【愚者の旅―The Art of Tarot】第18回〈番外編③中〉 「小アルカナ」の4スート、それは「世界」を表すのです

小アルカナ、4種類のA(エース)

「愚者の旅」、番外編の第3弾は「小アルカナ」がテーマである。4種類のスート、56枚のカードからなる「小アルカナ」は、実はトランプカードと同じルーツを持ち、どうやらその源流は中国にあるらしい、というのが前回で述べたこと。「大アルカナ」よりも、歴史は古いのではないか、ということも前回でお話ししたことである。トランプカードと「小アルカナ」で同じなのは、4種類のスートがあって、数札が10枚あること。違うのは、スートの絵柄と、「絵札=人物札=コートカード」がトランプカードでは3種類であるのに対し、「小アルカナ」では4種類であること。上中下からなる番外編③の「中」にあたる今回は、その「スート」について語ることにしよう。

「マルセイユ版」の「棒」のカード

「小アルカナ」のスートは、「棒(wands)」「聖杯(cups)」「剣(swords)」「金貨(coins)」の4種類。トランプカードで言えば、それぞれ「クラブ(♧)」「ハート(♡)」「スペード(♤)」「ダイヤ(♢)」に相当する。「エンペドクレス、プラトン、アリストテレスら古代ギリシャの賢人たちは、この世界は、火、水、風、地という4種類のエレメントからできている、と考えていました」とこの連載のナビゲーター、イズモアリタさんは話す。この四大エレメントを表すのが、「小アルカナ」やトランプカードのスートなのである。「棒」=「クラブ」=火、「聖杯」=「ハート」=水、「剣」=「スペード」=風、「金貨」=「ダイヤ」=地、というふうに。

「マルセイユ版」の聖杯のカード

燃えさかる「火」は、ほとばしるエネルギーを意味する。「棒」には、何かの意図を持って使われている「道具」のイメージがある。つまり、「小アルカナ」の「棒」は、意志を持って外界に放出されるエネルギー、「情熱」「力」「意志」「ひらめき」といった意味を持つ。四大エレメントには、それぞれ意味があり、それが「小アルカナ」に対応しているのである。磔刑に処せられたイエス・キリストの血を受けた「聖杯」。それは血液の循環を司る「心臓」=「ハート」と結びつけられるものであり、「愛情」「感情」「叙情性」などを表している。

「マルセイユ版」の金貨のカード

対象を「切り分ける」のが「剣」。これを正しく使うためには、冷静さや判断力が求められるため、「知性」や「思考」を意味する「風」と結びつけられている。ただし、スペードのカードが「不吉」を意味することが多いように、「分断」とか「非情」とかの意味に取られることも多いスートでもある。「金貨」は経験を積んで得ることが出来た信頼の基盤、つまり「地に足が付いた」状態を示す。それは「物質的」な「現実」を味わうために必要な「五感」も示している。現実社会で豊かな生活を送るためには、「金貨」は必要不可欠なものですよね。つまりは、そういうこと。トランプカードのスートの意味も、これに準じていると考えていいだろう。

「マルセイユ版」の剣のカード

また、アリストテレスは四大エレメントを構成する性質を「熱・冷」「湿・乾」という2つの対立項に分け、「熱・乾」が「火」、「熱・湿」が「風(空気)」、「冷・乾」が「地」、「冷・湿」が「水」となる、としている。こういう四大エレメントの考え方は、錬金術や占星術と結び付き、近代科学が誕生するまでは、西洋の世界観の中心に座していた。科学の発展によって、それはいったん時代の外へと追いやられていたのだが、ドイツの心理学者、カール・グスタフ・ユングやフランスの心理学者、ガストン・パシュラールらが人間の無意識や想像力と「四大エレメント」との相関性を主張したことで再評価されるようになった。例えばユングは、「四大エレメント」を参考に、人間の心を「思考・感情」「直感・感覚」という2つの対立軸を持つ計4項の機能に分解し、それらの組み合わせで成り立っている、と主張した。「思考・感情」「直感・感覚」の4項による人格分析は現在でも行われており、会社の研修プログラムなどでお目にかかった方も多いのでは。

マルセイユ版、小アルカナのカードのいろいろ

話を戻そう。「小アルカナ」が示しているのは、「火」「風」「水」「土」の「四大エレメント」。それと「生命の樹」を組み合わせて19世紀に体系的な意味づけを行ったのが、すでにみなさまにもおなじみになりつつある魔術結社「ゴールデン・ドーン(黄金の夜明け団)」だそうである。前回も書いた通り、下記にある「数の秘密」と「四大エレメント」とを組み合わせると、「小アルカナ」の「数札」の意味が見えてくる。では、4種類の「人物札=コートカード」は何を意味するのか。それは、次回のお楽しみに。

(美術展ナビ取材班)


【愚者の旅―The Art of Tarot】タロットって何?

14世紀から15世紀にかけてヨーロッパで原型が作られたタロットは、18世紀から19世紀にかけて占いのツールとして使われるようになり、19世紀から20世紀にかけて神秘主義と結びついた。タロットカードに描かれる絵は寓意と暗喩に満ち、奥深く幅広い解釈が出来るようになったのである。数多くの画家たちが腕を競ったカードの数々は、まさにテーブルの上の小さなアート。タロット研究家で図案作家のイズモアリタさんをナビゲーターに、東京タロット美術館(東京・浅草橋)の協力で進めるこの企画は、タロットのキーパーソン「愚者」の「旅」にスポットを当てながら、カードに描かれている絵の秘密を解き明かしていく。

新着情報をもっと見る