【京のミュージアム#4】高麗美術館 世界でここだけ「あつまれ!朝鮮王朝の動物クリム」展 8月21日まで

朝鮮王朝時代の動物の絵(クリム)の描かれた作品が並ぶ会場。 (左)「華角三層チャン」 朝鮮時代 19世紀末期、  (右)「粉粧彩色長生文三層チャン」 朝鮮時代 20世紀頃 (チャンは箪笥の意味)

国内唯一の韓国・朝鮮の専門美術館である高麗美術館で、「あつまれ!朝鮮王朝の動物クリム」展が開かれています。「クリム」とはハングルで「絵」の意味。絵を中心に、朝鮮王朝時代(1392-1910)の動物をモチーフとした約70点の美術作品が紹介されています。朝鮮王朝時代は道教や儒教が融合した、「長生図」など独特の図案・装飾が発展します。展示ではこうした、中国とも日本とも違う趣の作品が並びます。展覧会は821日まで。

企画展「あつまれ!朝鮮王朝の動物クリム」
会場:高麗美術館 (京都市北区)
会期:2022年4月1日(金)~8月21日(日)
開館時間:午前10時00分~午後4時30分(入館は午後4時まで)
休館日:水曜日 (5月4日は開館)
アクセス:京都市バス「加茂川中学前」下車すぐ、地下鉄烏丸線「北大路駅」より約1.6Km
入館料:一般500円、大高生400円、中学生以下・障がい者手帳提示の方と介助者1人無料
詳しくは高麗美術館ホームページ

高麗美術館

在日朝鮮人一世で実業家だった鄭詔文(てい・しょうぶん/チョン・ジョムン=1918-1989)氏が、1988年に設立した美術館。韓国・朝鮮の専門美術館としては国内唯一で、海外にも無いのではないかと言われます。鄭氏は6歳の時に両親に連れられ日本に移り住みます。37歳の時に朝鮮白磁の壺に出逢い、そこに「李朝・朝鮮というものの存在」を見て感激します。以来、身近な「半島の匂いのするもの」を求めて、日本国内で高麗青磁や朝鮮白磁などの陶磁器、絵画、美術工芸品、民俗資料、考古資料など、石器時代から現代にいたる約1700点を収集しました。「同胞の若い人に祖国の風土を感じてほしい」と美術館を設立し、年2回の企画展(企画展の中で常設展も見られる)で公開しています。

華角

「華角箱(黄)」 朝鮮時代 18~19世紀

華角かかくとは朝鮮半島独特の装飾技法で、牛の角を剥くようにして1ミリ以下の透明な板状に伸ばし、裏側に絵を描いて木地に貼るものです。絵の表面が外気に触れないため、鮮やかな色が残ります。ウミガメを使った玳瑁たいまいが手に入らなくなったため、牛角と牛骨を代用としたことから発達したと言われています。華角工芸品はほとんどが、両班やんばんなど富裕層の女性の婚礼道具として造られたようです。虎や獅子、鶴、亀、象、鹿、羊などの動物が長寿、繁栄を願う吉祥文様として描かれています。

「華角三層チャン」の部分

この「華角三層チャン」には159枚の板状の華角が貼ってあります。それぞれの角の四辺に白い枠のようなものが見えます。これは円柱状だった角が元に戻ろうと反るのを抑えるために、細く削った牛骨を埋め込んだものだそうです。細やかな細工とそれに掛かるだろう時間を感じます。こうした工芸技術者は王室の管理下にあり、貴族たちの注文によって作品を造っていたそうです。身分も王室に付属したものでしたが、1800年代末に解放され、市中向けの家具も製作するようになったようです。そうした中から日本に持ち込まれるチャンも出てきたのではないかということです。「華角三層チャン」の下部を見るとコウモリが羽を広げたような形をしています。「蝙蝠」の「蝠」は「福」と同じ発音で、縁起が良いとされることから、こうした形にしてあるそうです。ところが、「粉粧彩色長生文三層チャン」の下部はコウモリの形をしていません。これは日本向けに造られたのではないかと推測されるそうです。細部を知れば知るほど、興味は尽きません。

石人

クリムではありませんが、館の入り口や庭、室内に立っている石人せきじんが気になりました。墓の守り神なのだそうです。文人や武人、童人が2体一組で向かい合わせに立っています。面白いのは鼻がすり減っていることです。石人の鼻をこすると願い事が叶うという信仰あり、童人は身ごもった子が男の子であるように、文人は出世を、武人は勝利を、それぞれに祈って鼻をこすったためすり減ってしまったそうです。日本でもその部位を撫でると病気が治ると、人々が撫でてすり減ってしまった像があちこちにありますね。

墓を模した前庭の石柱や石人

虎図

「鵲虎図」(中央奥) 朝鮮時代 19~20世紀

日本や中国でも虎の図には人気がありますが、朝鮮でも同じだったようです。古朝鮮王朝誕生の壇君神話に、人間になりたいと願う虎と熊が出てきます。試練を与えられ、熊は耐えて人間になりましたが、虎は途中で逃げ出してしまいます。この弱い虎に親しみを感じるというのです。絵の虎の頭上、松の枝にはかささぎがとまっています。鵲は吉報を伝える鳥で、虎はわざわいを防ぎます。両方を描いた絵は縁起が良いとされ、門の近くに飾られたそうです。もう一幅「親子虎図」という虎の親子を描いた絵がありますが、両方とも怖くなくユーモラスな虎です。朝鮮の人々の虎への親しみが現れているのかも知れません。また、模様が豹のようです。日本の桃山時代にも豹柄の虎の絵があります。実物の虎を見たことのない当時の人が、豹柄はメスの虎だと勘違いして描いたそうです。それと同じかも。

