【探訪】東急グループの礎を築いた五島慶太が集めた美――五島美術館の企画展「近代の日本画展」を見る

大井町駅(東京都品川区)と溝の口駅(川崎市高津区)を結ぶ東急大井町線は、渋沢栄一の「田園都市」構想をきっかけに生まれた路線だという。だからなのだろう、沿線には閑静な住宅街が広がっている。五島美術館のある上野毛駅は二子玉川駅のひとつ手前。創設したのは東急の会長だった五島慶太氏(1882~1959)。有名なのが奈良時代の古写経のコレクションで、そこから派生して、書跡類、絵画、陶磁器などの名品も多数所有している。国宝の《源氏物語絵巻》《紫式部日記絵巻》は特に有名だ。

年間6、7回の展覧会、そのうち1、2回を特別展として開催している同美術館。現在開催中なのは、明治から昭和にかけての画家を特集した「近代の日本画展」である。五島家旧蔵品を中心とする近代日本画は、「床の間に飾る絵を中心に集めたもの」(砂澤祐子学芸課長)だそうだ。なるほど、大小様々な軸が展示室には並んでいる。

狩野芳崖、橋本雅邦、横山大観……展示されるのは、「風景画」というより「山水画」という趣だ。川合玉堂、川端龍子らそうそうたる面々が描いた雅で壮大な自然の数々。あくまで正統的で「いかにも日本画」という感じだ。五島翁はこういうオーソドックスな日本美術が好きだったのかな、と思うと「西の小林(一三・阪急東宝グループの創始者)、東の五島」と言われたカリスマ経済人が少しだけ身近になったように思えるから不思議だ。文人画的な軽みがある冨田溪仙、山肌の描写に俳味がある小川芋銭……「王道の日本画」の数々を気軽に鑑賞できる展覧会なのである。


「特集展示」として、同時に公開されているのが、館蔵の近代書跡と宇野雪村コレクションの文房具。画家のジョアン・ミロとも交流があったという雪村の書は、躍動的な「かたち」と「墨の跡」が印象的。個人的に面白かったのは大澤竹胎の「立体文字」で、「子」と「純」の2文字が展示されているのだが、いかにも踊り出しそうで楽しげ。町春草が書いた銘菓「東京ひよ子」のロゴを、ふと思い出した。形が意味を創り、意味が形を司る。西洋の前衛画家たちが「書」に強い関心を持ったのも「むべなるかな」と愚考した次第である。
(事業局専門委員 田中聡)

[館蔵]近代の日本画展 |
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会場:五島美術館(東京都世田谷区上野毛3-9-25) |
会期:2022年5月14日(土)~6月19日(日) |
休館日:月曜日 |
アクセス:東急大井町線上野毛駅から徒歩約5分 |
観覧料:一般1000円、高・大学生700円、中学生以下無料 |
※最新情報は同館HP(http://www.gotoh-museum.or.jp/)で確認を。 |