【愚者の旅―The Art of Tarot】第15回 「力 The Strength」 柔よく剛を制す。獣の本能と人間の理性、それをどう融合させればいいのか――。

「マルセイユ版」の力

11という数は、「10+1」。「運命の輪」でひとつのステージを終えた「愚者の旅」は、ここから新しい展開となる。「10」という完結した世界からさらに一歩踏み出すわけだ。ユダヤの神秘思想カバラでは、「11」という数自体が「マスターナンバー」といわれる特別な数であり、「インスピレーション豊か」で「他者に働きかける個性」があり、「未来に向けたエネルギー」を持っていることを示している。「11」の1の位と10の位を足すと、「1+1=2」。「安定」や「コミュニケーション」を示す「2」の要素が、奇数であることによって活性化されているとも解釈できるのである。

その「11」の場所にあるカードは、「ゴールデン・ドーン・タロット」やその系列の「ライダー版」では「正義」だが、より古い「ヴィスコンティ版」や「マルセイユ版」では「力 The Strength」であることは、以前に述べた通りだ。この連載では、「より古い」形に従って、「11=力」を採用しているのも、以前に述べた通りである。では、「愚者」の「新たな出発」にあたって、「力」はどんな意味を持っているのだろう。

「ライダー版」の力

ⅧであろうがⅪであろうが、「力」のカードには、王冠や帽子をかぶった女性が獅子の口に手をかけている様子が描かれている。「ニコレッタ・チッコリ」のカードでは女騎士がヤリで獅子を服従させているのだが、これはちょっと例外的。どちらかというと、「優しく馴致している」イメージだ。ペットを飼っている方ならわかるだろうが、イヌだってネコだって口の中に手を突っ込むためには、かなりの信頼関係が必要。この女性と獅子は、深い絆で結ばれているのである。ちなみに、「ライダー版」の女性の頭の上には、「魔術師」のカードでおなじみ、「∞」のマークがあり、「マルセイユ版」の女性の帽子も「∞」を連想させる形をしている。「愚者」が「旅」を始めた最初のカード「魔術師」と、「力」のカードはやっぱりどこかでつながっているようだ。

「タロット・デ・パリ」の力

神獣を伴う若い女性。そこで思い起こされるのは、ディズニー映画でおなじみ「美女と野獣」のイメージだろうか。この物語、「ヒトは見た目ではない」という解釈が一般的なようだが、「まったく異なる文化、性質のモノたちがどのように理解し合うのか」という物語のようにも思えるからだ。「神獣」という要素にスポットを当ててみると、「ユニコーンと清純な乙女」のシチュエーションも頭に浮かんでくる。「聖なる獣性」「人智の及ばぬ自然の力」と心を通い合わすことができるのは、「無垢なる精神」の持ち主なのである。「ニコレッタ・チッコリ」で描かれる白馬に乗った純白の女騎士は、聖戦に臨むジャンヌ・ダルクのようでもある。「力のカード」には、「聖なる処女」の香りが漂う。

「ニコレッタ・チッコリ」の力

そんな状況の中での「力」とは何だろうか。「『The Strength』というよりも、『The Force』という方がぴったりしているかもしれませんね」というのは、本連載のナビゲーター、イズモアリタさんだ。日本語では「理力」と訳される「Force」には、「物理的」で「フィジカル」な「Strength」に比べ、より「精神的」で「神秘的」な響きがある。実際に「マルセイユ版」や「タロット・デ・パリ」では、カードの名前は「La Force」なのだ。「Force」という言葉で思い出されるのは、映画「スター・ウォーズ」のあの名文句“May the Force be with you”(フォースとともにあらんことを)。この場合の「Force」は「宇宙の摂理」「世界を統べる力」という感じだろうか。

「マザーピース・タロット」の力

単なる「腕っぷし」の強さだけではない、より精神的な深さを持つ「力」のカード。獅子という動物が象徴しているのが人間の心の奥に潜む「獣性」だとすれば、それを手なずけている「聖なる乙女」は「知性」や「理性」を意味しているのかもしれない。「獣性」はどんな人間にもある。その存在を認め、それを馴致し、理性や知性で「融合」させてこそ、ヒトは世界を統べる力を持つことができるのである。「マザーピース・タロット」は、その「獣性」との共存こそが、「内なる力」の解放につながると言っているようだ。

「トート版」の力

さらに過激なのが「トート版」だ。「欲望 The Lust」と名付けられたこのカードでは、「乙女」と「獣」の主従関係が逆転。「獣性こそが人間の真実なのだ」と言っているように見える。快楽と欲望の向こう側にある、解放のユートピア。チベットの密教などにも通ずる思想を具現化したカードは、なるほど「20世紀最大の魔術師」と自称したクロウリーが制作しただけのことはある。どうやら「愚者の旅」のセカンドステージは、世俗を離れ、より人間の「内面」を探る旅のようだ。

(美術展ナビ取材班)

「力」のカードのいろいろ


【愚者の旅―The Art of Tarot】タロットって何?

14世紀から15世紀にかけてヨーロッパで原型が作られたタロットは、18世紀から19世紀にかけて占いのツールとして使われるようになり、19世紀から20世紀にかけて神秘主義と結びついた。タロットカードに描かれる絵は寓意と暗喩に満ち、奥深く幅広い解釈が出来るようになったのである。数多くの画家たちが腕を競ったカードの数々は、まさにテーブルの上の小さなアート。タロット研究家で図案作家のイズモアリタさんをナビゲーターに、東京タロット美術館(東京・浅草橋)の協力で進めるこの企画は、タロットのキーパーソン「愚者」の「旅」にスポットを当てながら、カードに描かれている絵の秘密を解き明かしていく。