【探訪】景勝の地・嵐山で花を愛でる――嵯峨嵐山文華館で開催中の企画展「花ごよみ―横山大観・菱田春草らが咲きほこる―」を見る

嵐山は歴史と景勝の地である。天龍寺、大覚寺、化野念仏寺など数多くの寺社仏閣が控えるこの土地は、平安時代に皇族、貴族の別荘地となって以来、豊かな山水の風景で数多くの旅人を迎え入れてきた。春には桜、秋には紅葉。四季折々の彩り。今も観光の中心となっている渡月橋のすぐ近くにあるのが、この嵯峨嵐山文華館である。

2018年にオープンした同館の前身は「小倉百人一首殿堂 時雨殿」。百人一首専門ミュージアムだった「時雨殿」のコンセプトを受け継いで、かるたのコレクションや歌仙人形などの常設展示で百人一首の歴史や魅力を紹介するとともに、中世から近世を中心にした日本画の粋伝えることを目的としている。年に4回ペースで企画展も実施しており、今年の企画展は、1~4月に開かれた「絵でみる百人一首と枕草子」に続くものとなる。

今回の企画展「花ごよみ」は横山大観、菱田春草、速水御舟ら近代日本画の巨匠たちの手による四季の風景や花々を集めたものだ。展示室に入ってまず眼に入るのが、加山又造の四曲一隻の屏風《おぼろ》。満月の夜、咲き誇るしだれ桜。ゴージャスで幻想的な作品だ。打って変わって緻密なタッチで水仙を柔らかく描くのが速水御舟の《残雪図》。代表作《炎舞》の幻想的なタッチとはまた違った雰囲気である。


色鮮やかで生命力に満ちている横山大観の《桃》、日常の風景をさりげなく切り取った伊藤小坡《観菊》。《観菊》は菊を見ている女性の涼しげな表情が記憶に残る。花に鳥や虫を絡めた、いかにも日本画らしい作品も数多い。菱田春草の《春庭》。暖色に包まれた平和で安定した風景。のどかな春の匂いが漂ってくる。


嵯峨嵐山文華館の「名物」は、2階、120畳もある「畳ギャラリー」。広々とした、いかにも「和」の空間だ。ここでの見ものは、竹内栖鳳、横山大観、川合玉堂の3巨匠が競作した《雪月花》だろう。菱田春草の《夏の朝/冬の夕》は、対照的な季節を描いた一対の軸で、その対比が眼に鮮やか。春の嵐山の緑豊かな風景を一幅の軸に仕立てたのが、冨田渓仙《嵐山春酣図》だ。

5月の嵐山は暑からず寒からず。行楽にはもってこいの気候だろう。筆者が訪れた4月下旬には、修学旅行らしい学生たちの姿も目立ち、天龍寺から渡月橋にかけては明るく華やかな賑わいを見せていた。山の緑、川の流れを楽しんだ後に、巨匠たちが描いた四季の移ろいを楽しむ。この季節、それもまた、風流ではないか、と思ったりもするのである。
(事業局専門委員 田中聡)

企画展「花ごよみ―横山大観・菱田春草らが咲きほこる―」 |
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会場:嵯峨嵐山文華館(京都府京都市右京区嵯峨天龍寺芒ノ馬場11) |
会期:2022年4月23日(土)~7月3日(日) |
休館日:火曜日、ゴールデンウィークは休まず開館し、5月10、11日が休館 |
アクセス:JR山陰線嵯峨嵐山駅から徒歩14分、阪急嵐山線嵐山駅から徒歩13分、京福電鉄嵐山駅から徒歩5分 |
入館料:一般・大学生900円、高校生500円、小・中学生300円、障害者と介添え人1人500円、幼児無料。 |
詳しくは※最新情報は、同館HP(https://www.samac.jp/)で確認を。 |