【愚者の旅―The Art of Tarot】第10回〈番外編②上〉 タロットのヒミツの裏にある「数」の意味。どうしてこのカードは、こんなイメージになるの?

生命の樹(イズモアリタ作)

「よくある疑問」に答えていく「愚者の旅」の「番外編」。第2弾は2回にわたって「数の秘密」について。これまでの連載を読んでいただいて分かる通り、「数」はタロットを読み解く大きなカギだ。では、その「数」の論理はどのように構成されているのだろうか。

「ヨーロッパには昔から数字に様々な意味やイメージを持たせる『数秘術』が伝わっていて、タロットもそれを踏襲しているんです」というのは、この連載のナビゲーター、イズモアリタさんだ。

「数秘術」の創始者は、あの「ピタゴラスの定理」で有名なピタゴラスだと言われていて、それをプラトンが受け継いで発展させていったと言われている。そこにユダヤ教の神秘主義思想である「カバラ」や占星術が結び付き、複雑な思想体系が構築された。冒頭に掲げた「生命の樹」(カバラではセフィロトの樹)は、その一環。宇宙のすべてを解析するための象徴図といわれる。それとタロットを組み合わせたのが、魔術結社ゴールデンドーンで、生命の樹にある10個の球体(セフィラ)と22の小径(パス)が「数」と「大アルカナ」を表している、とされる。

「マルセイユ版」の数札

ちなみに「生命の樹」は「知恵の樹」とともに、「エデンの園」にあるといわれる木。「生命の樹」の実を食べると、永遠の生命を得ることができるという。蛇にそそのかされて「知恵の実」を食べたアダムとイヴが楽園から追放されたのは、「知恵」に加えて「生命」の実まで食べると、「神に等しき存在」になってしまうため、なのだとか。「全能である神」が「自分に近い存在」を恐れる、というのも不思議な話だけど……。直接的に「数」を表現している「小アルカナ」の数札はもちろん、ナンバリングされている「大アルカナ」もその「数」の意味と深く結びついている。

「ライダー版」の魔術師のカード

例えば――。上に挙げたのは、連載2回目でも紹介したライダー版の「魔術師」のカード。魔術師の頭の上には、「∞」のマークが描かれている。「『1=∞』とは何なのか」と、その時に書いたけど、実はこれにも意味がある。

「愚者」のカードのナンバーはゼロ、数字で描くと「0」である。これを図形で描くと「○」。「すべての可能性を秘めていて、それでいてまだ何も表現していない」宇宙の卵のイメージだ。円は常に回転することができ、回転によってその形が変わることもないため、その円周上にある点の座標は特定されることがない。だから「すべてを内在するけども、まだ何も表現していない」わけである。

この円をえいっとねじってしまうとどうなるだろうか。ねじったために、「座標が特定される」ひとつの点が生まれないだろうか。つまり「○」→「∞」となるわけである。「あらゆる可能性」の中から「ひとつの可能性」を選び出したのが「1」。つまり、そこで物事が「始まる」。すべての物事を内包する「愚者=○」が「地上に降り立った」ことで「魔術師=∞」が特定され、そこからすべてが始まる、というのが「愚者の旅」の寓意なのである。

さらに言えば、その「∞」には、2つの「部屋」が出来ていることがおわかりだろうか。「○」→「∞」の作業を行ったため、「∞」にはひとつの特異点が生まれた。それは同時に、2つの「部屋」をも生んだわけである。2つの要素が生まれたことによって、「天と地」「陰と陽」などの相対的な関係が生まれ、そこから「対立」や「調和」なども生まれてくるわけである。「始まり」の1と「バランス」の2が合わさったのが「1+2=3」の「3」。だから、「3」は「創造性」とか「最初の成功」とかの意味を持っている。

女教皇のカードナンバーは「2」、「天」からの知恵を「下界」に伝えるという寓意がある

だから、カードナンバー2の「女教皇」は、「天」あるいは「神」からの掲示を「下界」あるいは「人間たち」に伝える、という寓意で「上下の世界」の二項性が打ち出されており、ナンバー3の「女帝」は何かを生み出す「豊穣」の意味になっている。「数秘学」では1~9の「1ケタ」の数を「ルートナンバー」といい、それぞれに意味が持たされている。それと「生命の樹」のイメージはどんなふうに重なるのか。それを簡単にまとめてみたのが、上の表だ。

「ドリーミング・ウェイ・タロット」の女帝。妊娠した若い女性の絵で「新たなる誕生」を表している

まあ、あくまでも「簡単にまとめた」表なので、いろいろ「なぜ」「どうして」が生まれてくるだろう。例えば、「5」がなぜ「人間」なの? 「6」がどうして「楽園」なの? といったふうに。「5」を図形にすると、下の図のように五芒星、ペンタグラムの形になる。人間の姿に見えてきませんか? 「6」は「△」と「▽」を組み合わせた六芒星、ヘキサグラム。上向するエネルギーである「△」=「火」と下向するエネルギーである「▽」=「水」が組み合わさった状態を示している。「火」と「水」が調和して安定しているから「楽園」なのである。ついでに言うと「五芒星」を逆さまにすると、「サタンの顔」にも見えてくる。カードナンバー15、大アルカナの「悪魔」のカードには、「逆さ五芒星」がしっかり描き込まれていたりする。

「奇数」=「アクティブで男性的」、「偶数」=「安定感があって女性的」という原則にも従って、それらの幾何学的なイメージを組み合わせて生まれてくる「数の意味」。ここに「占星術」や「ヘブライ文字」などの要素が組み合わさってくると、さらに複雑で難解なものになっていくが、基本はこんな感じだ。「じゃあ、2ケタの数字はどうやって解釈するの?」。そんな疑問には次回でお答えしよう。

(美術展ナビ取材班)

「ライダー版」の悪魔には、逆さまになった五芒星が描かれている


【愚者の旅―The Art of Tarot】タロットって何?

14世紀から15世紀にかけてヨーロッパで原型が作られたタロットは、18世紀から19世紀にかけて占いのツールとして使われるようになり、19世紀から20世紀にかけて神秘主義と結びついた。タロットカードに描かれる絵は寓意と暗喩に満ち、奥深く幅広い解釈が出来るようになったのである。数多くの画家たちが腕を競ったカードの数々は、まさにテーブルの上の小さなアート。タロット研究家で図案作家のイズモアリタさんをナビゲーターに、東京タロット美術館(東京・浅草橋)の協力で進めるこの企画は、タロットのキーパーソン「愚者」の「旅」にスポットを当てながら、カードに描かれている絵の秘密を解き明かしていく。