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【展覧会の裏側】ゴッホの《ひまわり》が撮影・SNS発信OKに 経緯と狙いをSOMPO美術館長に聞く

ゴッホの《ひまわり》とSOMPO美術館の梅本武文館長

SOMPO美術館(東京・西新宿)で常設展示されているゴッホの《ひまわり》。実は昨年(2021年)8月から来館者による本作の写真撮影が解禁され、SNSでの発信もOKになったことをご存知でしょうか。このSNS解禁を推し進めてきたのが、昨年6月に着任した梅本武文館長です、損保ジャパンで要職を歴任し、損保業界の最前線でバリバリのビジネスパーソンとして活躍されてきた梅本館長に、この取り組みの背景を聞きました。

SOMPO美術館の《ひまわり》は日本と世界の宝

——損保ジャパンの前身のひとつである安田火災海上保険がゴッホの《ひまわり》を購入したのは昭和62年(1987年)のことですが、この作品はSOMPO美術館やSOMPOグループにとってどんな価値を持つ存在なのでしょうか。

梅本「安田火災海上保険が《ひまわり》を購入したのは、当時の後藤康男社長がその時迎えた創業100周年事業の一環として海外の有名な絵を買おうという方針を立てたことがきっかけでした。実は私が安田火災海上保険に入社したのもその100周年にあたる年で、内定をもらった頃からマスコミを中心にものすごく騒がれていたことを思い出します。日本の企業が世界的名画を買ったということで、もちろん好意的な声もあれば、53億円の買い物に“バブル景気の象徴”だと揶揄する声もありましたね」

《ひまわり》1888年 フィンセント・ファン・ゴッホ

——これだけの名画だけに鑑賞に訪れる人が絶えません。

梅本「そうですね。私もここに来て美術関係の方々とお話しする機会が増えて、その中で『これはSOMPO美術館だけではなく日本と世界の宝ですね』などと言われることがよくあります。一方で、当館では教育普及の一環として新宿区内の小中学生を対象にした対話による美術鑑賞という場を設けており、そこで授業の様子を見ていると『これは本物ですか?』と声をかけられるなど、幅広い方々に認知されている凄さを改めて肌で感じさせられます」

《ひまわり》の撮影とSNSでの発信を解禁

——昨年8月から《ひまわり》の撮影を自由にし、さらに来館者のSNS発信も許可しましたね。

梅本「実はおととし(2020年)に新館開館記念展を行った際に一時期だけ撮影をOKにしていました。私が館長に就任した時にその時の評判が良かったという話を聞いて、撮影を許可する方向に動き始めました。やはりお客様に喜んでいただきたいというのが一番にありましたが、展示を始めてから30年以上が経つ中で、ここに《ひまわり》がある認知度が少しずつ下がってきているような気がしていて、新しいPR方法を考えていたところでした」

——撮影やSNS発信を認める上で大変なところは?

梅本「クリアしなければならないのは、著作権の保護期間と所蔵元の承認です。ただ《ひまわり》については作家の没後70年以上が経過して著作権がなくなっていますし、損保ジャパンが所蔵元なので比較的簡単に許可が降りました。一方で、当館では企画展の際には数点の作品を撮影OKにしていますが、所蔵元への確認が必要になります。その時は代理人を間に挟んでいたりすると確認に何か月もかかってしまうこともあります。許可が降りた時には既に展覧会が開幕しているなんてこともありうるので、そこは難しいところです」

《ひまわり》の展示に添えられた注意書き

「もうひとつ気にしなければならなかったのは鑑賞環境への影響でした。撮影を認めると、ひとつの作品の前に多くの人が立ち止まって通行の邪魔になったり、絵と一緒に撮影する人が集まって騒がしくなったりというケースが考えられます。そこで動画撮影の禁止、フラッシュや三脚の使用禁止、記念撮影禁止というルールだけは守っていただく形にしました」

ポストカードの売り上げは減ったが来場者とのコミュニケーションに変化も

——取り組みを始めてみて強く実感したのは?

梅本「現代のビジネス領域では、顧客の中にファンを育てて企業やブランドの推奨者になってもらう『マーケティング4.0』という概念が広がっており、それに近い形が美術館運営にもあてはまる時代が来ていると感じます。そう思ったきっかけは感染症対策の一環として始めたオンラインによる事前予約制でした。これまでの美術館というのは、ここまで来ていただき作品を見てもらうことがお客様との数少ない接点でした。そこにインターネットを組み合わせることで来場の前後にも接点ができますし、顧客満足度を上げるような取り組みもできます。具体的な効果のひとつとしてオンライン上に来場者アンケートをフォームを設けたところ、回答数が従来の紙のアンケートの4倍に増えました」

——SNSにはどのような反響が見られますか。

梅本「SNSに上げていただいたコメントは担当スタッフらと一緒に定期的に目を通しています。今はなかなか海外旅行もできませんから『旅行に行った気分が味わえた』『《ひまわり》を見て癒された』といった好意的な意見が多くいただけてとても嬉しいです。当館がTwitterやInstagramのアカウントを作ったのはおととしの春のことで、SNSを活用している美術館としてはかなり後発でしたが、今後の企画展を告知するつぶやきに期待のコメントをくださる方がいらっしゃったり、今までと違う交流が生まれてきています」

——《ひまわり》の撮影を許可したことでグッズの販売に影響は出ていませんか?

梅本「確かに《ひまわり》のポストカードについては販売数が減りました。ただ、我々としてはお客様に喜んでいただくことが第一ですし、これを通じてお客様からの推奨度が少しずつ上がることで長い目で見れば好循環が生まれると考えています。お客様を中心に添えた美術館経営という点においても当館の認知度向上という点においてもプラス効果がありますし、観賞後の感想を気軽にアップしていただけるのも大変ありがたいことです。欧米の美術館でも館内を撮影できるところは増えていて、この流れは止まらないような気がしています。まだ始めたばかりの取り組みではありますが、今後もますますSNS活用を進めていきたいです」

《ひまわり》の画像とともに感想をつぶやいて

誰もが知る名画と対面した感動を記憶の中だけでなく記録にも残し、親しい人とすぐに共有できる。それは美術ファンにとってこの上ない体験といえます。ぜひ皆さんもSOMPO美術館を訪れて、《ひまわり》の思い出をTwitterInstagramにつぶやいてみてください。(ライター・鈴木翔)

展覧会の裏側

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