長生

「刺繍十長生文枕隅」(中央) 朝鮮時代19世紀

枕隅ちんぐうとは枕の両脇に付ける飾りのことです。円の中に鶴、鹿、亀、松、竹、日、雲、岩、霊芝、水の10の長生きの文様が刺繍されています。これを十長生と言います。外周には長久不断を表す雷文と蝙蝠、ヒョウタンが交互に表されています。朝鮮王朝時代の絵には十長生を初めとする長生、多産を表す文様が数多く出てきます。

(後方左から)「蟹と蕪」、「鼠と瓜」ともに朝鮮時代 15~16世紀 「猫図」 同 18世紀 (手前)「青花松鹿文壺」 朝鮮時代 18世紀

蕪の葉の中の蟹、瓜をかじる白と黒の2匹の鼠。蟹はたくさんの卵を産むので多産、2匹の鼠は夫婦和合を意味するのだそうです。また、蟹の甲羅の「甲」は「甲乙丙丁…」と評価の最上を表します。猫は蜂に弄ばれています。野イバラの下、春蘭が揺れる情緒的な絵です。猫は長寿を、蜂は財を意味し、満開の梅と春蘭は徳を表しているのだそうです。

「刺繍十長生図屏風八曲一隻」 朝鮮時代 19世紀後半

八曲のそれぞれに十長生が描かれています。それも亀が松に瑞気という息を吹きかけ、それを鹿が飲む、鶴が松の葉をくわえて天に昇り1000年経って青い色になって地上に戻ってくる、など十長生がつながっているように描かれています。吉祥の意味合いをより強くしているのだそうです。こうした図案は日本や中国の絵ではあまり見ません。また、下地は朝鮮では少ない鮮やかな赤です。ベンガラや鉛丹、紅花といった顔料・染料が採れず、赤は貴重な色だったようです。この屏風はかなり高価なものだったのでしょう。

朝鮮通信使

「朝鮮通信使参着帰路行列図」 江戸時代中期 1711年 レプリカ
「宗対馬守護行帰路行列図」 同上

常設展示されている朝鮮通信使の資料です。朝鮮通信使とは室町時代に始まった朝鮮国王が派遣した使節団のことで、秀吉の朝鮮出兵で一時途絶えますが、徳川政権になり1607年に復活します。以後12回続きます。201710月にユネスコ「世界の記憶」に登録されました。二つの行列図は「世界の記憶」に登録された品で、各全4巻。8巻合わせると108メートルにもなります。尾張徳川家に伝わったもので、息女が京都の近衛家に嫁ぐ際の花嫁道具の一つだったそうです。1711年に老中が対馬藩・宗家に命じて描かせたのですが、総勢400人にもなる通信使への対応の資料とするためでした。実務的な目的で描かれたため、細部まで正確に描かれています。使節の輿や対馬の殿様の籠、警護の武士や荷物の数、衣装など見飽きることがありません。展示されているのはレプリカですが、実物も劣化はなく同じように見えるそうです。大切に保管されていたことが分かります。

「馬上才図」 江戸時代 18世紀中期

こちらも「世界の記憶」に登録されている作品です。家光の希望で馬の曲芸が通信使に入ることになり、将軍や大名の前で披露されました。この絵は正式な場と、対馬藩邸での予行演習を組み合わせたもののようです。手前では平服の武士が見学しています。こうした裏の場面を描いたものは極めて珍しいということです。通信使と対馬藩のそれぞれの担当者が打ち合わせをしたかも。じっくり見ると、何か発見があるかも知れません。

2階展示 男性、女性の部屋

手前が女性、奥が男性の部屋を模したもの

儒教の精神が浸透していた朝鮮王朝時代、部屋も男女で別れていました。男性の部屋は舎廊房サランバンといい玄関近くに位置しました。琴、将棋・囲碁、書画などに親しむだけでなく、接客や仕事、寝室として日常の大半を過ごしました。質素倹約を第一とし精神性を投影する生活の場でした。それに対し女性が普段起居する部屋は閨房キュバンと呼ばれ、夫婦が寝食を共にする私的な空間でした。こちらは長生文様や瑞祥文字の施された箪笥や鏡台、裁縫箱などが置かれ、華やかな部屋になっています。

こうして見てくると、日本と同じか似ているもの、異なったものと様々です。鄭詔文氏の子息で美術館代表理事である鄭喜斗さんは「日本にいて朝鮮の息吹を感じてほしい。身近にあるお互いの国のことを知ってほしい」と言います。絵の中に長生きの願いを込めたり、縁起の良い絵を描き込んだりと、もっと深く知り合う素材がたくさんありそうです。

★ ちょっと一休み ★

雰囲気が良いと美術館員が勧めてくれたのが、西に徒歩6、7分のカフェ・スターダスト(http://stardustkyoto.com/cafe/)。織屋建てという築約90年の古民家は天井が高くゆったりとした雰囲気だ。アンティークの机や椅子もこの空間にぴったり。照明も自然光中心で陰影が深い。メニューはフランスのお茶専門店CHA YUANの紅茶、緑茶、ウーロン茶。コーヒー、ケーキ、タルトなど。素材はすべて植物由来。建物奥にあるカフェは9人が限度で事前予約が必要だ。値段はお茶が700~800円。コーヒー660円。ちなみに筆者はCHA YUANの「オーブ ド シャンハイ」を注文。フルーツとバニラの香りが素敵でした。月・木曜日が休み。11時~18時営業。予約は℡0752867296まで。

(ライター・秋山公哉)

秋山公哉:1957年生まれ。読売新聞編集局編成部、読売プラス編成本部などを経て、読売新聞事業局で「美術展ナビ」を担当。2022年からフリーのライターに。