【愚者の旅―The Art of Tarot】第24回 「星 The Star」 崩壊の後に来るのは、ぽよんとした明るい世界。「旅」はいよいよ最終章へ――

「ライダー版」の星

「愚者の旅」は、「星 The Star」からまた新たな局面に入る。
前回、「塔」のカードが示したのは絶対的な「崩壊」、あるいはまた「解放」だった。良くも悪くも過去に築き上げてきた秩序はすべて「清算」され、「世界」はリセットされたのである。旅の第3段階を迎えた「愚者」。「ライダー版」を見てみよう。新たな世界で彼を迎えたのは、抜けるような青空、天に輝く数多の星だ。何ともあっけらかんとした世界。ぽよんとした「抜け感」があって、善も悪もすべてを超越したような不思議な空気が漂っている。

「ライダー版」の星(ⅩⅦ)~審判(ⅩⅩ)。一続きの世界に見える

ちょっと先走ってしまうが、ここから先、「星」から「審判」までの物語は、この「ぽよんとした世界」で展開される。右から「星」「月」「太陽」「審判」と4枚のカードを並べた上の画像を見て欲しい。絵柄が良く似ていることが分かるだろう。上の方に星やら月やらが輝いており、その下で何やらいろいろな物事が蠢いている。どうやら世界は地続きでもあるようで、「星」のカードから流れ出した水が、「月」に流れ込んでいるようにも見える。「抜け感」のある青空は、「悪魔」や「塔」が真っ黒な闇に覆われているのと好対照。「闇落ち」した世界を「愚者」はすっかり抜け出したようだ。

「ライダー版」の悪魔と塔、背景は真っ黒

星々の下には女性がひとりいて、手に持った壺から大地や湖に何かの液体を注いでいる。「この『女性』は、アニマムンディなのでしょうか」というのは、本連載のナビゲーター、イズモアリタさんだ。手に持っているのは、神の美酒=ネクターなのだろうか。「『節制』のカードでは、天使が『水』と『ワイン』をブレンドしていましたが、ここで注がれるネクターは地上に注がれることで『できあがっている』ようですね」とアリタさん。ネクターは生命の源なのだろうか。とすれば、この女性はグノーシスの神話に出てくるソフィアの姿とも重なってくる。

「マルセイユ版」の星

空に輝く星は、中央にひとつ、周りに七つ、併せて8つ。古くからこれは、「北斗七星」を表すとも、エジプトの女神イシスの象徴であるシリウスとその周りを彩るオリオン座ともいわれてきた。北斗七星の先にあるのは、ご承知の通り「北極星」。北半球では常に夜空に輝いて、船乗りの標となる星だ。シリウスは、太陽系の惑星を除くと全天でもっとも明るい星。エジプト人にとっては豊穣をもたらす「ナイル川の氾濫」を知らせる星でもあった。

「ユング・タロット」の星

「星が金星を表し、女性はヴィーナスの姿を模して現れる説もあります」ともアリタさんはいう。「愛」と「美」の女神の象徴で、「太陽」と「月」の次にわれわれの目には明るく見える天体が、金星である。また、多くのカードでこの星は「八芒星」として描かれるが、それは東方の三博士を幼いキリストのもとに導いた「ベツレヘムの星」のイメージと重なる。つまりこの星は、それが「北極星」であろうが「シリウス」であろうが、それが「金星」だとしても「八芒星」だとしても、「人々を導く星」であることには間違いなさそうである。

「ステラ・タロット」の星

ちなみに「ベツレヘムの星」は現代の日本に住む私たちにも、「クリスマスツリーのてっぺんにある星飾り」としておなじみだ。「ステラ・タロット」が「五芒星」なのは、そのツリーを意識してのことだろうか。「ユング・タロット」の星の真ん中には「神の全能の目」である「プロビデンスの目」が描かれている。「マルセイユ版」では、金星を思わせる赤い星の回りに、黄色と青の星がきらめいている。「黄色は昇華された意識の象徴、青は過去の人間的な情緒や感情が霊化された表れとも考えられます」とアリタさん。「トート版」の星からは「精神の光が螺旋状の光線となって放射されている」(『トートの書』)。

「トート版」の星

星が照らす緑あふれる世界には、一羽の鳥も描かれている。「ライダー版」や「マルセイユ版」では、その鳥は樹木のうえで佇んでおり、飛び立つべき刻を待っているようだ。「マザーピース・タロット」はすでに空へ飛び立って、自由な生命を謳歌しているようだ。八芒星のもとで沐浴している女性は、「生命の水」のシャワーを浴びて、エネルギーを体内に蓄えているように見える。

「マザーピース・タロット」の星

空に数多星が光る 誰も彼も星の御許 千の願い胸に膨らませ――

「無情のスキャット」の中で、日本のヘビーメタルバンド、「人間椅子」はこう歌う。古今東西、どんな世界だって、人間は星に願いをかけ、星々はそれをただ見守っている。「希望」と「理想」がきらめく星のカード。「愚者」が新たに足を踏み入れた世界は、ぽよんととらえどころのない所だが、優しく明るい光に包まれているのである。

(美術展ナビ取材班)

「星」のカードのいろいろ


【愚者の旅―The Art of Tarot】タロットって何?

14世紀から15世紀にかけてヨーロッパで原型が作られたタロットは、18世紀から19世紀にかけて占いのツールとして使われるようになり、19世紀から20世紀にかけて神秘主義と結びついた。タロットカードに描かれる絵は寓意と暗喩に満ち、奥深く幅広い解釈が出来るようになったのである。数多くの画家たちが腕を競ったカードの数々は、まさにテーブルの上の小さなアート。タロット研究家で図案作家のイズモアリタさんをナビゲーターに、東京タロット美術館(東京・浅草橋)の協力で進めるこの企画は、タロットのキーパーソン「愚者」の「旅」にスポットを当てながら、カードに描かれている絵の秘密を解き明かしていく。

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