【アンナさんのイタリア通信 ♯5】ミラノの街を彩る川俣正の“鳥の巣” 「Tadashi Kawamata. Nests in Milan」展

春を迎えたミラノは今、幾つかの不思議な”鳥の巣”が街を彩り、市民の目を楽しませています。世界的に活躍するアーティスト、川俣正(1953年、北海道生まれ)による木製のユニークなインスタレーションです。このイベントの主催者であるアートギャラリーBUILDINGの内部とファサード、および近隣の建物の外部に、一連のインスタレーションを構想しました。



川俣は東京藝術大学を卒業後、1982年にヴェネチア・ビエンナーレの日本館に参加しました。建築や都市計画、歴史学や社会学、あるいは日常のコミュニケーションまで及ぶ分野とかかわり、2005 年には、横浜トリエンナーレの総合ディレクターを務めました。世界各地で、作品の置かれた場所や環境の特性を生かしたサイトスペシフィックなプロジェクトを手がけており、高い評価を獲得し続けています。



主に木材を使った川俣の作品は、自然や素材への強い敬意を反映しているだけでなく、社会的な背景や人間関係への深い考察を誘います。作品の原点は、建築現場や解体工事といった都市的な課題であり、そこから素材を持ち出してリサイクルし、インスタレーションに利用することです。彼のインスタレーションは、元々抽象的な形態が多かっのですが、1998年以降、視覚的に小屋、そして巣を表現するようになりました。生まれたばかりの小鳥が巣に避難するように、人工的な建築物の上に置かれた川俣の巣は、安らぎを与えてくれます。シェルターと安全な空間という共通のニーズを人間の心に蘇らせるのです。


「Nests in Milan」では、都市空間、建築、アートの間に成立する対話を再び試みています。偶然そこにあるかのような彼の巣は、自然に都市空間に溶け込みますが、実は複雑な芸術的言語の結果として現れるのです。巣はそこにあるまま、私たちを取り囲む空間との関係を再考するよう促しているのです。


川俣にとって「制作過程そのもの」が作品です。そのため、アシスタントや学生、職人、あるいはボランティアや一般市民など、さまざまな立場の人たちと制作を共有することは重要です。

川俣の他のインスタレーション作品と同様、「Nests in Milan」も展示終了後は解体され、その際に使用された木材の部材が新たな作品に使用される予定です。
またミラノのADIデザインミュージアムとのコラボレーションにより、来年秋にはミュージアム入口前に設置されるサイトスペシフィック・アートの新作を制作します。今後の活躍が一層、楽しみです。
「Tadashi Kawamata. Nests in Milan」展 |
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監修 ソルダイニ アントネッラ (Antonella SOLDAINI) |
会期:2022年3月31日〜7月23日 |
会場:BUILDING ギャラリー 、via Monte di Pietà 23, 20121 Milano 火曜日から土曜日まで、 10.00-19.00CORTILE DELLA MAGNOLIA, PALAZZO DI BRERA、via Brera 28 Milano CENTRO CONGRESSI FONDAZIONE CARIPLO、via Monte di Pietà 10 Milano/ angolo via G.D. Romagnosi GRAND HOTEL ET DE MILAN、via Monte di Pietà 24 Milano/ angolo via Croce Rossa ADI DESIGN MUSEUM、piazza Compasso d’Oro 1 Milano |
アンナラウラ ヴァリトゥッティ(Annalaura VALITUTTI)さん
1975年、イタリアのサレルノ生まれ。ナポリ東洋大学で日本語日本文学を専攻し、「遠野物語」及び「オシラサマ」を専門とする。仕事で数年間日本に滞在し、2011年には東京の慶應義塾大学に留学する。日本芸術や民俗学について特別な関心を持ち、ローマで読売新聞の美術展のコーディネーターやアートアドバイサーとして活躍している。
(読売新聞美術展ナビ編集班)