【愚者の旅―The Art of Tarot】第17回〈番外編③上〉 「大」があるなら「小」もあるんです。「小アルカナ」って何?

小アルカナ、4種類のA(エース)

「運命の輪」から「力」、「吊された男」と「愚者の旅」はいよいよ佳境に入ってきた。「内なる世界」への旅が始まって、話がどんどん複雑になり、神秘主義の色合いも増し、「ちょっとおなか一杯かな」と思っていらっしゃる方もいるかもしれない。このあたりで「箸休めとして、「番外編」を挟むことにしよう。

「番外編」第3弾のテーマは「小アルカナ」である。22枚、すべて異なる構図の絵札で構成されている「大アルカナ」に対して、56枚の「小アルカナ」は「棒」「聖杯」「剣」「金貨」の4種類のスートに分かれており、それぞれ1~10の「数札」と「ペイジ(小姓)」「騎士(ナイト)」「女王(クイーン)」「王(キング)」という4種類の「人物札」で構成されている。「あれ、どこかで見た構成だな」と思われる方も多いかもしれない。「基本的には、トランプのカードと同じなんですよ」とこの連載のナビゲーター、イズモアリタさんは話す。

「マルセイユ版」の数札

なぜ、トランプカードと同じ構成の「小アルカナ」がタロットカードに含まれているのか。以前は、「タロットカードからトランプが派生した」との説が唱えられていたのだが、現在、その考えは否定されつつある。「ヴィスコンティ版」の「大アルカナ」よりも古い時代のトランプカードが確認されているからだ。「トランプカードと『大アルカナ』は別系統で発達したもののようです」とアリタさんはいう。実は1415世紀にイタリアで作られていた「ヴィスコンティ版」には、「大アルカナ」はあっても「小アルカナ」は存在しない。17世紀に成立した「マルセイユ版」に「小アルカナ」があることを考えると、この間のどこかでトランプカードから派生した「小アルカナ」が「大アルカナ」と合流、結合して、現在のタロットカードが生まれた、と言えそうだ。

「マルセイユ版」のペイジのカード

大アルカナの原型は、イタリアの貴族社会で作られていた絵札だと言われている。では、小アルカナ、トランプカードのルーツはどこにあるのか。「それらの源流は中国にある、といわれています」とアリタさんは話す。中国では唐の時代(618907)にはすでにカードゲームが遊ばれていたといわれており、いろいろな紙牌(チーパイ)や骨牌(コッパイ)が作られた。明代(13681662)に士大夫の間でよく遊ばれていたのが「馬弔(マーチャオ)」というゲームで、そこで使われていたカードがアラビア世界を経てヨーロッパに伝わり、形を変えてトランプカードになったとされる。ちなみに、この「馬弔」が骨牌と融合して出来上がったのが「麻雀」だと言われており、そうすると「タロットカード」と「麻雀」は遠い親戚、といえるかも。

「マルセイユ版」の数札

「馬弔」の札には水滸伝の英雄などが描かれていたそうだが、イスラム社会では偶像崇拝が禁じられているため、アラブ社会のカードでは絵札には人物が描かれておらず、文字でその説明がされていたそうだ。アラビアのトランプカードは、「貨幣」「カップ」「刀剣」「ジャウカーン(ポロ競技用のスティック)」の4つのスートがあり、「王」「総督」「第二総督」という3種類の絵札があったという。つまり、この時点でトランプカードの原型がほぼ出来ていたことになる。トランプカードは14世紀ごろにヨーロッパに到達したらしく、ポロ競技が欧州ではなじみがなかったことから、スートのうち「ポロ競技用のスティック」が「棒」や「杖」になったとされる。最初にトランプカードが「上陸」したのは、イタリアだと言われているが、スペインという説も有力。すぐに大陸全般に広がったらしく、15世紀後半になると、フランスではクラブ(♧)、ハート(♡)、ダイヤ(♢)、スペード(♤)の4スートが定着し、絵札がvalet(従者=ジャック)dame(貴婦人=クイーン)roi(王=キング)になったという。トランプカードの絵札が3枚なのに「小アルカナ」の人物札がなぜ4種類あるのか、その理由ははっきりしない。トランプカードの4スートと「小アルカナ」の4スートとの関係は、次回で説明することにしよう。

1~10の数字の意味は、以前にも述べた「数の秘密」に対応している。もう一度、その表を載せておこう。さらに言えば、それは「生命の樹」とも対応しており、数字とスートの組み合わせで、「小アルカナ」の数札の意味が決まる。人物札は「コートカード」と呼ばれるが、これが何を意味するかは次々回で詳しく触れる。いずれにしても、「数」と「カード」の関係、数秘術を使ったメカニズムの基本は、「大アルカナ」と変わらない。「大」でも「小」でもタロットカードの論理は、ヨーロッパの神秘学の歴史と対応しているのである。

(美術展ナビ取材班)

生命の樹(イズモアリタ作)


【愚者の旅―The Art of Tarot】タロットって何?

14世紀から15世紀にかけてヨーロッパで原型が作られたタロットは、18世紀から19世紀にかけて占いのツールとして使われるようになり、19世紀から20世紀にかけて神秘主義と結びついた。タロットカードに描かれる絵は寓意と暗喩に満ち、奥深く幅広い解釈が出来るようになったのである。数多くの画家たちが腕を競ったカードの数々は、まさにテーブルの上の小さなアート。タロット研究家で図案作家のイズモアリタさんをナビゲーターに、東京タロット美術館(東京・浅草橋)の協力で進めるこの企画は、タロットのキーパーソン「愚者」の「旅」にスポットを当てながら、カードに描かれている絵の秘密を解き明かしていく。

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