【アンナさんのイタリア通信 ♯3】コロナ禍でもにぎわうイタリアの展覧会3選 クーンズ、クリプト・アート、アマゾンの今

コロナ時代2回目のクリスマスとお正月が過ぎたところですが、イタリアでは感染者が急増し、陽性率は16%に達しています。イタリア各地域では、イベントやコンサートなど混雑予想するようなプログラムの見直しを迫られましたが、公立・私立の美術館は開館を続け、さまざまな文化活動が行われました。
クリスマスやお正月には、多くの美術館や博物館などが国民や観光客に展覧会などをに楽しんでもらうように特別開館を行いました。
コロナによる嵐にもかかわらず、新しい安全規制に従って、再び博物館や展示会にお客様が押し寄せました。イタリアで開催されたいくつかの現代美術の展示会は、このニューノーマル時代における文化的再出発を強く示唆しています。その中から、現在進行中の3つをピックアップしてご紹介します。
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見事な「華麗さ」の美学 クーンズ展
フィレンツェ、パラッツォ・ストロッツィ宮殿
「ジェフ・クーンズ:シャイン」展
フィレンツェのパラッツォ・ストロッツィ宮では、世界レベルで最も人気があり、現代美術において議論の的になっている人物の一人、アメリカ出身のジェフ・クーンズに捧げる展覧会を開催しています。 本展は、 アルトゥロ・ガランシーノ(Arturo GALANSINO)とヨアキム・ピサロ(Joachim PISSARRO) のキュレーションにより、1970年代半ばから今日に至るまで、国際的なアートシステムに革命をもたらしたクーンズの代表作を紹介するものです。
クーンズ自身の所有作品に加え、プライベートコレクションや海外の主な美術館からの借用品も展示されています。
本展作品は、SHINE(華麗さ)の美学に焦点をあてています。しかし、クーンズの「Shine」は物体が放つ「輝き」、反射、光という意味だけでなく、ドイツ語のScheinで表されるように「外観」というさらなる意味も含んでいるのです。
クーンズは、芸術がいかに直感的な体験であり、五感に訴えるものであるかを示しています。鏡面仕上げの鮮やかなステンレス作品と鮮やかな色彩は、気分を高揚させ、陶酔感を与え、現実感経験をより強く感じられます。
彫刻は、高級品だけでなく、インフレータブルトイやポップカルチャーのキャラクターも再現し、日用品を使って既製品のコンセプトを再発明しているのです。
マルセル・デュシャンやアンディ・ウォーホルから受けたインスピレーションをもとに、クーンズは多くの批判や論争を巻き起こす作品を生み出し、同時に並外れた成功を収めたのです。彼のアートはポップ、コンセプチュアル、ポストモダンを融合し、アート作品がいかに社会やコミュニティーの広いメタファーとして機能するかを示しています。



ステンレス鋼、 cm 104.1 x 48.3 x 30.5
シカゴ現代美術館、ステファン・T・エドリス&H・ゲール・ニーソン(一部寄付)© Jeff Koons
撮影: ©photoElaBialkowskaOKNOstudio

“The job of the artist is to make a gesture and really show people what their potential is. It’s not about the object, and it’s not about the image: it’s about the viewer. That’s where the art happens”.
Jeff Koons


“I am trying to capture the the individual desire in the object and to fix his or her aspirations in the surface, in a condition of immortality”.
Jeff Koons






