【愚者の旅―The Art of Tarot】第20回 「死神 The Death」 すべての生物に平等に訪れる「死」。それは「怖い」だけではない――。

「魔夜版」の死神

「吊された男」で「内宇宙への旅」へと突入した「愚者」。そこでいきなり遭遇するのが、「死神 The Death」である。「ガイコツ? 死神? こわーい」。そんなことを単純に思ってはいけません。確かに不気味だ。手には大きなカマを持っているし、「ゴールデン・ドーン・タロット」でも「ライダー版」でも、周りは死屍累々だし。だけど、ガイコツは怖いだけではない。人気マンガ「ワンピース」のブルックを見ていると、わかるでしょう。

「エル・グラン・タロット・エソテリコ」の死神

時にかわいくもあり、ユーモラスでもあり、神秘的でもある。ブルックを見ていると、メキシコの祝日「死者の日」を思い出す。毎年11月1日と2日、故人を偲び、家族や友人たちが明るく楽しく思い出を語り合うその日には、ガイコツのイメージが街中にあふれる。もともとヨーロッパの中世には、「メメント・モリ」という言葉があった。ラテン語で「死を忘るることなかれ」を意味するこの言葉は、現世でいくら財をなしても、栄誉を極めてみても、結局「死」は平等に訪れるものだ、という認識が根底にある。名誉や名声、容姿の美醜、財力、学歴……そんな世俗的な表層を取り払った後に残る「根源的な生命」の象徴。ガイコツは、そんな存在でもあるようだ。

「ゴールデン・ドーン・タロット」の死神

タロットカードが作られたのは、まさにその「メメント・モリ」の時代だった。そのイメージが色濃く残っているのは、「エル・グラン・タロット・エソテリコ」のカードだろうか。死神が乗っているのは、ウマでなくイヌ? 黙示録によると、「死」は「蒼ざめた馬」に乗っているのだが――。ひょっとすると、地獄の番犬であるケルベロスなのだろうか。「死」を察知して近づいてくるブラック・ドッグなのだろうか。足元には「礼拝堂」や「王冠」や「貴金属」のようなものが転がっている。「死」の前では、全てが平等なのだというイメージが明確に見て取れる。

「マルセイユ版」の死神

死の下での平等。そのイメージは、「13」という数字にも表れている。22枚ある大アルカナだが、「0」と「21」、「1」と「20」など、足すと「21」になるペアが必ず存在している。例えば、「0」である「愚者」は「21」である「世界」と表裏の関係にある。「13」の「死神」の裏にあるのは「8」の「正義」。公正とは何か、世界に正義はあるのかと問うカードである。この世界に全き「正義」や「公正」があるのかどうかは分からないけれど、「死」だけはどんな人間にも等しくやってくる。「13」と「8」の裏表には、そんな暗喩があるのかもしれない。「ゴールデン・ドーン・タロット」の「死神」は荒野の中、王や庶民、様々な人々の屍が散らばっている中で、超然と佇んでいる。「ライダー版」の「死神」は、あらゆる人々の前で無慈悲にこちらを向いている。

「ライダー版」の死神

「死」の先には何があるのか。「マザーピース・タロット」を見てみよう。ここで描かれるガイコツは、ヘビが形作る円環の中で土に帰ろうとしている。世界を現すウロボロスのようなヘビ。ガイコツが持っていた生命力は大地に吸収され、その上に生えている「生命の樹」の肥やしになろうとしている。「死」は「再生」とともにある。「ひとつの生命が終わることで、次の生命が育まれていく。『死』は決して哀しいだけのものではないのです」と本連載のナビゲーター、イズモアリタさんはいう。「マルセイユ版」の「死神」は「0」のカード、「愚者」の姿に似ている。「死神」の手にある大ガマは、「愚者」の「杖」と同じような角度に見える。すべての可能性を内包する「愚者」、すべての装飾をはぎ取られた「死神」、その存在は対になっているのかもしれない。

「マザーピース・タロット」の死神

「メメント・モリ」という哲学の下で、様々な芸術のモチーフとなったのが、「死の舞踏」というモチーフだった。「20世紀最大の魔術師」ことアレイスター・グローリーは、「トートの書」の中でいう。「このカードそのものは死の踊りをあらわす」と。「最も秘密の形態をとった宇宙のエネルギーの大要ですらある」ともいう。その言葉通りのエネルギーが満ちているのが「トート版」だ。冒頭に挙げたのは、漫画家・魔夜峰央氏が描いたカード。このガイコツは、浮世絵などに登場する妖怪ガシャドクロの姿を思い起こさせる。超自然的な力を備えた存在としての「死」。そういうイメージは、洋の東西で共通なのだろうか。

「トート版」の死神

「内宇宙」の旅を始めた「愚者」は、「死と再生」を司る存在と出会った。それは哀しく残酷でありながら、だれに対しても平等であり、「新たな生」を意味するものであった。生と死を直視することは、世界の秘密、人間存在の真実を知るためには避けられない。「死神」のカードは、そんなことを示しているようである。

(美術展ナビ取材班)

「死神」のカードのいろいろ


【愚者の旅―The Art of Tarot】タロットって何?

14世紀から15世紀にかけてヨーロッパで原型が作られたタロットは、18世紀から19世紀にかけて占いのツールとして使われるようになり、19世紀から20世紀にかけて神秘主義と結びついた。タロットカードに描かれる絵は寓意と暗喩に満ち、奥深く幅広い解釈が出来るようになったのである。数多くの画家たちが腕を競ったカードの数々は、まさにテーブルの上の小さなアート。タロット研究家で図案作家のイズモアリタさんをナビゲーターに、東京タロット美術館(東京・浅草橋)の協力で進めるこの企画は、タロットのキーパーソン「愚者」の「旅」にスポットを当てながら、カードに描かれている絵の秘密を解き明かしていく。

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