【京のミュージアム #2】堂本印象美術館 絵とはちょっと違う原画の美しさ 特別企画展「包むを彩る ― ふろしきデザインの美 ―」 6月12日まで

京都在住のベテランライター、秋山公哉さんが古都やその周辺のステキなミュージアムを紹介する連載。第2回は堂本印象美術館です。とてもユニークな展覧会が開かれています。
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ふろしきの原画を紹介するという珍しい展覧会が、京都市の京都府立堂本印象美術館で開かれています。同市室町にある老舗ふろしき
特別企画展「包むを彩る ― ふろしきデザインの美 ―」 |
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会場:京都府立堂本印象美術館 (京都市) |
会期:2022年4月6日(水)~6月12日(日) |
開館時間:午前9時30分~午後5時(入館は午後4時30分まで) |
休館日:月曜日 ※5月2日(月)は開館 |
アクセス:京都市バス「立命館大学前」下車 |
入館料:一般510円、高校生400円、小中生200円、65歳以上、障がい者手帳をお持ちの方と同伴者1人無料 |
詳しくは堂本印象美術館ホームページへ |
昭和27(1952)年、京都の老舗店の新作披露の会である洛趣会に、堂本印象原画のふろしき4面が出品されます。ふろしき袱紗問屋である宮井株式会社の2代目、宮井傳之助社長が依頼したものでした。ふろしきの原画というのはコストの関係から色数を少なく、それでいてあるポイントに柄を出して包んだ時に華やかになるようになど、通常の絵画とは異なる技法が要求されます。また、日本画と異なりふろしきは正方形です。若い時に図案制作の仕事をしていた印象は、そうしたふろしきの原画に必要な技能を持っていました。以後、同社では多くの日本画家に原画を依頼するようになります。


堂本印象による最初のふろしきの原画。色数を少なくという制約に忠実に応えたのでしょうか、「春」や「冬」の色はほとんど黒です。「夏」も朝顔の黒っぽい茎の中で、赤と青の花が印象的です。「秋」ではやはり黒の葉の中で赤の葉が浮き上がって来ます。制約の中で華やかになるポイントをきっちりと押さえる技術を感じます。

同社が依頼した画家は池田遙邨、小野竹喬、福田平八郎、山口華楊など京都の画家にとどまらず、奥村土牛、東山魁夷、前田青邨といった東京の画家にも及びます。版画家の棟方志功も描いていたとは驚きです。でも、構図はいつもの絵とは違って、確かにふろしきで包んだ時のことを計算に入れたと感じられます。では、彼らの原画がふろしきとなった時は、どんな表情を見せてくれるのでしょうか。






東山魁夷「カーネーション」はこうしてふろしきにして包むと、花が見事に表に出てきます。青地に白い帯に囲まれた花が美しく映えます。小合友之助の白鷺も本を包んだふろしきの表で鶴が見事に翼を広げています。山口華楊の「萌春(わらび)」は原画とふろしきではまったく印象が違います。原画のわらびはかわいらしく見えるのですが、ふろしきのわらびは背後から光を受け葉の色も鮮やかに、自らの存在を主張しているようです。堂本印象の「夏 朝顔」の線で描いた葉と薄い青と赤の花は、すいかの丸みを包んで涼しげです。

これは年始の挨拶で特別に配られる卓布(テーブルクロス)の原画として、干支を題材に描かれた作品です。上村淳之は現代花鳥画の礎を築いた画家ですが、干支を描いた絵は花鳥を描いた日本画とはまた違った愛嬌のようなものを感じます。このコーナーには扇面の原画も。

堂本印象の「松」は一見カラフルに見えますが、使っている色数は多くありません。少ない色数でも多彩に見せる技です。著名な画家たちの日本画を描く時とはまた違った、肩の力が抜けたようなふろしき原画の数々。学芸員の松尾敦子さんは「原画にどういう絵を込めたか、それが正方形のふろしきになった時にどう現れるか、その工夫を見てほしい」と言います。


◆堂本印象美術館とは
大正から昭和にかけて京都で活躍した日本画家の堂本印象(1891=明治24~1975=昭和50年)が、自ら設立した美術館で1966(昭和41)年に開館。1991(平成3)年に建物と作品が京都府に寄贈され、翌年に京都府立堂本印象美術館として改めて開館した。外観から内装まですべて印象自らデザインしている。印象は京都生れで、当初は西陣織の図案描きをしていたが日本画家を志し、1919(大正8)年に初出展の「深草」で第1回帝展に入選した。以後京都画壇で活躍し、京都市立絵画専門学校の教授を務めるなど多くの後進を育てた。戦後、抽象表現や障壁画にも世界を広げ国際的にも活躍した。
★ ちょっと一休み ★
展覧会からの帰りに寄ったのは歩いて10分ほど、美術館の人たちお勧めのフルーツパーラー「クリケット」(http://www.cricket-jelly.com/)。ここのゼリーが絶品という。グレープフルーツ、オレンジ、レモンの3種類に季節限定の甘夏(4~6月)、柚子(11~12月)、三宝柑(2~3月)がある。果物本来の味わいを楽しんでほしいと、ゼラチンをできるだけ少なくしたという。果物を丸ごとくり抜いて容器にしてあり、ふたの果汁を絞って食べる。口の中でとろける食感は確かに「絶品」。お好みで軽くリキュールをかけるのもいい。お値段はいずれも800円。
(ライター・秋山公哉)
秋山公哉:1957年生まれ。読売新聞編集局編成部、読売プラス編成本部などを経て、読売新聞事業局で「美術展ナビ」を担当。2022年からフリーのライターに。