【愚者の旅―The Art of Tarot】第22回 「悪魔 The Devil」 「悪魔」とは何なのか。「555」の数字の意味するものは――。

「スターマン・タロット」の悪魔

今回は、ちょっと変わったカードの紹介から。最初に挙げたこの「悪魔 The Devil」、とてもカラフルデザインである。真ん中にいる「悪魔」は、V系のヴォーカリストのよう。そうなんです。これは、グラムロックの雄、デビッド・ボウイが彼のステージセットのコンセプトなどを手がけたアーティスト、ダビデ・デ・アンジェリスと組んで作った「スターマン・タロット」なのですよ。さすがボウイ、絶妙にサイケデリックで絶妙にスタイリッシュ。

「ヴィスコンティ版」の悪魔

キャラクター・ビジネスが発達した現代、タロットカードもひとつのツールとして使われる。有名なのは、映画「007/死ぬのは奴らだ」で使われた「007タロット」だろうか。有名アーティストが手がけたデッキとしては、この連載で取り上げている「魔夜峰央版」や「サルバドール・ダリ版」などがあるし、手塚治虫のマンガキャラクターを使ったデッキもある。百花繚乱。タロットカードのバリエーションは、21世紀の今も豊かになり続けているのだ。

「トート版」の悪魔

とはいえ、「スターマン・タロット」のデザインは、伝統的な様式を守っている。真ん中に「悪魔」がいて、足元に2体のしもべ(奴隷?)みたいなヤツがいる。「ヴィスコンティ版」や「トート版」を見ても、この「公式」が変わっていないのは分かるだろう。「三位一体を歪曲した形のようにも見えますね」とこの連載のナビゲーター、イズモアリタさん。

「マルセイユ版」の悪魔の2種類

ではこの「悪魔」とは何者なのだろうか。「善の神」であるアフラ・マツダと対立する「絶対的な破壊者=アーリマン」なのか。それとも、人間を闇の世界へと誘惑するメフィストフェレスなのか。2種類のマルセイユ版では、悪魔はコウモリのような羽根を背負っている。「光をもたらす者」であった大天使ルシファーは、「天から墜落して」悪魔サタンになったとされる。では、なぜ「天から墜落する」ことになったのか。いろいろとナゾは多い。

「ライダー版」の悪魔(左)と教皇(右)

以前にアリタさんが触れているが、実はこの「悪魔」のカード、「教皇」のカードとよく似ている。「ライダー版」を並べてみたのが上の画像。なるほど。「悪魔」も「教皇」もカードの中央に“主役”がおわしまし、左手を挙げ、右手に何やら杖のようなものを持っている。手前に“しもべ”がいるのも同じだ。教皇の足元にある2本のカギは、「実は『悪魔』で、しもべがつながれている鎖のカギ」という説も、「教皇」のカードでアリタさんが紹介している。「教皇」といえば、「皇帝」よりも「王」よりも上位にある人間社会の精神的な指導者。なぜ、そんな高貴な存在が、「悪魔」と比べられるのか――。

「バッカス版」の悪魔

こういう時には、「数秘術」で考えてみよう。「悪魔」のナンバーはⅩⅤ。「教皇」はⅤ。「15=5+5+5」、5の3倍だ。創造性を表す「3」を「かける」ということは、元の数の状態が非常に強調され、ある意味過剰な状態になっていることを示している。「5」は五芒星の形であり、人間存在そのものも示している。つまり、「ⅩⅤ」である「悪魔」は「教皇」や「人間」に含まれる要素が、「過剰に強調された」状態だと言えるのである。

「マザーピース・タロット」の悪魔

「絶対的な権威」であり「力強い指導者」である「教皇」。それが「過剰」になると、どうなるのか。ちょっと周りを見渡してみよう、何か思い当たるところはありませんか? 内的世界を一途に追い求めた「新興宗教」がいつの間にか「カルト」になる。起業して一代で会社を大きくした経営者がいつの間にか「ブラック企業」のドン呼ばわりされている。そんな姿が目に浮かびませんか? 「人間」が「人間」として、脇目もふらずひとつの道に邁進することは、とても美しいことではあるのだけど、一歩間違えると「闇落ち」してしまう。「5+5+5」は、そんなことを暗示しているのではないのだろうか。特徴的なのは、「マザーピース・タロット」。ここに登場する「悪魔」たちは、すべて「男性」のようだ。「男性論理」を究極まで突き詰めると、そこに「悪魔」が誕生する。体育会系の「論理」がパワハラ扱いされるようになった21世紀の今、何となく分かるような気がしませんか?

「ニコレッタ・チッコリ」の悪魔

しょせん人間は「不完全な存在」なのである。「不完全な存在」が自分を「不完全」と認識せずに暴走すると、周りからみると「悪魔」になる。「優秀」な「人間」であればあるほど、裏返しの危険性も高い。「教皇」と裏表で「悪魔」が表現されることには、そんなメタファーがあるのでは。「バッカス版」の「悪魔」は数多くの人間と「同化」して、何かに向かって火を吹いている。「数の論理」を悪用した「ファシズム」のようだ。「ニコレッタ・チッコリ」の「悪魔」は「美女」に固執するあまり、「範を超えた」存在に成り下がっている。バランスを重視する「節制」が美徳ならば、その対極にある「妄執」「固執」こそ「悪魔」なのか。旅する「愚者」に対してタロットが示しているのは、そんな「世界の理」に見える。

(美術展ナビ取材班)

「悪魔」のカードのいろいろ


【愚者の旅―The Art of Tarot】タロットって何?

14世紀から15世紀にかけてヨーロッパで原型が作られたタロットは、18世紀から19世紀にかけて占いのツールとして使われるようになり、19世紀から20世紀にかけて神秘主義と結びついた。タロットカードに描かれる絵は寓意と暗喩に満ち、奥深く幅広い解釈が出来るようになったのである。数多くの画家たちが腕を競ったカードの数々は、まさにテーブルの上の小さなアート。タロット研究家で図案作家のイズモアリタさんをナビゲーターに、東京タロット美術館(東京・浅草橋)の協力で進めるこの企画は、タロットのキーパーソン「愚者」の「旅」にスポットを当てながら、カードに描かれている絵の秘密を解き明かしていく。

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