【愚者の旅―The Art of Tarot】第14回 「運命の輪 The Wheel of Fortune」 回る、回る、運命は回る。出会いと別れ繰り返し……

「マルセイユ版」の運命の輪

洋の東西を問わず、「運命」は人智の及ばないもののようだ。禍福は糾える縄の如し。人間万事塞翁が馬。何が幸福で何が不幸なのか。それすらも、「運命のいたずら」でコロコロと変わってしまう。ローマ神話の女神フォルトゥナは「運命の輪」を管理しているのだが、気まぐれにその輪を廻して地上の人々にアトランダムに幸運を与える。そのフォルトゥナ(Fortuna)を語源とするのが英語の「fortune」。だから、「The Wheel of Fortune」は「幸運の輪」でなく、「運命の輪」なのである。

「バッカス版」の運命の輪

タロットの「運命の輪」は、その女神フォルトゥナが回していたものなのだろうか。「マルセイユ版」以降では、女神の姿はカードには現れない。その輪は地面の上に2本の足で設置され、把手が付いていて、いかにも「回して下さい」と言っているようなのだが。「マルセイユ版」でも「バッカス版」でも、その輪には何だか分からないヤツらが取り付いている。

「ライダー版」の運命の輪

「ライダー版」を見るとハッキリ分かる。輪の上に乗っかっているのは、スフィンクスだ。「王の顔」と「獅子の体」を持つエジプト神話の神獣は、諸王の墓であるピラミッドの守護者でもある。「ヒトはどのように人生を過ごしても、最後はみんな墓場に行く儚い存在?  愚者はその旅路の中継地点で何を見出していくのか興味深いシーンですね」と、本連載のナビゲーター、イズモアリタさん。ギリシャ神話で「朝は4本足、昼は2本足、夜は3本足で歩く者は何か」とオイディプスに問いかけたスフィンクス。それは人生や生命を象徴しているようである。

「運命」にまとわりついている他のヤツらは何者だろう。「マルセイユ版」では、下を向いているのがサル、上に向かっていくのがイヌのようだ。「ライダー版」では下降しているのはヘビ、上行しているのは何だか赤い怪物だ。サル、ヘビからは、「狡猾」とか「悪知恵」とかいう言葉が浮かんでくる。エジプト神話で「赤い神」といえば、「砂漠の神」としてすべての悪を象徴するテュポンだ。だとすると、イヌは「獣性」を象徴するのだろうか。ヒトの「運命」には、かくのごとく「卑しきモノ」がまとわりついているのか。「エル・グラン・タロット・エソテリコ」のカードでは、クマのようなケダモノが輪を転がしている隣で、王冠をかぶったサルがその様子を眺めている。手に持つ風車を回しているのは、「いたずらな運命の風」だろうか。そこにある木は、宇宙を体現する「生命の樹」だろうか。

「エル・グラン・タロット・エソテリコ」の運命の輪

東洋に住むわれわれにとって、「運命の輪」で連想されるのは、「輪廻転生」という言葉だ。そう考えると、人生の神秘を司るスフィンクスが持つ剣は輪廻の環を断ち切るためにあるようにも思える。「ライダー版」や「ダリ版」を見ていると、「運命の輪」を囲んでいるのは、「ヒト」「ワシ」「獅子」「牡牛」の四聖獣。それらが表すのは、「風、水、火、土」、世界を構成する四大要素である。何だか分からないヤツらに取り付かれているとはいえ、「運命の輪」は宇宙を動かしているバランスに従って動いているようである。

「ダリ版」の運命の輪

「四大要素」と「宇宙のバランス」を強調しているように見えるのが、「ゴールデン・ドーン・タロット」だ。ご丁寧に真ん中には「生命の樹」まで描かれている。「マザーピース・タロット」では水金地火木土天海冥、太陽系の姿が描かれている。まさに人智を超えたところにある「運命」。大きな目で見ると、その動きは「宇宙の摂理」に従っている。そんなイメージが増幅される。

「ゴールデン・ドーン・タロット」の運命の輪

10」という数字は「1」と「0」、図形化すると、「☉」となる。始まりの「1」を「0」で囲ったと考えると、「1」で始まったモノゴトがひとつの終わりを迎えた、というイメージだ。ひとつのサイクルの終わり、でもその「輪」はまだ回り続けている。真ん中の点を中心軸として、「○」は回転しているように見えるのである。つまり、様々な経験をしながら旅を続けてきた「愚者」はここでひとつのステージを終えるのだが、その「旅」は「回り続ける」、次のステージが待っているのだ。

「マザーピース・タロット」の運命の輪

「運命の輪」は回り続ける。それが「吉」と出るか「凶」と出るか、にわかには判定できないが、それが「人生における大きな転機」を暗示しているのは確かだろう。ヒトという存在が逃れられない「輪廻転生」というカルマ。スフィンクスの剣によって「解脱」することはできるのか。ヒトの運命には「卑しきモノ」が影響しがちなのだが、大きく見れば「四聖獣」に守られた「宇宙のバランス」の中で落ち着くところに落ち着いていくのだろう。回す者が描かれていないタロットカードの「運命の輪」。それは、「その輪を廻し、人生を切り開いていくのは、結局のところあなた自身なのだ」と言いたいのかもしれない。

(美術展ナビ取材班)

「運命の輪」のカードのいろいろ


【愚者の旅―The Art of Tarot】タロットって何?

14世紀から15世紀にかけてヨーロッパで原型が作られたタロットは、18世紀から19世紀にかけて占いのツールとして使われるようになり、19世紀から20世紀にかけて神秘主義と結びついた。タロットカードに描かれる絵は寓意と暗喩に満ち、奥深く幅広い解釈が出来るようになったのである。数多くの画家たちが腕を競ったカードの数々は、まさにテーブルの上の小さなアート。タロット研究家で図案作家のイズモアリタさんをナビゲーターに、東京タロット美術館(東京・浅草橋)の協力で進めるこの企画は、タロットのキーパーソン「愚者」の「旅」にスポットを当てながら、カードに描かれている絵の秘密を解き明かしていく。