撮影: Circuito Totale
“I think that when you leave the room, the art leaves the room.
Art is about your own possibilities as a human being. It’s about your own ex-citement, your own potential , and what you can become. It affirms your existence.”
Jeff Koons
© Kara Luhtanen e Beatrice Petazzoni per il progetto The Gazing Eye realizzato con Polimoda
「ジェフ・クーンズ:シャイン」展 |
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会場:イタリア、フィレンツェ、Palazzo Strozzi Piazza Strozzi 50123, Firenze |
会期:2022年1月30日まで |
時間:毎日10:00~20:00, 木曜日23:00まで |
詳しくはhttps://www.palazzostrozzi.org/en/archivio/exhibitions/jeff-koons-shine/ |
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最新のクリプトアートを体感 DART2121展
DART 2121
Crypto Art is Now!
「DART 2121 – Cripto art is Now」は、新しいタイプのデジタルアートであるクリプトアートを紹介しています。クリプトアートを美術館の実際の空間で鑑賞できるようにした、イタリアでは初めての展覧会です。
この展覧会は、ピエルジウリオ・ランツァ(Piergiulio LANZA)が構想し、建築家リッカルド・マンフリン(Riccardo MANFRIN)とともに実現したプロジェクト「DART|Dynamic Art Museum」のイニシアティブによるものです。アレッサンドロ・ブルネッロ(Alessandro BRUNELLO)、アラン・トネッティ(Alan TONETTI)、セレーナ・タバッキ (Serena TABACCHI) の3人の協力で生まれたNFT世界初のリアルライフのプロダクション「WRONG THEORY」と、DARTが共同でキュレーションを担当することとなりました。
クリプトアートのムーブメントは、ブロックチェーンとNFT(Non-Fungible Token)システムのおかげで、完全にデジタルな作品の制作、または物理的な作品のデジタル化を伴うすべての芸術形態を含み、作品自体の真正性を保証するための特定のデジタル情報を通じて作品の識別を可能にします。
この展覧会に選ばれたアーティストは、世界的なクリプト・アートのムーブメントの中心的な担い手です。このアーティストたちは、「貨幣」の機能を通じて、非物質化した作品をブロックチェーンに挿入することを可能にしたNFTのデジタルアートの販売に特化した最初の様々なプラットフォームの開設によって促進された革命の創造者です。
ミラノにある元のペルマネンテ美術館の建物の1階、1200平方メートルのスペースに、ブルーチップアーティスト(デジタルアートシーンで既に認知され、確立したアーティスト)やOGアーティスト(オールドガイの頭文字、NFT分野のパイオニア)を含む60人のアーティストの作品が中型スクリーンに映し出されています。このアーティストには、他のアーティストのNFT作品を収集・交換する傾向があるという特徴があります。
出品作品の中には、クリプトアートの先駆者の一人とされるパリのアーティスト、アロッタ・マネーの作品「1789」が展示されています。

NFTスーパーレアマーケットで2020年に25万ドル以上を売り上げたHACKATAO のHack of bear (クマの頭部)は、レオナルド・ダ・ヴィンチの傑作へのクリプトアートバージョンです。

Xcopyという作家は、歪んだ視覚的ループを通して、死、ディストピア、無気力をテーマとしたNFTを制作しています。「Congrats!」と題する作品で展示会に参加しました。
また、ノルウェー出身でロンドンで活動する具象画家、ヘンリック・ウルダレン(Henrik Uldalen)の作品の核心は、実存主義とメランコリーという概念を中心に展開されています。「Kindle 」と題した彼の作品は社会の変化に対する感情的な反応を見る者に引き起こすように考えられているのである。明らかにギリシャ・ローマの女性美の理想に触発されたある女性の身体が、古風なものとの親和性を象徴するように燃やされます。
Thomas Stokes III は、伝統的な絵画とデジタル絵画の両方のバックグラウンドを持ち、伝統的な絵画に生命を吹き込むために暗号アートに目をつけました。Anamnesis (アナムネシス)では、融合され断片化された顔が動き、見る者をじっと見つめます。
Six N. Fiveは、クリーンかつモダンな美学を持つ、静物やビデオを専門とする現代的なデザインスタジオです。Summer Morning (モーニングサマー)とThe Square (ザ・スクエア)の2つの作品は、静けさと調和を感じさせます。特に「Square」は、日本文化への明確なオマージュであり、デジタルキーでの瞑想の試みに成功したものです。
出展作家の中で見逃せなかったのはビープル(Beeple)です。毎日デジタル作品を制作・発表する「エブリデイ」運動の一環として、本展に「The Passion of the Elon 」(イーロンの受難)と題した作品で参加しました。
沢山のイタリア人作家も出展しています。





