【愚者の旅―The Art of Tarot】第6回 「皇帝 The Emperor」 権力、秩序、安定・・・・・・威厳と自信に満ちあふれたリーダー

「マルセイユ版」の皇帝

「魔術師」「女教皇」「女帝」と人生経験を積んできた「愚者」は「皇帝 The Emperor」にたどり着いた。秩序と権力を手中に収め、威厳と自信に満ちあふれているリーダー的な存在だ。「女帝」が「母性」の象徴だとすれば、「皇帝」は「父性」の象徴。「自然の豊かさ」を「女帝」が表しているとするならば、「皇帝」は「世俗の権力」を示す。いずれにしても両者のカードを並べてみると、色々と面白いことが見えてくる。

「ライダー版」の皇帝

両者の比較がしやすいように、最初のカードをマルセイユ版でそろえてみた。まず気がつくのは、視線の違いである。少し右を向いている「女王」と思い切り左を向いている「皇帝」。両者の見ているものは何なのだろうか。「母性」と「父性」をそれぞれ届けようとしている先に、人間世界があるようにも感じられるのだ。さらに言えば「女帝」が左手側に持っている盾、「皇帝」の右側に置かれている盾、双方にワシの絵が描かれている。これもそれぞれがお互いの視線が交差するように右、左を向いている。「女帝のワシはオス、皇帝のワシはメス、と言われています」と本企画ナビゲーターのイズモアリタさん。女帝が錫杖を持てば、皇帝も宝珠の付いた杖を持つ。権威と品格がありそうな冠をかぶる女帝に対し、皇帝は兜をかぶって武力を強調しているようだ。様々なペアが、この2枚のカードでは出来ている。トート版では、「女帝」のカードを青基調、「皇帝」のカードを赤基調で作っており、さらに対称性を強調しているようだ。

「マザーピース・タロット」の皇帝

「考えてみれば」とアリタさんはいう。「本来『男性的』な奇数のⅢが『女帝』で、『女性的』な偶数のⅣが『皇帝』なんです。先ほどのワシも含め、このふたつのカードでは、『男性』と『女性』のイメージが意識的に混交されているようにも思えるんです」。男性性と女性性の混交。それが暗示するのはどういうことなのか。男性の中にも女性的な要素があり、女性にだって男性的な要素がある。それが人間なのだ、という哲学的な考察なのか。それともフランスの文豪、オノレ・ド・バルザックの小説『セラフィタ』に登場する男と女、両方の性を持つ“男装の麗人”セラフィタのような、アンドロギュノス(両性具有者)的なトリックスターなのか。フェミニズムの影響が強いマザーピース・タロットの皇帝には乳房の膨らみがあり、カードに秘められた女性性を強調しているように見える。

「トート版」の皇帝

ただひとつ、「皇帝」にあって「女帝」にないのは、足を組んでいるというポーズだ。両足の形は「4」の数字のようにも見える、特に「トート版」では。「古代ギリシャでは、世界は火・風・水・土の四大元素で構成される、と考えられていました。世界を旅するときに指標となるのは、東西南北の方角ですし、1年の間には春夏秋冬の四季がある。4という数字は、世界全体の秩序を示しているとも考えられるのです」とアリタさんは話す。「皇帝」が組んだ脚は、キリストが架けられた十字架のようでもあり、木星の惑星記号(♃)のようでもある。天動説では太陽系の4番目の惑星となる木星(地球はカウントされないので)の英語名はジュピター、ギリシャ・ローマ神話の最高神だ。「ヴィスコンティ版」の皇帝はご丁寧にも4人の従者(?)を従えており、「世界の覇者」というイメージを倍加させている。

「ダリ版」の皇帝

「グレートマザー」である「女帝」がともすれば、「過保護な教育ママ」や「鬼子母神」になるおそれがあるように、「大いなる指導者」である「皇帝」にもマイナスな面がある。「権力、地位を意識するあまり、独裁者になってしまう危険性は秘めていますね」とアリタさん。あまりにも「皇帝」に力が集中してしまうため、「選ばれし者の孤独」に陥る可能性もある。秩序を守り、世界を導く力を持った存在だからこそ、弱者を虐待するような行為、偏狭な価値観から来る専横的な行為は慎まなければならないのである。

「ヴィスコンティ版」の皇帝

ライダー版の皇帝が持っている杖は「アンク」といい、生命の象徴とされている。黄道十二宮の中では、「牡羊座」に紐付けられる「皇帝」のカード。雄々しい生命力と強い指導力を持ち、それはそれは立派な大人に「愚者」も育ったものだと思わせる。さて、人間として成長した「愚者」は、次にどこへと向かうのだろうか。

(美術展ナビ取材班)

「皇帝」のカードのいろいろ。左上端は「1JJスイス・タロット」

【愚者の旅―The Art of Tarot】タロットって何?

14世紀から15世紀にかけてヨーロッパで原型が作られたタロットは、18世紀から19世紀にかけて占いのツールとして使われるようになり、19世紀から20世紀にかけて神秘主義と結びついた。タロットカードに描かれる絵は寓意と暗喩に満ち、奥深く幅広い解釈が出来るようになったのである。数多くの画家たちが腕を競ったカードの数々は、まさにテーブルの上の小さなアート。タロット研究家で図案作家のイズモアリタさんをナビゲーターに、東京タロット美術館(東京・浅草橋)の協力で進めるこの企画は、タロットのキーパーソン「愚者」の「旅」にスポットを当てながら、カードに描かれている絵の秘密を解き明かしていく。

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