【愚者の旅―The Art of Tarot】第2回 「魔術師 The Magician」 地上に降り立って、最初に就いた職業は・・・・・・経験不足だけど未知の魅力がたっぷり

「マルセイユ版」の魔術師

78枚あるタロットカードのうち、華麗な22枚の絵札で構成される「大アルカナ」。これ全体が「ナンバー0」である「愚者」の「旅」と解釈できるというのが、この連載を貫く物語だ。では、世界のことわりの外からやってきた「愚者」が地上に降りた時、まずはどんな姿に身を包んだのか。「何者でもない存在」は世界で最初に何を見せたのか。タロットが指し示すのは、「ナンバー1」のカード、「魔術師=Magician」である。

どこからかやって来た若者が街角に三本脚のテーブルを置き、何やら道具を使って行き交う人に不思議な技を見せている。「ふつうの人々」にとっては見たこともないような技術の数々。だけどそれは、どこかいかがわしく人を欺そうとしているようにも見える・・・・・・。マルセイユ版から連想されるそんなイメージが、「魔術師」の解釈の基本といっていいだろう。「大道芸人とか露天商とか、そういう感じがするんですよ。どこからか来て、どこかへ去って行く、折口信夫さんのいう『マレビト』的なイメージもありますね」と本連載ナビゲーターのイズモアリタさんも話す。

「マザーピース・タロット」の魔術師

「何者でもない存在」が「地上に舞い降りた」。そんな文脈から導き出されるのが、「魔術師」とは「この世界」と「あの世界」をつなぐ「シャーマン」というイメージだ。それが強く打ち出されているのが、マザーピース版。ヒョウ柄の上下を着た若者(女性?)は、まるでミック・ジャガーのよう。「獣の世界」と「人間の世界」を行ったり来たりしているようである。赤、茶、グリーン、ゴールド、背景の4色は、火、土、水、風の四大元素を象徴しているみたい。ライダー版の「魔術師」の頭の上には、無限大のマーク。「1=∞」とは何なのか。ゼロの次に来る∞に何の意味があるのか。そんなことを考えていると、マルセイユ版の「魔術師」のかぶっている帽子も、無限大のマークのように見えてくる。

「ライダー版」の魔術師

「トート版」に至っては、何を考えているのか分からない、この世の者でもあの世の者でもなさそうなトリッキーな若者だ。未知なるものとこの世界をつなぐ「魔術師=Magician」、それは何だか得体がしれないし、何となく「お調子者」ではないか、とも思ってしまうのである。占いで使われる際、「魔術師」のカードは、「発端」「若さ」「創造性」「才能(技術)がある」というプラスの意味とともに、「まやかし」「未熟」「こざかしい」「思慮が浅い」というマイナスの要素も含んでいるのだが、さもありなん、という感じである。

「トート版」の魔術師

そういう「魔術師」がテーブルの上に並べているのは何なのだろう。それがよく分かるのがヴィスコンティ版だ。左から並べられているのは、火を象徴する棒、風を意味するナイフ、水を入れておく聖杯、土を想起させる金貨。そう、それは、世界を構成する四大元素の象徴であり、56枚の数札である「小アルカナ」のマークそのもの。つまり、世界を操る技術を「魔術師」が「知っている」ことを示唆しているように見える。ただ、そこには「魔術師」は「道具」を使わないとそれを表すことができない、という意味合いもあるようで、だからこそ彼は「自力ではまだ世界の真理には達していない」未熟者という解釈もできるのである。

「ヴィスコンティ版」の魔術師

では、その道具はどこから来たのか――。「それらは『愚者』が持っていた袋の中にあった、と言う解釈もあるんですよ」とアリタさんはいう。なるほど、それなら「タロット・デ・パリ」の絵の下の方にいるイヌも、「愚者」のお供だったヤツなのかな。このカードの「魔術師」は袋の中から出てきた道具の使い方を色々と試しているようにも見える。「愚者」のカードと「魔術師」はやはり0と1の関係、奥の方ではでつながっているのかも。

「タロット・デ・パリ」の魔術師

前回の「ゴールデン・ドーン版」の「愚者」を思い出していただきたい。旧約聖書のアダムとイブの物語のような「楽園」にいた「愚者」は、知恵の実なのか生命の実なのか、何か分からない木の実を食べようとしていた。その結果、彼は「楽園」から「この卑しき地上」へと旅に出ることになったわけである。ただし、「無垢な者」だった「愚者」は裸で放り出されたわけではない。世界を構成する「火・土・水・風」を扱う「道具」を持って、少しばかり準備が出来た状態でこの世界にやって来たのだ。そして彼は、街角でその技術を見せながら人々の間に溶け込もうとしている。そうしながら、自分の技術を磨いているのかもしれない。まだまだ未熟だし、少しお調子者のきらいはあるけれど、そうやって「愚者の旅」はスタートしたのだ――。まあ、ひとつの想像に過ぎないが、色々な絵を見ていると、そんな物語も浮かんで来るのである。

(美術展ナビ取材班)

「魔術師」のカードのいろいろ。左上は漫画家・魔夜峰央さんのデザイン

【愚者の旅―The Art of Tarot】タロットって何?

14世紀から15世紀にかけてヨーロッパで原型が作られたタロットは、18世紀から19世紀にかけて占いのツールとして使われるようになり、19世紀から20世紀にかけて神秘主義と結びついた。タロットカードに描かれる絵は寓意と暗喩に満ち、奥深く幅広い解釈が出来るようになったのである。数多くの画家たちが腕を競ったカードの数々は、まさにテーブルの上の小さなアート。タロット研究家で図案作家のイズモアリタさんをナビゲーターに、東京タロット美術館(東京・浅草橋)の協力で進めるこの企画は、タロットのキーパーソン「愚者」の「旅」にスポットを当てながら、カードに描かれている絵の秘密を解き明かしていく。

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