「DART 2121 Crypto art is Now」展の大きなメリットは、アーティストとそのコンテンツの間にコンタミネーションを起こしながら、これまで物理的に出会うことのなかったアーティストを結びつけることを主眼とし、この新しい芸術運動を定義し確立する最初の試みとなることです。さらに、展覧会カタログは、NFTに特化した初の編集製品であり、暗号芸術が美術史に参入したことを象徴しています。
本展は、すでに若い世代を魅了し、通常より伝統的な芸術に興味を持つ大人の観客に挑戦する、新しい芸術の形を確立するためのさらなる一歩となるものです。
Courtesy of DART | Dinamic Art Museum

「DART 2121 Crypto art is Now」展 |
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会場:イタリア、ミラノ、DART | Dynamic Art Museum Via Filippo Turati, 34, ミラノ、ペルマネンテ美術館内 |
会期:2022年2月6日まで |
時間:月曜日~金曜日 10:00~19:00、土曜日~日曜日 11:00~19:00(最終入場時間 午後6時) |
詳しくは https://www.dartmilano.com |
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アマゾンの熱帯雨林、そこに暮らす人々をリアルに
Sebastião Salgado
amazônia
「セバスチャン・サルガド。アマゾニア」と題した展覧会はアマゾンの熱帯雨林の壮大な植生、山の力強さ、水の轟音、そしてそこに住み、守る先住民の生活にどっぷりと浸かるものです。
レリア・ワニック・サルガドのキュレーションによる本展は、セバスチャン・サルガドが撮影した200枚以上のモノクロ写真で成り立っており、大きく2つのセクションに分かれています。第一セクションは、上空から見たアマゾンの森や川、大気に向かって上昇する大量の水の熱帯雨林、アマゾン流域の生活を特徴づける山岳地帯の地形など、風景ごとに写真が構成されています。
第2セクションではサルガドが多くの旅の中で不滅にした先住民族に捧げられています。その中、450人しかおらず、地球上で最も脅威にさらされているとされるアワ・グアジャ族や外部との接触が最も少ないコルボ族などです。
2017年のサルガドの遠征こそ、ドキュメンタリー映画制作者とジャーナリストのチームがコルボ族と過ごした最初の機会でした。
サルガドは6年間アマゾンを旅して、森や川、山、そこに住む人々を撮影し、作品を通じて先住民族の文化や環境を守る必要性を訴えた。これらの写真に合わせてジャン=ミシェル・ジャールが制作した52分の音楽は、電子楽器とオーケストラ、そして本物の自然の音が混ざり合い、臨場感と没入感を生み出しています。本展はローマの後、サンパウロ、リオデジャネイロ、ロンドンを巡回する予定です。





© Sebastião Salgado/Contrasto.








「Sebastião Salgado amazônia」 |
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会場:イタリア、ローマ、MAXXI |Museo Nazionale delle arti del XXI secolo 国立21世紀美術館Via Guido Reni, 4a, 00196 Roma |
会期:2022年2月13日まで |
休館日:月曜日 |
時間:火曜日~金曜日 11:00~19:00, 土曜日~日曜日 11:00~20:00 |
詳しくは https://www.maxxi.art/en/events/sebastiao-salgado/ |

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アンナラウラ ヴァリトゥッティ(Annalaura VALITUTTI)さん
1975年、イタリアのサレルノ生まれ。ナポリ東洋大学で日本語日本文学を専攻し、「遠野物語」及び「オシラサマ」を専門とする。仕事で数年間日本に滞在し、2011年には東京の慶應義塾大学に留学する。日本芸術や民俗学について特別な関心を持ち、ローマで読売新聞の美術展のコーディネーターやアートアドバイサーとして活躍している。
(読売新聞美術展ナビ編集班)