【愚者の旅―The Art of Tarot】第19回〈番外編③下〉 「小アルカナ」のコートカード。描かれているのはどんな人?

「マルセイユ版」の騎士のカード

「愚者の旅」、3回目の番外編である「小アルカナ」編も今回が最後。前回でお話しした通り、「人物札=コートカード」がテーマである。以前も書いた通り、「小アルカナ」はトランプカードと源流は同じで、それはどうやら中国からアラブ世界を経て伝搬したもののようだ。スートの種類も(名前こそ違うけど)大体同じだし、数札の数も同じ。唯一の違いは「人物札=コートカード」、トランプカードが「王(キング)」「女王(クイーン)」「従者(ジャック)」の3種類なのに対し、「小アルカナ」は「王(キング)」「女王(クイーン)」「騎士(ナイト)」「小姓(ペイジ)」の4種類だ。

「マルセイユ版」の「棒」のコートカード

「小アルカナ」にはなぜ、トランプカードにいない「騎士」がいるのか。「それは、十字軍と関係あるのかもしれません」とこの連載のナビゲーター、イズモアリタさんはいう。東から伝来した遊戯カードは12世紀頃にヨーロッパに到来し、そこから「小アルカナ」やトランプカードに発展した、と言われている。「エルサレム奪還」を旗印に「第1回十字軍」の遠征が行われたのが109699年。以降、14世紀に至るまで遠征は行われていた。「小アルカナ」やトランプカードの原型ができたころ、もう十字軍はなくなっていたかもしれないが、「その記憶はまだ、はっきりと社会に刻まれていたでしょうね」とアリタさん。十字軍と関係が深いのが、1119年に創設されたテンプル騎士団である。「その存在が、『騎士』のカードの成立やタロットカードの伝搬と関連していたのかもしれません」とも話す。

「マルセイユ版」の聖杯のコートカード

その「騎士」のカードだが、「デッキによってはキングよりも上位に来ることがある」とアリタさんは付け加える。「王様が統治するのは、自分の領地だけですから。騎士はより崇高な使命のもと世界を移動することができて、それぞれの土地で騎士としての活動ができる。より自由でより幅広く力を発揮できる存在でもあるんですよ」。実際、先ほど挙げたテンプル騎士団など、複数の騎士団が中世のヨーロッパでは国境を超えて活躍している。コートカードにはそんな歴史の記憶も刻み込まれているのかもしれない。

「マルセイユ版」の剣のコートカード

さてさて。話を「コートカード」そのものに戻そう。「ペイジ」は先ほど書いた通り、「小姓」である。元服したばかりの少年。才能はあり、やがて立派な「騎士」などになっていくのだろうが、まだ経験を積んでいない。学生のような存在だろうか。その「肉体」や「五感」は、これから研ぎ澄まされていくのである。それに比べると「ナイト」は十分に経験を積んで力を覚醒させた若者。自力で世界を切り開いていく「知性」の持ち主だ。「キング」と「クイーン」は、それぞれ成熟したオトナである。「クイーン」は聡明で落ち着いた雰囲気を持つ女性。「感情」などの「情動面」を司っているようだ、威厳を持って世界を治めている「キング」は「生命力」など、人間にとっての根源的なエネルギーを強く持った男性のようである。「キング」も「クイーン」も、「地に足を着けた」存在で、アクティブな「ナイト」に比べるとちょっと保守的な匂いもする。

「マルセイユ版」の金貨コートカード

これと「棒(ワンド)=火=熱・乾」、「聖杯(カップ)=水=冷・湿」、「剣(ソード)=風(空気)=熱・湿」、「金貨(コイン)=地=冷・乾」の4スートとの組み合わせで、「聖杯のクイーン」「棒のキング」などの意味・解釈が決まってくる。例えば「剣のキング」であれば、「豊かな知性と決断力があり、カリスマ性もそなえている公正な人物が、時として冷たく、容赦なく人を切り捨てるようなイメージもある」といった感じ。「聖杯のペイジ」であれば、「感受性豊かな若者、あるいはいくつになっても若者のような感受性を失わない人、ただしその心は未完成なので傷つきやすい面もある」という感じだろうか。

「マルセイユ版」のペイジのカード

「小アルカナ」は「大アルカナ」と違って、「抽象度が低いので、運命論にとらわれないことが大切です」とアリタさんはいう。4種類のスートの示す意味、数やコートカードの持つ意味がはっきりしているため、「大アルカナよりも細かいディテールを示していることが多いのです」とも。解釈の幅が広く解釈の自由度が高い「大アルカナ」とピンポイントで何かの状況を示してくれる「小アルカナ」、対照的な「大」と「小」があってこそ、タロットの世界は豊かなものになるのである。

(美術展ナビ取材班)


【愚者の旅―The Art of Tarot】タロットって何?

14世紀から15世紀にかけてヨーロッパで原型が作られたタロットは、18世紀から19世紀にかけて占いのツールとして使われるようになり、19世紀から20世紀にかけて神秘主義と結びついた。タロットカードに描かれる絵は寓意と暗喩に満ち、奥深く幅広い解釈が出来るようになったのである。数多くの画家たちが腕を競ったカードの数々は、まさにテーブルの上の小さなアート。タロット研究家で図案作家のイズモアリタさんをナビゲーターに、東京タロット美術館(東京・浅草橋)の協力で進めるこの企画は、タロットのキーパーソン「愚者」の「旅」にスポットを当てながら、カードに描かれている絵の秘密を解き明かしていく。

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