち位置とも少し重なるところがあるように感じますが、セザンヌもまた伝統的な絵画と完全に切り離された場所にいたわけではないのだなと気付かされます。

<ココで会える>
アーティゾン美術館は、長く親しまれてきた前身のブリヂストン美術館から新美術館として新たに生まれ変わり、2020年に開館。古代美術、印象派、日本の近世美術、日本近代洋画、20世紀美術、現代美術と世界有数のコレクションを誇る。7月20日からはじまる「石橋財団コレクション選 特集コーナー展示 田園、家族、都市」では、同館コレクションの中から田園と都市を家族との関わりに焦点を当てた珠玉のヨーロッパ絵画を紹介。さらに7月30日からは「生誕140年 ふたつの旅 青木繁×坂本繁二郎」を開催。青木繁と坂本繁二郎は同館の日本近代洋画コレクションの中核を成す作家。ふたりの生涯、そしてそれぞれがたどった軌跡を250点で展覧する。ともに10月16日まで。日時指定予約制。
美術館公式サイト

和田彩花
和田彩花1994年8月1日生まれ、群馬県出身。アイドル。2009年4月アイドルグループ「スマイレージ」(後に「アンジュルム」に改名)の初期メンバーに選出。リーダーに就任。2010年5月「夢見る15歳」でメジャーデビューを果たし、同年「第52回日本レコード大賞」最優秀新人賞を受賞。2019年6月18日をもって、アンジュルム、およびHello! Projectを卒業。アイドル活動を続ける傍ら、大学院でも学んだ美術に強い関心を寄せる。
初のソロアルバム「私的礼讃」が好評配信中!

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