【愚者の旅―The Art of Tarot】第4回〈番外編①〉 バリエーション豊かなタロットカード。なぜそんなに種類があるの? どこに違いがあるの?

ヴィスコンティ版のタロットカード

タロットの秘密をその絵から解き明かしていく「愚者の旅」。これまでの旅を通じて、その奥深さが少しずつお分かかりになっていただけたのではないだろうか。奥深さと同時に、様々な疑問を持たれるようになった方も多いかも。「番外編」では旅を一休みして、「よくある疑問」に答えていくことにしよう。

一番多そうな「疑問」は、「どうしてタロットはこんなに多くの絵柄があるの」。確かに東京タロット美術館のコレクションだけで、カードデッキは約3000種類ある。でも、よく見ると、全部が全部、まったく違った絵柄で構成されているわけではない。「大別すると、4系列ぐらいに分けられます」というのは、本企画のナビゲーター・イズモアリタさんだ。「おおざっぱに言うと、①ヴィスコンティ版②マルセイユ版③ゴールデン・ドーンの系譜④20世紀後半に派生したニューエイジ系のカード、という感じでしょうか」。では、この4系列にはどんな特徴があり、どんな違いがあるのだろう。

マルセイユ版のタロットカード

まず①の「ヴィスコンティ版」。このデッキの基になっているのは、1415世紀のイタリアで作られたカードだ。現存する最古のタロット「ヴィスコンティ・スフォルツァ版」はミラノ侯爵フィリッポ・マリア・ヴィスコンティとその後継者だったフランチェスコ・スフォルツァが画家のボニファキオ・ベンボに依頼したものだといわれている。「この時代、貴族社会では、日常生活での教訓や宗教的な説話などを絵にすることが流行っていたんですね。タロットカードにも、そういう側面があるのでしょう」とアリタさん。貴族社会で流行したカードを下敷きにしたものだけに、ルネサンス期の絵画らしい細密で色鮮やかなカードになっている。

ライダー版のタロットカード

貴族社会で原型が作られたタロットは、16世紀から17世紀にかけて、庶民の間に広がっていった。カード賭博の道具になったり占いに使われたり、カードの利用法の幅も広がっていたようだ。「ヴィスコンティ版」の絵柄に様々な民間伝承の要素が加わって、17世紀のフランスで成立したのが、②の「マルセイユ版」。庶民のカードらしく木版印刷で作られたので、その流れを汲むタロットは、木版画っぽい絵になっているのが特徴だ。また18世紀、「タロットに描かれる女教皇や教皇は、教会の権威を冒涜するものだ」とされたため、「教皇」をギリシャ神話の「バッカス」などに置き換えるカードもこの時代に生まれている。

ゴールデン・ドーン・タロットのカード

19世紀に入ると、神秘主義とタロットの関係が深くなる。フランスのオカルティスト、エリファス・レヴィが「タロットの札構成は、ユダヤの神秘思想カバラの教義に基づいている」という可能性を提唱し、さらにイギリスの魔術結社「ゴールデン・ドーン(黄金の夜明け団)」が占星術や様々な神話にも対応させた象徴体系を確立させる。そのゴールデン・ドーンの「秘密指令書」に基づいて作成されたのが「ゴールデン・ドーン・タロット」。そこから、さらに重要なタロットカードが2種類生まれる。

トート版のタロットカード

ゴールデン・ドーンのメンバーだった神秘主義の研究者、A・E・ウェイト博士が同じ結社員だった女性画家、パメラ・コールマン・スミスに作画を依頼したのが、「ライダー版」。2人の名前を取って、「ウェイト=スミス版」ともいう。20世紀初頭にライダー社から発売されたこのカードは世界中に広がり、20世紀のタロットカードのスタンダードになった。その思想を“超訳”した「ドリーミング・ウェイ・タロット」など、そこから派生したカードも多く、「ライダー版」の系譜は21世紀の今も続いている。

さらに、ゴールデン・ドーンの「問題児」といわれたアレイスター・クロウリーが「トート版」を発表する。「20世紀最大の黒魔術師」と自称したクロウリーが画家のレディ・フリーダ・ハリスに絵を描かせたこのタロットは、まず1944年にクロウリーが自らのタロット解釈を書いた『トートの書』の挿絵として発表され、クロウリーの死後、ヒッピームーブメント華やかな1969年にカード化された。ゴールデン・ドーンの思想を下敷きにクロウリーの思想をふんだんに盛り込んだ独特の内容、ラジカルかつ過激な絵柄で、1970年代以降の若者、特にロックミュージシャンたちに大きな影響を与えている。レッド・ツェッペリンのジミー・ペイジ、ブラックサバスのオジー・オズボーンらがこのカードの愛好者だ。

マザーピース・タロットのカード

そして20世紀後半、カウンター・カルチャーの時代を経て、タロットを解釈する思想はもう一段階広がっていく。ユング心理学の「元型」、フェミニズム、自然との共存、ニューエイジ・ムーブメント・・・・・・。④の「20世紀後半に派生したカード」は、「東洋哲学やネイティブアメリカンのグレートスピリットのような諸地域のフォークロアと紐づいたトランスパーソナルやニューエイジ思想に着想を得ており、英仏で培われてきたオカルティズムとは一線を画す感じがあります」とアリタさん。フェミニズムの影響を如実に表しているのが1980年代に発売された「マザーピース・タロット」。英国の「神託のタロット」はユング心理学に基づくカードとして知られる。禅の思想を持ち込んだのが、「和尚禅タロット」だ。また、タロットの持つ奥深いイメージに触発されて自ら作画するアーティストも多くなってきた。サルバドール・ダリのデザインのカードデッキは世界的に有名だ。日本でも、漫画家の魔夜峰央さんらがカードを描いている。

「それぞれのカードによって絵柄に異動があり、それによって解釈も変わって来ます」とアリタさん。「その背景にはタロットの歩んできた歴史があり、それは21世紀の今も刻々と動き続けているものなのです」とも。だからこそ、タロットカードには様々な絵柄があるのである。(美術展ナビ取材班)

【愚者の旅―The Art of Tarot】タロットって何?

14世紀から15世紀にかけてヨーロッパで原型が作られたタロットは、18世紀から19世紀にかけて占いのツールとして使われるようになり、19世紀から20世紀にかけて神秘主義と結びついた。タロットカードに描かれる絵は寓意と暗喩に満ち、奥深く幅広い解釈が出来るようになったのである。数多くの画家たちが腕を競ったカードの数々は、まさにテーブルの上の小さなアート。タロット研究家で図案作家のイズモアリタさんをナビゲーターに、東京タロット美術館(東京・浅草橋)の協力で進めるこの企画は、タロットのキーパーソン「愚者」の「旅」にスポットを当てながら、カードに描かれている絵の秘密を解き明かしていく。

直前の記事

鮫島圭代の「この名画を見に、ミュージアムへ! vol.01」 THE GREATS展

美術ライター・翻訳家で、水墨画家として自ら筆も取る鮫島圭代さんが、折々の注目展覧会の「これを見てほしい!」という作品について、詳しく鑑賞のポイントを解説してくれる企画が始まりました。第1回目は、東京都美術館で4月22日か

続きを読む
新着情報一覧へ戻る