【愚者の旅―The Art of Tarot】第3回 「女教皇 The High Priestess」 清純で聡明なうら若き乙女。手に持ったトーラーに書かれているのは・・・・・・

「ドリーミング・ウェイ・タロット」の女教皇

22枚の大アルカナで表現される「愚者の旅」。無垢な存在だった「愚者」が地上に降りた時の最初の姿が「魔術師」だった。ここで彼(彼女?)が手に入れたのは「技術」。では、次に経験したことは何なのか。そこで登場するのが、「女教皇 The Highest Priestess」である。このカードもまた、不思議な存在だ。カトリックの歴史上、「教皇」になった「女性」はいないからである。では、その「存在しなかった」女性を、なぜ絵柄にしたのだろう。そこに「女教皇」のナゾを解くカギはありそうだ。

「ライダー版」の女教皇

もちろん、カトリックの歴史の中で、「聖女」はたくさんいる。京都の聖アグネス教会に名前を残している聖アグネスもそうだし、あのジャンヌ・ダルクもそうだ。そんな聖女たちの中で最も「女教皇」とイメージが重なるのは、12世紀、神聖ローマ帝国で尊敬を集めた「ヒンゲンの聖ヒルデガルト」ことヒルデガルト・フォン・ビンゲン(10981179)だろうか。ドイツ薬草学の祖ともいわれるこの女性は、40歳の時に幻視体験をし、「女預言者」と見なされた。その体験を記した書物や絵に加え、宗教的な戯曲を書き、それを彩る音楽を作詞作曲した。「中世ヨーロッパ最大の賢女」とも呼ばれる女性である。

「マルセイユ版」の女教皇

「預言者」であり、「知識」を持つ者であり、「アーティスト」の側面も持つ「女性」。その手には「トーラー(TORAH)」という巻物を持っている。「タロット」の古い呼び名「タロー(TAROH)」の文字を並べ替えて出来る言葉、つまり「アナグラム」になっている「トーラー」とは、旧約聖書の最初の5書である「モーセ五書」のことだ。なぜ彼女はそれを持っているのか。それは、神から知恵を授かったという意味とともに、その書物にはタロットの秘密が記されている、ということを指しているのかもしれない。彼女は、その書物に書かれた「知恵」やそれが生み出す「直感」を世界に伝えることを託された者なのだろうか。そう考えると、巫女のイメージも「女教皇」には加わる。

「ヴィスコンティ版」の女教皇

1番目のカードだった「魔術師」とは好一対だ。「男性」と「女性」、「技」と「知恵」、「いかがわしさ」と「敬虔さ」。ユダヤ教の神秘学「カバラ」から流れる西洋の「数秘学」の伝統には、奇数はアクティブで行動的な、偶数には受動的でパッシブなイメージがある。「ドリーミング・ウェイでもライダー版でも、『女教皇』には月が描かれているでしょう。そこからも、受動的なイメージが漂ってきます」と、本シリーズのナビゲーター・イズモアリタさんは説明する。ライダー版では、彼女の後ろのタペストリーに、男性性を象徴するシュロと女性性の象徴のザクロが意匠化されている。「女教皇」という歴史上はいなかった存在に託された「男性性」と「女性性」。「愚者の旅」は、その双方を経験してこそ意味があるのだろう。

〈「ゴールデン・タロット」の女教皇〉

逆に「魔術師」と「女教皇」で共通するのは、「若い」という要素だ。ポジティブに考えれば、そこに「将来性がある」のだが、マイナスに取れば「未成熟」であり、「経験不足」。「だから、『女教皇』には神経質で厳しくて、思い込みが強いという要素もあります」とアリタさん。クレバーだけどちょっと冷たく見える。潔癖でちょっと近寄りがたい。自分が信じる真理を人々に伝えるため、ストイックに振る舞っている。「20世紀中盤、若くして亡くなったフランス人哲学者、シモーヌ・ヴェイユの雰囲気もありますね」とアリタさんは続ける。

「トート版」の女教皇

「技術」と「知恵」「直感」を学んだ「愚者」。

まだまだ習熟度は足りないし、歩き始めてもいない。「魔術師」と「女教皇」のカードをセットで見ると、そんな寓意が伝わってくる。とはいえ、「無垢なる存在」だった「愚者」は、この世界で着実に経験を積んでいるようだ。その経験は何を生み出すのだろうか。それは次のカードへの「お楽しみ」に致しましょう。

(美術展ナビ取材班)

「女教皇」のカードのいろいろ。右下2枚目はサルバドール・ダリのデザイン


【愚者の旅―The Art of Tarot】タロットって何?

14世紀から15世紀にかけてヨーロッパで原型が作られたタロットは、18世紀から19世紀にかけて占いのツールとして使われるようになり、19世紀から20世紀にかけて神秘主義と結びついた。タロットカードに描かれる絵は寓意と暗喩に満ち、奥深く幅広い解釈が出来るようになったのである。数多くの画家たちが腕を競ったカードの数々は、まさにテーブルの上の小さなアート。タロット研究家で図案作家のイズモアリタさんをナビゲーターに、東京タロット美術館(東京・浅草橋)の協力で進めるこの企画は、タロットのキーパーソン「愚者」の「旅」にスポットを当てながら、カードに描かれている絵の秘密を解き明かしていく。

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78枚あるタロットカードのうち、華麗な22枚の絵札で構成される「大アルカナ」。これ全体が「ナンバー0」である「愚者」の「旅」と解釈できるというのが、この連載を貫く物語だ。では、世界の理(ことわり)の外からやってきた「愚者

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